平成28年は、熊本や鳥取での大地震をはじめ台風・集中豪雨などの自然災害が多く発生したほか、暮れには新潟県糸魚川市で多くの人が焼け出された「糸魚川市駅北大火」が起こった。災害に遭った場合は、確定申告において雑損控除や災害減免法による税金の軽減措置がある。2月16日からは、平成28年分所得税等の確定申告が始まることから、税務上の取り扱いを抑えておきたい。

(提供:糸魚川市)

昨年12月22日午前10時20分頃、糸魚川市大町1丁目のラーメン店で大型コンロの消し忘れから出火した「糸魚川市駅北大火」は、最大瞬間風速27.2m/sの強風に煽られ、木造建物が集中する街を1日以上にわたり焼き尽くし、その焼失面積は約4万㎡におよんだ。焼損棟数は147棟(全焼120棟、半焼5棟、部分焼22棟)、120世帯224人が被災し負傷者が17人出たものの、幸いなことに死者はいなかった。
火災による住宅や家財などに損害を受けたときは、所得税法に定める雑損控除か災害減免法に定める税金の軽減免除のどちらかを受けられる。どちらを選択するかは個人に委ねられ、適用することで所得税及び復興特別所得税の全部または一部を軽減できる。これら制度は、火災のほか、地震や集中豪雨などといった災害、盗難若しくは横領における被害の場合にも適用できるが、確定申告を行うことが条件だ。

雑損控除は計算方法が2種類

さて、前述した雑損控除とは、納税者または納税者と「生計を一」にする配偶者やその他の親族(その年の総所得金額等が38万円以下)の資産が、①震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害、②火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害、③害虫などの生物による異常な災害、④盗難、⑤横領により損害を受けた場合に、以下の2つの計算のうち、いずれか多い方の金額を控除できる制度だ。対象となる損失原因には、盗難や横領といった犯罪に伴う被害も対象とされているが、詐欺や恐喝といった犯罪は含まれていないため、高齢者がよくターゲットとされる家族になりすましATM口座に現金を振り込ませる“オレオレ詐欺”や未公開株・社債等の有価証券、外国通貨等の売買勧誘等をめぐる“金融商品等取引名目の特殊詐欺”などは対象外。なお、保険金や損害賠償金などにより補てんされる金額は損失金額から控除する。

1)(差引損失額)-(総所得金額等)×10%
2)(差引損失額のうち災害関連支出の金額)-5万円

一方の「災害関連支出」は、災害により滅失した住宅、家財を除去するための費用や豪雪による家屋の倒壊防止のための費用などが該当することから、業者を頼み実費を払って行った雪下ろし費用も対象となる。
対象となる資産は、全ての資産とはいかず、棚卸資産若しくは事業用固定資産、山林、「生活に通常必要でない資産」は除かれる。この「生活に通常必要のない資産」とは、例えば、別荘など趣味、娯楽、保養または鑑賞の目的で保有する不動産(平成26年4月1日以後は同じ目的で保有する不動産以外の資産(ゴルフ会員権など)も含む)や、貴金属、書画、骨董など1個または1組の価額が30万円超のものなどの動産をいう。

「損失額の合理的な計算方法」の利用を検討

実際の家財等の損害金額の算出方法だが、損害を受けたときの直前におけるその資産の時価を基に計算する。なお、損害を受けた資産が減価償却資産の場合には、平成26年分からその資産の取得価額から減価償却費累積額相当額を控除した金額を基礎として、損害金額を計算することができように見直されている。
しかし、糸魚川市駅北大火のようなケースでは、損害を受けた資産について個々に損失額を計算することは不可能。そのため、このような場合には、「損失額の合理的な計算方法」により計算をすることが認められている。
住宅の場合だが、損失額の計算は、取得価額が明らかかどうかより変わってくる。取得価額が明らかな場合は、住宅の取得価額から、取得の時から被災した時までの期間の減価償却費の合計額を差し引いた額に被害割合を乗じた金額となる。
減価償却費は、「取得価額×0.9×償却率(下表参照)×経過年数(1年未満の端数は、6か月以上は切り上げ、未満は切り捨て)」で算出し、被害割合(住宅及び家財とも)は、全壊・倒壊等の場合はもちろん100%、半壊(住宅の主要構造部の被害が住宅の2割以上5割未満など)は50%、一部損壊(半壊程度以下だが、相当の復旧費を要する)は5%とされている。
取得価額が不明な場合には、住宅の所在地域及び構造により「地域別・構造別の工事費用表」により求めた住宅1㎡当たりの工事費用に、住宅の総床面積(事業用部分除く)を乗じた額から、取得時から被災した時までの期間の減価償却費の額の合計額を差し引いた金額に被害割合を乗じて算出する。ちなみに、新潟県(平成28年分用・1㎡)では、木造16.7万円、鉄骨鉄筋コンクリート造23.3万円、鉄筋コンクリート23.2万円、鉄骨造21.9万円となっている。なお、「地域別・構造別の工事費用表」について、該当する地域の工事費用が全国平均を下回る場合には、全国平均の工事費用で計算してかまわないとされている。

家財(車両を除く)の損失額の計算方法だが、住宅同様に取得価額が明らかかどうかより変わってくる。取得価額が明らかな場合は、各家財の取得価額から、取得の時から被災した時までの期間の減価償却費の合計額を差し引いた額に被害割合を乗じた金額となる。
取得価額が不明な場合には、家族構成等の別で判断することとなり、その際は世帯主の年齢、夫婦・独身のほか、大人・子供別の加算額などに分けられた「家族構成別家財評価額」(下表参照)により求めた額に被害割合を乗じた金額となる。

このほか、車両の損失額の計算方法だが、車両の取得価額から、取得時から被災したときまでの期間の減価償却費の合計額を差し引いた額に、被害割合を乗じた金額として計算する。ただし、車両の場合に気をつけたいのは、生活に通常必要な資産と認められている場合に限るということ。国税当局では、「自己または自己と生計を一にしている配偶者その他親族が、もっぱら通勤に使用している」など、車両の保有目的、使用状況等を総合勘案して判断するとしているが、車で会社まで通勤してなくても毎朝、家族を最寄り駅まで送迎している場合などは所轄税務署に確認したほうがよい。国税当局も鬼ではないから、じっくり相談してみる価値はある。