経済がグローバル化していくなか、税金問題も国際化が進んでいる。OECD(経済協力開発機構)では、「税源侵食と利益移転」(BEPS)に関するプロジェクトを立ち上げ、行動計画を作成。これには日本をはじめG20諸国が全面的に賛同し、各国レベルで実行に移している。日本も課税当局の動きが厳しさを増す中、税の専門家の活躍の場が広がってきた。国際税務のこれまでの流れ、今後の動きについて検証してみた。

世界が国際税務の包囲網(1) BEPSプロジェクトの動向
スターバックスやグーグル、アマゾン、アップルなどの世界的に有名な企業による租税回避行為がマスコミで取り上げられたことはご存知の通りだ。これらの企業による節税スキームは、国による税率の違いを利用し、税率の高い国から低い国へ所得を移転させることによって、グループ全体の納税額を少なくしようとするもの。このような状況を受け、OECD(経済協力開発機構)は平成24年6月よりBEPSプロジェクトを立ち上げた。BEPSとは、Base Erosion and Profit Shiftingの略語で、「税源浸食と利益移転」と訳される。各国の税制の違いや租税条約等を利用して、租税負担を免れていることを指している。平成27年10月5日にOECD租税委員会からBEPSプロジェクトの最終報告書が公表され、G20財務大臣・中央銀行総裁会議にて採択された。
最終報告書は、以下の15の行動計画から構成されており、行動計画ごとに提言が盛り込まれている。

平成27年の税制改正で導入された「国外転出時課税制度」や「国境を越えた役務の提供に対する消費税の課税の見直し」はこの行動計画に対応したもの。
今後、重要性の高いものは、行動計画13の移転価格税制に関する書類の文書化。移転価格の文書化は、租税回避を防止するためのツールの一つである移転価格税制を適正に執行するため、多国籍企業グループ内取引の全体像を各国税務当局に提出することを目的とするもの。作成・提出が必要となる文書は、
- 国別報告書(グループが事業を行う国ごとの所得、納税額、経済活動のグローバルでの配分状況に関する情報等を標準様式に記載)
- マスターファイル(多国籍企業グループの全体の基本情報や事業活動、移転価格ポリシー等を記載)
- ローカルファイル(各国の関連会社の具体的な取引についての情報等を記載)
の3種類。このうち国別報告書は、連結ベースでの年間売上高が7億5000万ユーロ以上(為替レートを133円/ユーロと仮定すると約1,000億円以上)の企業グループを対象に平成28年1月1日以降に開始する事業年度分の報告書から実施される。
なお、グループの親会社がその所在国の税務当局に提出した国別報告書は、租税条約に基づく情報交換の枠組みを利用して各国の税務当局間で共有される予定だ。この文書化については、追加の事務負担や、国別報告が子会社の所在する税務当局に提供されることによる課税リスクの発生が懸念されるため、今後の動向を注視する必要がある。
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