女性記者のひとりごと vol.2 縄張り
長く税金記者をしていると「調査官の本音」を耳にすることもある。
例えば「リョーチョー」と「マルサ」の縄張り争いは興味深い。

リョーチョーとは、国税局課税部の資料調査課の通称。
税務署の調査事案の中でも悪質で高額な事案は国税局の
リョーチョーに吸い上げられる。
マルサは、言わずと知れた国税局査察部の通称。
悪質で金額も大きい事案のみを扱い、
検察に告発することが目的の強制調査だ。
いずれも同じ国税局内にあるのに、
水面下で「取った」「取られた」の攻防が展開している。
例えばリョーチョーの事案でも、
すごく悪質だったり金額が大きかったりすると
「査察事案」に切り替わることがある。
でもリョーチョーにしてみれば、時間をかけて
調査してきた〝ヤマ〟が「横取り」される気分なんでしょう。
相当悪質で脱税額も大きければ仕方ないにしても、
悪質度も脱税額も微妙な規模の場合は、
マルサに取られないよう手持ちの「情報」を小出しにして、
マルサに興味を持たせないようにすることもあるとかないとか。
「大きなヤマ」ほどモチベーションが上がるのは官も民も同じのようだ。
まあ納税者にしてみれば、
マルサ事案になって「犯罪者」にされるよりは、
重い重加算税が取られても
リョーチョー事案にしてもらった方がいいはず。
微妙な金額の「脱税事件」を目にすると、
ついそんなことを考えてしまう。

著者: 川瀬かおり
記者/税金ライター
社会部を根城とする税金オタクの女性記者。財務省・国税庁を中心に取材活動を展開すること20余年。事件モノを得意とし、裁判所にも日参する。税金ネタをこよなく愛する一方で、税制の隙間や矛盾を見つけては叩きまくるサディスティックな一面も。趣味は夜討ち朝駆けとクラブ通い。