令和5年度改正でも電子帳簿保存法は大きな改正が行われました。改正全体の概要について解説します。

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令和5年度税制改正においては、インボイス制度の円滑な実施と併せ、インボイスを電子で交付する場合の保存要件となる電子帳簿等保存制度の見直しも行われました。

よく、インボイスと電子取引データ保存の義務化が同時に来られるから困るという声を聴きます。

これらはデジタル化の進展を背景として、インボイス制度の実施により、企業経理業務が大きな変革を求められる中、そのインフラとして、インボイス制度の実施にあたって障害と思われる事項を取り除き円滑に実施できるよう環境を整備するものでもあります。

また、今後、消費税の仕入税額控除のメイン証憑となると考えられる電子データによるインボイス、いわゆる電子インボイスについての保存要件となる電子帳簿保存法の改正を行い、税務手続のデジタル化を推進し、経理の電子化による生産性の向上、事務の効率化を進め、官民含めたデジタル・トランスフォーメーションを推進することを念頭においた一連の改正と言えるものです。

今回は、これらの令和5年度改正全体の概要について解説します。

1. 令和5年度改正の改正項目

令和5年度税制改正では、大きく次の3項目についての改正がありました。

  • 過少申告加算税の軽減措置の対象となる優良な電子帳簿について、その範囲を合理化・明確化することとされたました。
  • スキャナ保存制度については、制度の利用促進を図る観点から、更なる保存要件の緩和措置を講ずることとされました。
  • 電子取引の取引情報に係る電子データの保存制度については、電子取引データを保存要件に従って保存をすることができなかったことにつき相当の理由がある事業者等に対する新たな猶予措置を講ずることとされ、検索機能の確保の要件についても緩和措置が講じられました。

2. 政府税制調査会における議論

令和4年11月8日の政府税制調査会総会における「納税環境整備に関する専門家会合の議論の報告」では、専門家会合で出された電子帳簿保存法に関する意見について、次の内容の報告が行われています。

これらの報告された意見の内容をみると、優良な電子帳簿については対象帳簿の見直しについて、スキャナ保存については利便性向上のための更なる簡素化について、電子取引については企業の対応状況を踏まえたさらなる緩和措置について言及がなされています。

今回の改正は、この税制調査会での議論を踏まえた改正であると言えます。

(1)優良な電子帳簿について

  • 優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の対象帳簿について、必要とされる範囲の外縁を明確化するなど、インセンティブ措置が利用しやすいようにすべき。
  • 優良な電子帳簿の普及を通じて、税務手続上、イメージデータで提出している書類を、電子的なCSVファイルという形で提出される方向に取り組んでいくことが望まれるところであり、税目ごとに取扱いが違うということにならないようにすべき。
  • 優良な電子帳簿のトレーサビリティの要件について、仕訳帳・総勘定元帳で十分ではないか。

(2)スキャナ保存について

  • 請求書等を保存する方法としてスキャナ保存制度がある中で、制度の利用に当たっては、タイムスタンプの付与機能を有するようなスキャナ等を買えばいいという話だが、小規模な事業者の6割近くがコンピューターではなく、手書きで計算をしているので、そもそもスキャナ複合機の購入まで行かないことから、制度の活用が難しいところはある。
  • スキャナ保存について、利便性向上のため、さらなる簡素化を行うべき。

(3)電子取引について

  • 電子取引の取引情報に係るデータの保存について、宥恕措置により適用が延長されたが、企業の対応状況を踏まえつつ、必要に応じ、さらなる緩和措置を取るべきであり、中小事業者がどういう準備をすればよいか、制度周知に努めるべき。