富裕層への国際的な課税逃れ包囲網が築かれつつある。富裕層の海外資産は、実は租税条約により、各国の国税当局間で情報交換されているのをご存知だろうか。また、日本では、海外に移住する水際で課税逃れを防ぐために平成27年度税制改正で、出国税が創設された。この出国税とは一体どんなものなのか・・・

富裕層の海外転出には「出国税」で応戦

平成25年7月19日にBEPS対策として15項目の「BEPS行動計画」が発表され、平成26年9月には第1弾の報告書が公表された。日本では平成27年より反映されている。

一方で、海外の金融機関口座を利用した脱税や租税回避に対処するため、海外の金融口座の情報を税務当局間で自動的に交換する動きも活発化している。日本でも国内法の整備が進められ、富裕層が保有する国外財産の把握にも力が注がれている。

近年の国際課税の潮流は、
①多国籍企業による課税逃れの防止、
②富裕層に対する課税強化
に向けられているのだ。

国際課税のルールでは、株式等のキャピタルゲインは、株式等を売却した者が居住している国に課税する権利がある。これを利用して、日本の居住者が香港やシンガポールなどのキャピタルゲインが非課税の国に移住し、その国の居住者となった後に保有している株式等を売却する動きがここ数年続いている。つまり、税率の低い国で売却すれば、売却益の課税を逃れることできるためだ。

そこで富裕層の租税回避行為に対抗するため、平成27年の税制改正で「国外転出時課税制度」、いわゆる「出国税」が創設された。同制度は、富裕層が、一定額以上の有価証券等を保有したまま海外に出国する場合、出国時にその有価証券等を売却したとみなして、未実現のキャピタルゲインについて所得税を課税するもの。アメリカ、ドイツ、イギリス、フランス、カナダなどの先進国では既に導入されている。

日本の課税ベースが海外移住によって浸食されることを防止することが目的であり、BEPSプロジェクトの行動計画を踏まえてのものだ。

課税の取り消しはかなり厄介な手続き

出国税は、
①出国時に総額1億円以上の有価証券等を保有、
②出国の日前の10年間で5年を超えて国内に居住、
の両方を満たした者が課税の対象となり、平成27年7月1日以降の出国について適用されている。ただし、出国後、5年以内に資産を保有したまま帰国した場合には、課税の取り消しを求めることができる。また、海外転勤などで後に帰国を予定している人や出国時に納税ができない人のために納税が猶予される仕組みも設けられている。この納税の猶予を受ける場合には、出国時までに納税管理人の届出を行い、担保の提供を行わなければならない。かなり厄介な手続きが必要となる。

出国税の対象となる有価証券等には、株式に加え、投資信託や公社債、匿名組合契約の出資の持分、デリバティブ取引なども含まれており、範囲が広くなっている。

さらにこの出国税は、1億円以上の有価証券等を所有する居住者から、海外に居住する親族等に相続や贈与で有価証券等が移転したときにも適用される。たとえば、贈与のケースでは、日本に住む両親や祖父母が海外に居住する子供や孫に有価証券等を贈与した場合、贈与時に当該有価証券等を譲渡したものとみなし、その含み益に所得税が課税される。

同制度は、富裕層が租税回避目的で行った海外移住に対してのみならず、租税回避が目的ではない純粋な仕事上の理由による海外移住者であっても、一定額以上の資産を有していれば課税の対象となる。また国外転出に関わらず、相続や贈与で非居住者に財産が移転した場合にも適用されることもある。