近年の経済取引の広域化、国際化及びICT化により、脱税の手法が巧妙化している中、国税査察官は、経済社会情勢の変化に対応し、悪質な脱税者の摘発に全力を挙げている。平成27年度には、115件を検察官に告発。脱税総額は138億円、告発事件1件当たりの脱税額は9700万円に上った。国税庁や税務署などで要職を務めたOBで組織する租税調査研究会の主任研究員で査察部出身の衛藤重徳税理士に国税局査察部(マルサ)の仕事について聞いた。

――いわゆる「パナマ文書」の流出により、富裕層のカネの流れの一部が明らかになりました。これにより、国税当局も動くとの期待もありましたが、マルサは動いたのでしょうか。

租税調査研究会主任研究員・衛藤重徳税理士

衛藤 刑事告発できるような悪質な脱税行為でもない限りマルサが査察調査に入ることはありません。相当な情報を掴まない限りマルサは動かないため、現在も情報収集と収集した情報の分析を行っていると思います。

査察調査は、一般の税務調査とは全く違います。一般の税務調査は「任意調査」といわれ、調査に入るにあたっては納税者の同意を得て行われます。税務調査では、基本的に納税者側へ「○月○日に調査に伺いたいのですがよろしいですか」と電話で確認します。日時を決めて、納税者と関与税理士に調査の協力を得るのです。

無予告で調査する場合もあります。例えば、調査が入ることが事前に分かるとお金や伝票類を隠しかねないような現金商売の業種に対しては、無予告調査が行われます。しかし、一般の税務調査では、無予告といっても電話での事前連絡がないだけで、調査に入る直前には納税者に同意を得ます。

一方、「査察調査」は「強制調査」といわれ、裁判所から令状(臨検、捜索、差押)を取って行われるので、相手方の同意を必要としません。検察への告発を目的にしていますから、TVで見る刑事ドラマの捜査によく似ています。そのため、マルサでは調査のことを「ガサ入れ」などと言います。

――テレビニュースなどで、国税局が大人数で企業に乗り込むシーンがありますが、あれがマルサの査察調査ですね。

衛藤 まさしくあれです。査察調査は悪質な脱税行為、そして脱税額が大きなケースを中心に調査しますので、幅広く、かつ、収集漏れがないように行います。従って、調査場所も動員数も必然的に多くなります。 なお、テレビニュースのシーンはバブルが弾けた頃の大型案件に係るものです。査察調査への着手は査察部以外には秘密で行われているので、現在においてはマスコミに漏れることは全くと言っていい程ありえません。
査察調査の凄い所は、表に出ない水面下で活動しているところで、多くの査察官が厳しい条件の下で、脱税者の摘発のため努力しているところだと思っております。

――マルサはどのように情報収集をしているのですか?

衛藤 今も昔も大きくは変わらないと思いますが、マルサの情報収集の一つに、テレビや写真週刊誌、雑誌などがあります。おそらく、査察部門では、主要な週刊誌はほとんど購読しているでしょう。

お金使いの荒い経営者などを見つけては、使いっぷりの割に納税額が低い、会社の売り上げもよくないなどとなれば、脱税しているのではないかと目を付け、その経営者の周辺を徹底的に調べ上げていきます。

課税部や調査部が調査していた案件が、マルサに引き継がれることも少なくありません。

個人課税部門や法人課税部門で調査を進めていたものの、脱税行為が悪質で金額が大きいなどと判断されると、マルサが動きます。

査察は他部署からの情報収集にも力を入れています。国税庁の色々な部門から調査案件を掘り出すことも重視しているのです。
結果として違法でない限りは、色々な知恵と方法で情報収集しているということです。