〝超富裕層〟に対する国税当局の包囲網が狭まっている———。経済取引の国際化に伴い、富裕層や企業による海外への資産隠しや国際的租税回避行為は増加の一途。国際税務に強い弁護士などの専門家を付けて租税回避に全精力を注ぐという過激な動きも出てきているというが、当然、国税庁が黙っているハズもない。国税庁ではここ数年、〝超富裕層〟への監視を強め、調査を強化しているところ。その急先鋒となっているのが一昨年に設置された「超富裕層プロジェクトチーム(PT)」だ。超富裕層に関する情報を片っ端から集めて税目横断的な調査に生かしているという。気になるのは「超富裕層」の定義。そして「超富裕層PT」の具体的な動きだ。

国税庁ではここ数年、「富裕層」への調査に力を入れている。さきごろ発表された平成27事務年度の所得税調査状況によると、同事務年度における富裕層への調査件数は4377件。このうち3480件から申告漏れ等のミスが発覚し、追徴税額は120億円に上ったという。調査件数は前年とほぼ変わらないのに、指摘した申告漏れ所得金額は32%増、追徴税額も20%増と高水準。国税庁の本気度が伝わってくる。

「富裕層」に狙いを定めた国税庁

富裕層に対する調査効率がここへきてが然上がってきている背景に、「超富裕層PT」の存在がある。超富裕層PTは、富裕層に関する情報収集機能を強化するため、平成26年に東京、大阪、名古屋の各国税局に設置された専担チーム。国際課税に精通した「統括国税実査官(国際担当)」 を中心に、所得税や相続税などの各セクションから集められた精鋭によって構成されている。
ターゲットは、富裕層の中でも特に多額の資産を保有していると認められる超富裕層。その家族や関係者、主宰法人、関連法人をまとめて1つのグループとして一体管理し、情報収集やその分析・検討を行っている。
集められた情報は「重点管理富裕層名簿」として国税庁に集約。名簿は、すぐ調査に着手するA区分、多額の資産異動など注視が必要なB区分、経過観察するC区分に分けられており、A区分に分類されると、態様に応じて複数の調査担当部署による連携調査など組織的な調査体制が編成され、総合的な調査が行われるという。恐ろしい話だ。

情報収集のインフラ整備も着々

この何やら恐ろしい超富裕層PT、来年7月以降は全国展開する。国税庁がさきごろ公表した「国際戦略トータルプラン」の中で「超富裕層PTの拡充」と宣言しており、さまざまなインフラ整備とともにその足場を固めつつある。ここでいうインフラ整備とは、近年、時間をかけて築いてきた情報収集制度のこと。
平成10年には、「国外送金等調書」が登場。100万円を超える国外への送金(国外からの受領)について金額や相手の住所氏名などを記載した調書を金融機関から税務署に提出させる制度で、ウソの記載をしたり提出しなかったりした場合には1年以下の懲役または50万円以下の罰金という罰則も設けられている。
平成26年1月には、「国外財産調書制度」が施行。年末時点で5千万円を超える国外財産を所有している人は、その種類や数量、価額などを記載した調書を翌年3月15日までに税務署に提出することになった。同制度には、調書に記載された財産に申告漏れが見つかった場合でも、調書を正しく提出していれば過少申告加算税等が5%軽減されるというインセンティブが設けられている。逆に、調書の提出がない、または正しく記載されていない場合は5%増となる。こちらもウソの記載をして提出した場合または正当な理由がなく提出期限内に提出しなかった場合には、1年以下の懲役または 50 万円以下の罰金という罰則が設けられている。
平成28年1月には「財産債務調書制度」ができた。所得が2千万円超で、かつ、年末時点で合計3億円以上の財産(または合計1億円以上の有価証券)を持っている人は、財産の種類や数量、価額等を記載した調書を翌年3月15日までに税務署に提出する必要がある。もともとは「財産債務明細書」という提出しなくてもペナルティーのない緩い制度だったものを厳格化したもの。今は国外財産調書と同様のインセンティブ措置が設けられている。
このほか、「富裕層は海外に資産を隠す」という傾向があるということで、租税条約等に基づく情報交換制度も急ピッチで整備されている。「要請に基づく情報交換」、「自発的情報交換」、「自動的情報交換」など。このうち「自動情報交換」は、非居住者の金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するもの。外国の金融機関を利用した国際的な脱税への対抗策で、「こんな情報が欲しい」と要請するまでもなく情報がやり取りされるという怖い制度だ。日本では平成30年からスタートする予定。