公認会計士業界、中でも監査法人のAI活用に変化が起きています。BIG4をはじめとした監査法人は、AIによる業務効率化を進めるだけでなく、顧客企業とともにAI導入の課題解決に向け動いています。
この記事の目次
ChatGPTの登場で、ビジネスでのAI活用が再び注目されています。
以前より監査業務にAIを活用しようという試みが続けられてきた公認会計士の業界にも、さらなる変化が起きています。
BIG4をはじめとした監査法人のAI活用の現状と課題を見ていきます。
監査法人とAIの現状
AIの進化にともない、監査法人に変化が起きています。
監査法人がAI活用を積極的に進める背景、現時点でAIを活用できる範囲、監査法人と企業との関係でAIの活用が進む可能性について、詳しく見ていきます。
監査法人がAI活用を進める理由
監査法人がAI活用を推進する背景には、公認会計士の人材不足と業務負荷の増加が大きく関わっています。
金融庁によれば、監査法人に所属する会計士の割合は2017年に47.0%だったのが、2024年には40.6%まで低下しています。
会計士資格取得に必要な実務経験を積むため、会計士試験の合格者の9割がまず監査法人に就職するといいますが、それにも関わらず監査法人で働く会計士の数が減っているのは、監査法人からの転職が増えているのが一因だと考えられます。
実際に、事業会社・コンサルティングファーム・会計事務所など、監査法人で経験を積んだ会計士を欲しがる会社や事務所は少なくありません。
転職の選択肢が広がることで、監査法人は会計士人材の確保が難しくなってしまっているのです。
上場企業の数が増加し、非財務情報の開示が拡充される中、監査法人の監査業務の時間も年々増加しています。
日本取引所グループによれば、東京証券取引所の市場がプライム、スタンダード、グロースの新区分へと再編された2022年4月から2023年末までの約1年半の間で、上場企業は110社増えています。
企業経営や投資家の投資判断(ESG投資)でサステナビリティや社会貢献が重視されるようになり、中長期での企業価値を判断するための非財務情報が重要性を増しています。
それにより監査法人が開示や保証すべき情報が増えていることも、業務量の増加に拍車をかけているといいます。
日本公認会計士協会によると、2022年度の監査法人の金融商品取引法監査の平均時間は4,163時間で、10年前から約2割増えているという結果が出ています。
公認会計士の人材不足と業務負荷の増加の解決策として、監査法人はAI活用を進めています。
たとえばあずさ監査法人は対話型AIを導入して、年間約22万時間の工数削減に成功しています。
これは年間150人分の監査人員の業務時間が削減できたことになり、あずさ監査法人はそのリソースを企業からのニーズが高まるサステナビリティの開示・保証業務などに充てていくとのこと。
PwC Japan監査法人も、生成AIを用いたリース会計基準適用支援により、関連業務の約6割の削減に成功しています。
AIの活用で単純な事務作業が減り、監査法人の働き方が改善されることで、会計士人材流出の歯止めにもつながるという期待もできます。
AIの活用範囲
監査におけるAIの活用範囲については、OCR(光学文字認識)を利用して契約書を分析し、リスクのある項目を識別する、またメールの文章から不正の発生が疑われる内容を検知するといった活用はすでに行われています。
これにより人には難しい、短時間で大量のデータを検知することが可能になっています。
生成AIが作成した文書のドラフトを、監査人が監査調書として仕上げるといった活用も可能です。
生成AIに監査や会計に関する基準を学習させることで、監査や会計に関する質問に該当する基準で返答するという活用も、すでに検討または導入が開始されています。
しかしこれらはあくまでサポート的な活用方法です。
専門的な技術や判断をともなう監査業務を完全にAIに任せられる段階には、まだありません。
監査法人と企業の相互発展
企業も財務報告の効率や正確さを担保するためにAIの導入を進めています。
KPMGインターナショナルが主要10カ国の1,800社の企業に実施した調査によると、1,800社のうちの約3/4の企業が財務報告にAIを試験的に導入するか、実際に使用しているといいます。
同じ調査で、財務報告分析のAI導入に関して自社よりも監査法人のほうが進んでいる、もしくは同等レベルだと考えている企業は82%にのぼるという結果も出ています。
企業のAI導入にともない、監査法人がAI技術をリードしてくれることへの期待も年々高まっていて、それが監査法人がAI活用を進める一因にもなっているのです。
企業は監査法人にAIガバナンスへの対応も求めています。
デロイト トーマツによると、AIガバナンスとは「AIの開発と利用を倫理的・法的・社会的基準に沿って監督・管理することで、AIによる事故やAI活用に伴うリスクへの対策をおこなう枠組み」のこと。
生成AIの台頭で、より透明性のあるガバナンスと評価基準の設置が急がれる中、企業は監査法人にその旗振り役を期待しているのです。
監査法人と企業の協業が進んでいる例もあります。
あずさ監査法人は、2024年からAIリスク管理ソリューションを提供するRobust Intelligence, Inc.との協業を開始しています。
これまでもあずさ監査法人は、金融や教育関連などの企業や機関にAI評価、AIガバナンス評価のサービスを提供してきました。
その知見にRobust Intelligenceのリスク管理の最新プラットフォームをかけ合わせることで、あずさ監査法人はAIシステムの評価やAIガバナンスを支援するサービスの提供を実現しようとしています。