個人事業主・自営業者も条件を満たしていれば家族の扶養に入れます。ただし、税法と社会保険で扶養に入る条件が異なるため注意が必要です。今回は個人事業主・自営業者が扶養に入る方法や、扶養に入るメリット・デメリットを解説します。

この記事の目次

個人事業主・自営業者が扶養に入る方法

個人事業主・自営業者の場合でも、条件を満たせば家族の扶養に入ることが可能です。

ただし、扶養には税法上の扶養と社会保険上の扶養の2種類が存在し、それぞれ扶養に入るための条件が異なります。

すなわち、ケースによっては税法上・社会保険上どちらか一方の被扶養者にしかなれない事態も起こり得るのです。

この章では、税法上・社会保険上両方について、個人事業主・自営業者が家族の扶養に入る条件および方法を解説します。

税法上の扶養に入る条件

税法上の扶養に入るため、被扶養者は以下の条件をすべて満たす必要があります。

  • 以下いずれかの関係に該当する
    • 配偶者
    • 配偶者以外の親族
      ※親族に該当するのは、6親等以内の血族および3親等以内の姻族です
    • 市町村長から養護を委託された高齢者(70歳以上)
    • 都道府県知事から養護を委託された里子
  • 納税者である扶養者と生計を一にしている
  • 年間の所得額合計が48万円以下である
    ※給与収入のみの場合、年収が年間103万円以下であれば所得要件を満たします
  • 該当の年において、青色申告者の事業専従者としての給与を一度も受けていない・白色申告者の事業専従者に該当しない

特に重要なのが所得要件です。

収益と所得はイコールではなく、原則として収益から必要経費を差し引いて所得額を計算する必要があります。

前述したように所得が給与収入のみであれば、年収が103万円以下であれば要件を満たすと明確であり、わざわざ所得を計算する必要はありません。

個人事業主・自営業者の収入は給与に該当しないため、税法上の扶養に入る条件を満たすか判断するためには所得の計算が必要です。

社会保険上の扶養に入る条件

続いて、社会保険上の扶養に入る条件の紹介です。

社会保険上の扶養に入るためには、以下すべての条件を満たす必要があります。

  • 被保険者の配偶者・3親等以内の親族・その他同一生計の事実がある者(事実婚など)
    ※直系尊属・配偶者・子・孫・兄弟姉妹は同居の有無を問いません。それ以外の場合は同一世帯である必要があります
  • 75歳未満である:75歳以上の人は後期高齢者医療制度の対象となります
  • 年収が130万円未満(60歳以上または障害厚生年金が受給できる程度の障害者の場合は180万円未満)であり、かつ、被保険者(扶養者)の2分の1以下

個人事業主・自営業者が社会保険上の扶養に入れるか考える際、年収が重要なポイントとなります。

年収の条件を満たすか判断するにあたって、事業収入の額をそのまま年収として使うわけではありません。

全国健康保険協会が提示している「被扶養者資格の再確認と提出のお願い」の中で、自営業者の年収の計算方法について以下のように記載があります。

「Q5 自営業の場合の年収確認はどのように行えば良いですか。

A5 自営業の方の年収は、年間総収入から直接的経費※を差し引いた額となります。

※直接的経費とは、その経費がなければ事業が成り立たない経費(例:製造業における原材料費、小売業における仕入れ費)であり、それ以外の費用(例:公租公課、宣伝費)は差し引くことはできません。」

