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会社都合で「出向」「転籍」  税務の取り扱いで損金不算入も

丸大食品がさきごろ、販売子会社の丸大フード(大阪・大阪市)に出向中の130人の社員を対象に、出向先への転籍者を募集すると発表した。出向・転籍に係る税務上の取扱いは、国税庁の通達で規定されているが、企業活動の多様化で実務と通達との融合を図っていくことが重要となっている。税務処理の注意点に迫った。

丸大食品から丸大フーズへの転籍予定日は4月1日。転籍者には、退職金に加えて特別加算金を支給するとしているが、丸大食品では、子会社社員との待遇差を是正し、固定費の圧縮でコスト競争力を高める狙いがある。丸大食品は今回の転籍で2017年3月期に特別損失を計上する予定だが、業績への影響額はハッキリしていない。
さて、最近では、大企業のみならず中小企業でも、「出向」「転籍」が増えている。企業が自社の社員を関連会社や取引関係企業に出向・転籍させるのは、概ね関連会社等に対する技術指導をはじめ、社員の能力開発、中高齢者の処遇、会社分割に伴う従業員移転などの理由からだ。中には、中高齢者のリストラ対策などの意味合いがあったりする。

出向者に対する給与負担

出向・転籍の理由はさまざまだが、これに伴う税務上の取扱いは、給与・退職金負担など法人間の関係によって注意が必要だ。
一般的に出向は、出向元法人の使用人としての身分上の地位や雇用関係を維持したまま、他の法人に派遣され、その法人の指揮命令の下で業務に従事することをいう。この場合、出向者は、出向元法人と出向先法人との両方において、二重の雇用関係が生じる。
一方、転籍は、転籍前の法人の意思により、雇用関係が終了させられ、転籍後法人との間に雇用関係が発生するもの。出向と転籍の大粋な違いは、出向・転籍先企業の指揮命令下で業務を行うものの、出向は出向元法人との雇用契約が従前通り維持・継続されるのに対し、転籍は、転籍前法人との身分関係が絶たれる点にある。

注意が必要な給与の支給方法

出向者に対して支給する給与は、基本的に出向先法人が負担するのが原則だ。支給方法としては、①出向先法人が直接出向者に支給する方法、②出向元法人が出向者へ給与を支給し、出向先法人から出向元法人へ給与負担金を支払う方法の2つの方法が考えられる。
いずれの方法にしても、出向先法人が支出した給与は、出向者に対する給与となる。ただ、所得税の源泉徴収については注意が必要。源泉所得税は、「出向者に給与等を支給する者が源泉徴収義務者」となっている。そのため、出向者に対する給与の源泉徴収義務者は、直接支給の場合には出向先法人、間接支給の場合には出向元法人となるのだ。また「給与所得者の扶養控除等申告書」の提出先については、直接支給の場合は出向先法人となり、間接支給の場合は出向元法人に提出することになる。もし、出向先法人が経営指導料等の名義で、実質的に給与の性質を有する金額を支出したとしても、出向先法人における出向者に対する給与として扱われる。

役員として出向している場合

「部長が子会社に役員で出向」なんてケースがあるが、このときよく問題になるのが、出向した役員給与を、出向先法人が負担する給与負担金が税務上どうなるのかということ。法人税法では、損金算入される役員給与は「定期同額給与」「事前確定届出給与」「一定の利益連動給与」とされているため、出向先法人が負担する給与負担金が、上記のいずれかに該当すれば損金算入できる。平成29年度税制改正では、利益連動給与について一部取り扱いが拡大されたのでさらに注意が必要だ。
出向先法人が支出する、出向してきた役員給与の損金算入については、法人税基本通達で、
① 当該役員に係る給与負担金の額につき当該役員に対する給与として出向先法人の株主総会、社員総会又はこれらに準ずるものの決議がされていること。
② 出向契約等において当該出向者に係る出向期間及び給与負担金の額があらかじめ定められていること。
のいずれにも該当するときに、出向先法人で損金処理できるとされている。
ポイントは、出向先法人が負担する、役員給与が「定期同額給与」なのか、「事前確定届出給与」なのか、その判断は出向先法人の支給形態によって判定するという点。実務上は、出向先法人において、株主総会や社員総会等の議事録を作成・保存するので、出向契約書、協定書、覚書などに出向期間や給与負担金額などを明確に明記し、課税当局から損金不算入の取り扱いを受けないような対策をしておくことが重要だ。

出向元法人が較差補填金を支払う場合  

さて、大企業ではありがちなのが、出向元法人と出向先法人との間で給与水準に格差がある場合。こうしたケースでは、出向元法人がその給与水準の差額を負担することがある。
税務処理的には、出向元法人が出向先法人との給与条件の較差を補填するため出向者に対して支給した給与の額は、その出向元法人の損金の額に算入することができるとされている。
一方、出向元法人が、出向者に支給する給与を全額負担することもあるが、このとき課税当局は通常より厳しい目を向けているので注意が必要だ。何を課税当局は問題視するかというと、全額負担する「合理的理由」だ。合理的理由が認められなければ、その給与負担額を出向先法人に対しての寄附金扱いされる。つまり、贈与があったと判断されるのだ。
国税OB税理士によれば、合理的理由に該当するのは、「出向元法人側の事情により使用人を出向させる場合で、出向先法人側ではその受入れたことによる利益がないと考えられるケース」と言う。たとえば、下請けの企業に、下請製品の検査、検量または生産、加工の監督業務等のために出向させている場合、業績不振の融資先法人に対して、その資産管理等のために出向させている場合などはよくあるケースとしている。

転籍者の退職金の取り扱いは要注意

「転籍」税務の注意点は、「出向」税務と違いポイントは退職金。基本的に転籍は、転籍前法人との雇用関係が終了することから、転籍先法人との給与補てんなどの問題は発生しない。しかし、転籍者が転籍後に退職するときに支払う退職金については、税務上、さまざまな問題が生じる。というのも、転籍前法人と転籍後法人の在籍期間を通算して退職金を支給するケースも多いためだ。
この場合、その負担区分等に基づいて転籍前法人と転籍後法人がその転籍者に退職金を支給したとしても、その退職金はそれぞれの法人における退職金として取り扱われる。
ただし、転籍前法人及び転籍後法人が支給した退職金の額のうちに、これらの法人の他の使用人に対する退職給与の支給状況、それぞれの法人における在職期間等からみて明らかに相手方法人の支給すべき退職給与の額の全部又は一部を負担したと認められるものがあるときは、その負担したと認められる部分の金額は、相手方法人に対する寄附金とみなされる可能性も有る。

著者: 宮口貴志

KaikeiZine編集長

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。現在は租税研究会の事務局長であり、会計事務所ウオッチャーとしても活動。
■税と経営の顧問団租税調査研究会
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