「いま本当に価値のある顧客企業への支援とは何か?」をテーマにした本連載。第3回目となる今回は、「利益の数字は見ている。でも改善の打ち手が見えない」という壁をどう乗り超えるかについて、中小製造業や卸売業の利益創出のプロ、株式会社KUROJIKA代表取締役の早川伸夫氏に解説いただきました。
この記事の目次

早川伸夫
株式会社KUROJIKA代表取締役。利創経営参謀。
銀行、製造業、小売、海外新規事業など多業界・多職種を経験したのち独立。中小企業の現場に入り込み、売上アップやコスト削減による利益創出を支援。2025年1月より、士業・コンサルタント向けに再現性の高い経営支援メソッドをお伝えする「利創経営参謀養成講座」を主宰。また、現在は中小企業の経営改善や利益創出を支援するDX・AIシステム「FOCAL」の事業開発にも取り組んでいる。
「社長が変われば、会社は変わる」 ── それでも、なぜ変わらないのか?
「社長が覚悟を決めて本気でやれば、会社は変わる」
私はこれまで何十社もの現場を支援してきて、そう確信しています。
でも ── 同じように支援の現場に関わっている士業やコンサルタントのかたから、よくこのような声を聞きます。
「社長に伝えても動かない」
「施策を提案しても実行されない」
「結局、また元に戻ってしまう」
頭では「行動しなければ成果は出ない」とわかっていても、現場はそう簡単に動いてくれない。
したがって私たちは、“実行される打ち手”を選ばなければならない。
それを見極めるための鍵が、“パレートの法則”です。
“成果の8割を生む2割”をP/Lの向こう側から見抜く
パレートの法則 ── “成果の80%は、全体の20%から生まれる”という有名な経験則。
ですが、この法則を“本気で使いこなしている”士業・コンサルタントは、実はほとんどいません。
多くのかたが財務データ(P/L(損益計算書)やB/S(貸借対照表))を見て、「利益率が悪い」「売上が伸びていない」と語ります。
でも ── それだけでは、どこを改善すればいいのかはわからない。
なぜなら、財務データは“結果”の集計に過ぎず、「もうからない原因」や「明日から誰が何をすればいいか」という“具体的に何をすればいいのか”は、そこには載っていないからです。
重要なのは、商品・顧客ごとの販売履歴が分かる“事業実績データ”を見ること。
具体的には、
- 売上や粗利を、“顧客別・商品別・営業担当別”に切ってみる
- “平均”ではなく、“偏り”に注目する
- “多いグループ”ではなく、“利益を生んでいるグループ”を特定する
この視点があるかどうかで、見える景色はまったく違ってきます。
私が実際にコンサルティングでご支援させていただく際は、財務データも見ますが、何よりもまずこの事業実績データを分析します。
分析というと難しく聞こえるかもしれませんが、その方法は極めてシンプルで、“商品・顧客・営業(販売チャネル)・取引先”の4つの分析軸から“80:20の法則”で切り分ける。
以上です。

そうすると、顧客や商品など分析軸の対象に関わらず、多くの場合において、以下のグラフのような構造が浮き彫りになります。
これまで数百と分析した私の経験上、この傾向は分母が増えるほど顕著に現れます。
例えば取扱商品数で言うと、10商品よりも100商品、100商品よりも300商品と多いほうが、「上位2割の要素が8割の成果を生み出している」というイメージです。

この構造が意味するところ、それは「どこに経営資源を選択・集中すると改善効果が跳ね上がるのか」が見えること、です。
数字で見ていただくとより理解しやすいと思いますので、以下の画像をご覧ください。

全体で100商品の取り扱いがある年商5億円企業の会社があったとします。
もし何も考えずに「利益5%アップだ!皆頑張ってくれ!」と指示してしまったとしたら、100商品すべてにまんべんなくヒト・モノ・カネの貴重な経営資源を分散させてしまうことになります。
しかし“80%の売上=4億円”を生み出している上位20%の商品を選択し、売価・原価の改善に資源を集中投下させれば、1/5の行動量で8割の成果が得られます。
仮に改善率を5%とした場合、1商品あたりの平均改善効果は16倍になります。
浮いた4/5の行動可能時間を、この上位20商品のさらなる改善や顧客提供価値を高める施策、従業員の心身リフレッシュの時間に投下していけば、利益や人という経営基盤の強化につながっていくのは想像に難くないと思います。
対象を絞れたら、あとはどのような打ち手を打つかですが、2つほど事例をご紹介したいと思います。
事例①:商品別の“静かな赤字”を見逃さない
ある卸売業では、定期的に新商品を開発しており、「どれも一応売れてはいるのに、全体の利益が増えていない」という状態が続いていました。
そこで、商品ごとに売上・粗利・在庫の回転を分析してみたところ ──
利益の8割は上位20%の売れ筋商品から出ており、残りの80%の商品は、ほぼ在庫を増やし続けているだけだったのです。
それを伝えると、社内からは「でもあの商品は社長の思い入れが…」「古くからの得意先が買っているので…」といった声が上がりました。
そこで、まずは“比較的新しい商品”のなかから、明らかに在庫の回転の悪いものをピックアップし、社内合意が取りやすい順に“棚卸し”をはじめていきました。
いきなり大ナタを振るうのではなく、「納得感のある撤退」からはじめる。
これが、抵抗を抑えながら社内を動かすポイントでした。
結果、SKU数(Stock Keeping Unitの略で、在庫管理における最小の品目数を数える単位)は3割減少。
在庫コストは圧縮され、主力商品の欠品率も大きく改善。
利益率は上昇し、現場の負担も軽くなりました。
事例②:“できる営業”の動きは、再現できる
もうひとつは、営業力にバラつきがある企業での取り組みです。
営業メンバーの成績を“売上”“粗利”“受注率”“リピート率”といった指標で見ていくと、全体の6割以上の成果をわずか3人の営業が生み出していました。
このときのポイントは、「できる人のやりかた」をまねるのではなく、“再現できる型”に落とし込むこと。
具体的には ──
- 商談前に“過去の取引内容と“直近の購入商品をチェックする仕組みをつくる
- 提案資料の1ページ目に“利益改善につながる提案であること”を明示するテンプレートを用意
- 顧客との関係性に応じた“価格交渉の入りかた”のサンプルトークを共有
このような形にすれば、“自信がない営業”でも、一定のレベルを担保できるようになります。
税理士や会計士たちがすべきことは、“できる営業の横にずっとついてあげること”ではなく、“判断軸”と“資料の型”を示してあげること。
最初から100点の答えを用意する必要はなく、顧客との会話を重ねながら徐々に仕上げていけばOK。
このレベルなら、顧問先に対して明日からでも支援を開始できます。