引用元|全国健康保険協会 被扶養者資格の再確認と提出のお願い

すなわち、事業収入から仕入高・製造原価の材料仕入高を差し引いた額を、年収の条件の判断基準として用います。

所得の計算においては、事業に関する支出すべてを必要経費として収入から差し引くと紹介しました。

上記の例に出てくる公租公課や宣伝費も、所得の計算に際しては必要経費として扱います。

一方で社会保険の被扶養者となる条件を満たすか判断するために年収を計算する際、必要経費すべてを差し引けるわけではありません。

収入から差し引ける範囲がより狭く設定されています。

どこまで直接的経費に該当するか、入念なチェックや正しい判断が必要です。

個人事業主・自営業も条件を満たせば扶養に入れる

これまで紹介したように、扶養に入る条件として働き方に関する項目は存在しません。

すなわち個人事業主・自営業者であっても、条件を満たせば家族の扶養に入れるのです。

個人事業主・自営業者が被扶養者となる条件を満たしているか判断するためには、所得および年収の正しい計算が必要です。

そして、計算方法や経費に含める範囲の誤りが起きると、所得・年収の計算結果にもズレが生じてしまう恐れがあります。

自身の所得および年収が被扶養者となる条件を満たしているか正しく判断するためには、専門家に相談するのが安心です。

扶養に入るために必要な手続き

続いて、個人事業主・自営業者が扶養に入るために必要な手続きを解説します。

なお、税法上・社会保険上いずれも被扶養者である個人事業主・自営業者が行う手続きはそれほど多くありません。

扶養者となる家族が行う手続きが中心となります。

※今回は一般的なケースとして、扶養者が会社勤めの場合について解説します。

税法上の扶養に入るための手続き

税法上の扶養に入るためには、扶養者が勤め先である会社に、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出する必要があります。

給与所得者の扶養控除等(異動)申告書は、国税庁の公式サイトからダウンロードが可能です。

勤務先の担当者に依頼して受け取るケースも多いため、まずは勤務先にご相談ください。

申告書の該当箇所に被扶養者である個人事業主・自営業者に関する必要事項を記入し、担当者に提出しましょう。

社会保険上の扶養に入るための手続き

社会保険上の扶養に入るためには、健康保険被扶養者(異動)届を作成し、年金事務所へ提出する必要があります。

被保険者が自身で記入するか、人事労務の担当者が記入するかは会社によって異なるため、勤務先にご確認ください。

会社側で作成する場合は、記載が必要な事項について会社から質問されるため正しく回答しましょう。

多くの場合、被扶養者となる条件を満たしていることを証明する書類の提出も必要です。

必要な書類はケースによって異なりますが、以下の例が挙げられます。

  • 被保険者の収入額を証明できる書類:確定申告書のコピーなど
  • 被扶養者の住民票・戸籍謄本などのコピー

個人事業主・自営業者が扶養に入るメリット

個人事業主が・自営業者が扶養に入るメリットとして、以下の2つが挙げられます。

  • 配偶者や家族が控除制度を活用できる
  • 社会保険上の扶養に入れば、国保・国民年金の支払い義務がなくなる

それぞれ詳しく解説します。

配偶者や家族が控除制度を活用できる

個人事業主・自営業者が扶養に入ることで、扶養者である配偶者や家族は税法上の控除制度の適用を受けられます。

配偶者の場合は配偶者控除、それ以外の家族の場合は扶養控除が適用されます。

それぞれの内容は以下の通りです。

  • 配偶者控除:扶養者である納税者の所得額に応じて一定額の所得控除を受けられる制度。控除の最大額は38万円(老人控除対象配偶者の場合は48万円)
  • 扶養控除:被扶養者の年齢および同居の有無に応じて一定額の所得控除を受けられる制度。控除の最大額は63万円

所得控除を受けることで所得税の課税対象額が小さくなるため、所得税の節税につながります。

社会保険上の扶養に入れば、国保・国民年金の支払い義務がなくなる

社会保険上の扶養に入れば、被扶養者である個人事業主の国保・国民年金保険料の支払い義務がなくなります。

国民健康保険・国民年金保険の保険料は決して小さくないため、保険料の支払い義務がなくなるのは大きなメリットです。

なお、社会保険料を決める要素は標準報酬月額のみであり、扶養家族の人数による影響を受けません。

すなわち個人事業主・自営業者が社会保険の扶養に入っても、扶養者である家族の負担が増えることはないのです。