わが国の所得税法においては、累進課税という課税方法が採用されているため、所得が大きくなると、それに伴い納税額が大きくなってしまう。そこで今回は、不動産所得を得ている方に向けて、所得税法と法人税法の違いから、法人設立をすることによるポイントや、メリット・デメリットについて解説していきたい。

■所得税と法人税では税率が違う
所有する不動産から賃貸料を収受している場合には、不動産所得となり、給与所得などのほかの所得と合算された上で、その合算所得に対して、累進税率が用いられて所得税が課税される。この累進課税は5~45%までとなっており、さらに住民税も課される。
これに対し、法人税は平成28年4月1日以後開始事業年度で、23.4%。平成30年4月1日以後開始事業年度には、23.2%まで下げられる。地方税を課されても所得税よりもおトクだ。中小企業においては15~19%とさらに税率が低い。
このことから、同じように不動産から得られる収入に対して課税されるのであれば、所得税よりも、法人税を課されるほうが、税額は少なくなるということだ。つまり、個人で所有している不動産により所得税が多額に課税されている場合は、法人を設立し、その法人に不動産を移転することが、節税手段のひとつとなるわけだ。
■家族で経営しよう
新たに設立した法人を、家族経営するという節税手法がある。法人に移転した不動産所得には法人税が課されるのだが、法人の役員や従業員に給与を支給した場合には、その分法人税が減額されるからだ。
給与を支給する相手にそのほかの収入がないなら、年間103万円までの支給であれば所得税が課されることなく法人税を減税することが可能だ。もし仮に収入が103万円を超える場合でも、所得税は累進税率であるため、課税所得金額が196万円以下の場合の所得税・住民税の合計税率は15%。つまり、法人税率よりも低率で、支給先が多くなればなるほど、節税が可能というわけである。
■年齢には要注意
メリットが多い法人化であるが、相続税には注意が必要だ。相続税は個人の所有している全財産が課税対象であり、今回の主要論点である不動産について見ていくと、不動産を個人で所有している場合には、その不動産を評価し、その評価額に対して、相続税が計算される。
とくに、不動産収入を生み出す建物の評価方法に注目すると、固定資産税評価額がベース。そして、自宅や別荘などの自らが使用する建物は固定資産税評価額=相続税評価額であり、賃貸用不動産であれば固定資産税評価額の70%が相続税評価額となる。
さらに、この固定資産税評価額は、一般的には時価のおよそ70%と言われているため、賃貸用不動産については時価のおよそ50%が相続税評価額となるのだ。
このように、不動産の相続税評価額は時価から相当の減額評価がされているものの、不動産を法人に移転する場合には、相続税評価額で移すことはできず、時価で移さなければならず、相続税を計算する上での財産評価額が増加することに留意が必要だ。
例:時価評価100の賃貸用建物を法人に移転した場合
時価評価100×70%(固定資産税評価)×70%(賃貸用評価)=49
そのため、法人化を検討しているなら、今後の相続の可能性を加味した上で、検討する必要がある。やみくもに節税できるからと考えず、相続税との兼ね合いなど、税理士に相談してから法人化を検討してほしい。