預貯金が引き出せなくなる?
しかし今回の大法廷の初判断により、金融機関は最高裁判例の「お墨付き」を得たことになる。共同相続人全員の合意がなければ個別の引き出しに応じないケースが増えるものと思われる。遺産分割協議が長引けば、その分、預貯金が塩漬けになる。相続発生から10カ月後に到来する相続税の申告期限に間に合わず、納税に支障をきたすケースが出てくる可能性もある。
たとえば、「被相続人の債務を弁済する必要がある」、「被相続人から扶養を受けていた共同相続人の当面の生活費を支出する必要がある」、などの事情で被相続人の預貯金を遺産分割前に払い出す必要があるにもかかわらず、共同相続人全員の同意を得ることができない場合に不都合が生じる可能性が考えられる。この点、今回の大法廷の裁判官の補足意見では、「現行法では、特定の共同相続人の急迫の危険を防止するために、相続財産中の特定の預貯金債権をその共同相続人に仮に取得させる仮処分等を活用することが考えられる。今後、家庭裁判所の実務で適切な運用に向けた検討が望まれる」としている。
判例の「射程範囲」に関心も
今回の事件では「預貯金」が遺産分割の対象かどうかが問題となり、「普通預金債権、通常貯金債権および定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる」という結論となった。それでは預貯金以外の金銭債権はどうなるだろうか。決定理由には他の金銭債権についての記述はないが、判決が預貯金特有の性質を前提として導かれているものであるため、預貯金に限定されたものでる可能性が高いと思われる。また、過去の遺産分割への遡及の可能性も気になるところ。今回の初判断を受けた今後の動きにも注目が集まる。
(*注)可分債権:性質上分割が可能であり、分割給付を目的とする債権。例えば、売買代金や預金などの金銭債権は可分債権。一つの可分債権 に複数の当事者が生じた場合は、原則、平等の割合で分割される( 民法427条)




