国税不服審判所では現在、平成30年7月採用の特定任期付職員(国税審判官)を募集している。税理士や弁護士等にとって国税の審査請求に係る事件の調査・審理等に直接携わることができるとともに、再び士業に戻った時にも業務に役立つとして注目されているこの特定任期付職員について、この機会に仕事内容や待遇等について触れてみたい。

特定任期付職員登用は「第三者的機関」を明確にする意図も

国税不服審判所が税理士、弁護士、公認会計士等の民間専門家を特定任期付職員(国税審判官)として採用した経緯は、大きく2点ある。

まず1点が、近年の経済取引の国際化・広域化などを背景に国税不服審判所への審査請求事案が複雑化・困難化していることから、高度な専門知識・経験・ノウハウを有する専門家が必要となってきたこと。

もう1点は、国税不服審判所が税務行政部内における公正な第三者的機関として、適正かつ迅速な事件処理を通じて納税者の正当な権利利益の救済を図るとともに、税務行政の適正な運営の確保に資することを使命とし、国税に関する法律に基づく処分についての審査請求に対する裁決を行う機関であることから、納税者(審査請求人)と税務署等との間に立ち、審査請求事件の審理の中立性・公正性を向上させる必要があること。実際、国税不服審判所長、東京・大阪の首席国税審判官等には、裁判官または検察官出身者が任命されるが、その他は国税職員が異動により国税不服審判所の審判官等となり裁決を行っていることに対して、実務家や納税者が疑問を呈していた。

このようなことから高度な専門知識・経験・ノウハウを持つ一定の資格者であることに加え、国税に関する学識経験のあるものを採用することで、構成・中立な不服審査機関としての組織の独立性も高めることとなった。

税制改正大綱に伴い外部登用の工程表を作成

特定任期付職員の採用については平成19年から行われており、初年度は4人、20年は1人、21年は3人と僅かだった。しかし、平成23年度税制改正大綱において、「納税者の簡易・迅速な権利救済を図り、審理の中立性・公正性を高める観点から、行政不服審査制度全体の見直しの方向を勘案しつつ、不服申立ての手続、審判所の組織や人事のあり方について見直しを進める」との文言が付されるとともに、①民間からの公募により年15名程度の採用、②3年後の平成25年までに50名程度を民間から任用することとされ、これを受けた国税不服審判所は、事件を担当する国税審判官の半数程度を外部登用者とする「国税審判官への外部登用の工程表」を設けた。そして、この工程表に基づいて、採用試験が行われ平成23年~25年の3年間は15~17名が採用され25年度に在籍者数は50名に達した。その後は、退職者分を補充する形で平成28年の49名を除いて50名を維持している。

(表1)特定任期付職員(国税審判官)採用状況

応募には十分な民間実務経験が必要

特定任期付職員の応募条件だが、上記の通り、税理士、弁護士、公認会計士の士業、大学の教授若しくは助教授の職にあった経歴を有するとともに、 十分な民間実務経験や大学における教育・研究実績を有していることとされている。この「十分な民間実務経験」の内容だが、資格取得後の経験年数を持って判断しないとされており、実際、実務経験が3年程度の者も採用されてはいるが、平均では10年程度となっていることから、それなりの経験を積んだ“油の乗った人材”が採用されていることが伺える。また、年齢制限に関しては特別に明示されておらず、「税理士等の職にあった経歴を有する者」とされている。したがって、現在、税理士業務や弁護士業務を行っている者の他、資格の登録を抹消している者であっても応募は可能だ。

仕事内容は、1)国税不服審判所長に対してされた審査請求に係る事件の調査・審理を行うため、個別事件ごとに合議体の担当審判官または参加審判官として、質問・検査・証拠書類の収集等を行うこと、2)審査請求事件の進行管理を的確に行うとともに、適正かつ迅速に事実の認定及び税法等の解釈を行うこと、3)調査・審理の結果に基づき、合議体を構成する他の国税審判官等と公正妥当な結論に達するよう議論を尽くし、その議論の結果を踏まえ、適正かつ迅速に議決書を作成すること。もちろん、採用前に勤務又は関与していた者に関連する審査請求事件は担当しない。

勤務体系は、土曜日、日曜日、祝日法による休日、年末年始(12月29日から1月3日)のほか、年次休暇や夏季休暇等の特別休暇などがあり、勤務時間は原則1日7時間45分とされている。

任用期間は、原則3年間だが2年間とすることもできる。また、採用日から5年間を超えない範囲内において、その任期を更新(延長)することが可能となっている。

気になる採用後の年収など待遇面は

採用試験に合格すると、一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律(任期付職員法)及び給与の特例に関する法律に基づいて常勤職員の国家公務員として採用される。したがって、 国家公務員法に基づく守秘義務や兼業制限及び再就職規制等が適用されるので、税理士業務や弁護士業務は行えない。そして任用期間が満了した離職後は、弁護士法第25条、公認会計士法第24条第3項及び税理士法第42条等の制限が適用される。

給与は、年収ベースで830万円~1千万円程度(賞与<期末手当>を含む)と幅がある。同じ公務員なのにと思ってしまうが、これは配属された支部により地域手当額に差があるため。なお、一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する法律の規定により残業手当は支給されず、通勤手当は支給されるが扶養手当や住居手当はない。退職時には、国家公務員退職手当法に基づき、退職手当が支給される。

次に勤務先だが、国税不服審判所は霞が関に本部を置き、全国に12支部、7支所あるが、本部を除くいずれかとなり、採用者は勤務先を選ぶことは出来ないが、勤務地を限定することは可能だ。というのも、家庭の事情により自宅通勤しかできない優秀な人材を逃すわけにはいかないことから、応募時の履歴書に勤務できない場所及びその理由を具体的に記載すれば勤務地を限定できるので、子育て中の女性や高齢の親がいる者も働ける。

特定任期付職員採用で裁決書に変化は‥

民間の税理士等が国税審判官として裁決を行うことにより、裁決書きが違ってくるのではないかとうがった見方も考えがちだが、審査請求の処理状況をみると、事件を扱う審判官の半数が民間専門家となった平成25年度以後の方が、何らかの形で納税者の主張が認められる「認容割合」が予想外に低い。これはあくまでも結果論だが、国税職員でも民間専門家でも国税審判官として中立・公平な裁決を行っているということに繋がる。また、民間専門家とともに国税審判官を務めた経験のある国税OBは「やはり審査や事実関係の調査後の審理の時にはこれまでとは違った考え方が出たので違和感もあったが、このうな見方もあるのだと参考となった」との意見もある。

(表2)年度別審査請求状況(件、%)

キャリアアップとして受験してみれば

一方、任期を終えて再び士業に戻った国税審判官OBの感想をみると、「新たに税理士をスタートする際には、国税審判官としての経験により、顧客に提供できるサービスが拡大すると感じる」「審判官の経験は、弁護士とは異なる非常に役に立つと同時に楽しい経験となると思う。おそらく、外側から想像する以上に面白い仕事だと思う」「専門家としての視野を広げ、人間的な幅を広げる審判所での経験は大いに役に立つと思う」など、これまでと同じ仕事をしても経験が役立つことが伺える。

平成30年7月採用の特定任期付職員(国税審判官)の申込期限は11月15日まで。知識の蓄積のためにも、見識を広げるためにも、キャリアアップのためにも、チャレンジしてみてはいかがだろうか。