BIG4監査法人のAIサービス事例

BIG4監査法人は、AI技術を駆使して監査業務の効率化や品質向上を図っています。
あずさ監査法人と有限責任監査法人トーマツが提供するAIサービスの事例を見てみます。

あずさ監査法人の高度なAI活用への試み

AZSA Isaac

(出典:https://kpmg.com/jp/ja/home/media/press-releases/2023/08/generative-ai.html

あずさ監査法人が開発した「AZSA Isaac」は、生成AIを活用した監査向けソリューションです。
まずは2023年に監査法人内で利用を開始、第1弾としてチャットボット機能から使用を始め、監査人が高度な判断を要する業務に注力できるよう、文書の検証や自動的なデータ分析、証拠収集プロセスの一部を自動化し、サポートしています。
「AZSA Isaac」は今後順次機能を拡充予定なので、さらに高度なAI活用が期待できそうです。

監査法人トーマツは熟練公認会計士のノウハウをAIに学習させ、監査業務を効率化

Audit Suite Text Reviewer

(出典:https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20221017.html

有限責任監査法人トーマツも、2022年から独自のAIツールを開発し、活用しています。
「Audit Suite Text Reviewer(AS Text Reviewer)」は、AI・自然言語処理技術・OCR(光学文字認識技術)を組み合わせ、AIがトーマツの熟練公認会計士などが持つノウハウを学習することで、契約書などの膨大な文書・画像ファイルを短時間で検証することが可能になります。
特に監査文書の特定リスクや異常を迅速かつ正確に発見できるため、人的ミスの削減にも期待ができます。

監査法人のAI活用における課題

監査法人によるAI活用は、大きな利点がある一方でさまざまな課題もあります。
日本公認会計士協会が2024年8月に発表した「監査におけるAIの利用に関する研究文書」から、いくつかピックアップします。

開発に関する課題

AIの開発には高品質なデータが不可欠ですが、データ提供元の企業から不正事例など特定のデータが十分に得られないことは大きな課題です。
不十分なデータは、AIの精度低下につながってしまいます。
データ提供元の企業ごとに異なるデータ形式に対応するため、データの正規化や前処理も必須ですが、時間的にも労力的にも負担が大きいものです。
また中小の監査法人にとっては、AIの開発コストや専門人材の確保も大きな負担になっています。

利用・導入時の課題

AIは、入力データが不適切であると誤った結果を出力してしまいます。
入力データの信頼性を確保するために、通常の監査同様、真正であることを確認済みの原始証憑との突合作業が必要です。
一般に公表されているデータを活用する場合も同様に、データ自体の信頼性を検証する必要があります。

AIが出力したデータもうのみにせず、二重チェックなどの手続きを組み込むことで、結果の正確性・信頼性も担保する必要があります。

監査AIの精度向上には、適切なデータ入力に加え、チーム内でAIを理解することも重要です。
不適切な利用方法や不十分なパラメータ設定は監査結果に悪影響を与えてしまうため、AIの特性に応じたプロンプトエンジニアリングなどのスキルが求められます。
導入する企業によって監査基準やビジネスモデルが異なるので、それに応じて学習データを適切に再調整する必要があるなど、人が対応をしなければならない作業がまだ多いのも課題です。

情報セキュリティの課題

監査でのAI活用で扱うデータには機密情報が含まれるため、厳格なセキュリティ対策が不可欠です。
AIシステムには大量の情報を安全に保管・管理するインフラが求められ、生成AIには入力情報の管理と適切な利用ガイドラインも欠かせません。
AIのリテラシー教育や継続的なモニタリングも、情報セキュリティリスクの低減に役立ちます。

必要以上に情報漏洩のリスクを恐れ、AIの活用を制限してしまう必要はありませんが、クライアント企業からの信頼を損なわないためにも、セキュリティと利便性が両立した適切なAI活用が求められます。

まとめ

AIの導入は監査法人にとって避けては通れない道であり、すでに効率化と人材不足への対策の効果を発揮しています。
AIにより事務作業を減らし、会計士が質の高い判断が求められる業務に集中できる環境は実現しつつあります。

しかしAIを本格的に監査に導入するには、透明性の確保やガバナンス対応がまだ足りていません。
開発・利用・導入する際の人材やスキルの不足、作業負荷、セキュリティリスクの克服も大きな課題です。

今後のAI技術の進化と共に、監査法人が提供するサービスも様変わりしていくはずです。
課題を乗り越え、クライアントへの価値提供ができるサービスにいかに育てていくかがポイントとなるでしょう。

 

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【参考・出典】

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/kounin/siryou/20211129/02.pdf
https://www.fsa.go.jp/cpaaob/shinsakensa/kouhyou/20240719/2024_monitoring_report_chapter1.pdf
https://www.fsa.go.jp/cpaaob/shinsakensa/kouhyou/20230714/2023_monitoring_report_chapter1.pdf
https://www.jpx.co.jp/listing/co/tvdivq0000004xgb-att/tvdivq0000017jt9.pdf
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOTG13CRV0T10C24A5000000/
https://www.pwc.com/jp/ja/press-room/2024/new-lease-accounting-standards2409.html
https://jicpa.or.jp/specialized_field/files/2-10-11-2-20240813.pdf
https://kpmg.com/jp/ja/home/media/press-releases/2024/05/ai-in-financial-reporting-and-audit.html
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/deloitte-analytics/articles/ai-governance.html
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000109154.html
https://kpmg.com/jp/ja/home/media/press-releases/2023/08/generative-ai.html
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20221017.html

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