税理士で業務設計士®を名乗る武内俊介氏(株式会社リベロ・コンサルティング代表)が、会計人に求められる「業務設計」について解説するこの連載。3回目は、業務全体を俯瞰し、構造的に見直すことで、持続可能な仕組みを構築するための具体的アプローチを紹介します(協力:board/ヴェルク株式会社)。

この記事の目次

リベロ・コンサルティング代表・税理士・業務設計士の武内俊介氏

武内俊介

株式会社リベロ・コンサルティング代表取締役。業務設計士®、税理士。

金融、会計事務所、スタートアップなどを経て独立。日本で唯一の「業務設計士®」を名乗り、DXプロジェクトなどに際しての業務の整理や最適化、導入システムの選定などを独自のメソッドで支援する業務設計コンサルティングを提供している。また、boardのアンバサダーを務め、中小企業にとって「ちょうどいい」販売管理ツールであるboardの魅力をさまざまなところで発信している。

※この連載は、クラウド型業務・経営管理システム「board」の開発・運営などを行うヴェルク株式会社の協力でお送りしています

 

前回は、業務のなかに潜む「非効率の温床」をどのように見つけるかを取り上げ、表面上の手間やムダではなく構造に目を向けることの重要性を示しました。

今回はその視点を踏まえ、さらに一歩踏み込んで業務全体をどう設計するかを考えていきます。
「業務設計」の取り組みにおいて重要なのは、この「全体」を常に考えるという視点です。
部分最適ではなく全体最適を意識できるかどうかが、業務設計の成否を分けます。

今回と次回の記事では、販売管理という企業にとってもっとも重要な売上に関わる業務に焦点を当てます。
この領域は、お客様の要望に対応する過程で例外処理が積み重なりやすく、それらが全体の仕組みをゆがませる要因となります。
企業の歴史が長ければ長いほど、その影響で業務が複雑になりがちです。
それらの整理や再設計を行わずにSaaSやAIを導入しようとしても、成果につながる可能性は高くありません。
請求書発行を電子化したり、入金管理を自動化したりといった目先の効率化は大切ですが、個別に施策を実施していくとすぐに全体の流れが噛み合わなくなります。
全体の構造を紐解き、最適な流れになるように組み直すことが重要なのです。

業務の全体像を描く

業務改善を進めようとするとき、処理の自動化など「作業をラクにすること」にばかり注目していないでしょうか。
確かに、システムは人間と違って疲れることはないし、集中力が切れてミスをすることもなく、24時間365日働かせることも可能です。
さまざまな処理を自動化することができれば、業務は大幅に効率化するのではないかと考えるかもしれませんが、多くの場合、それは理想論であり実現は困難です。

同じ規格の製品を大量に製造する工場などとは違い、ホワイトカラーの業務のほとんどは、取引先別・人別などの個別性が高い情報を加工して成果物(契約書、請求書など)を作る仕事です。
処理する物量も製造工場よりはるかに少なく、柔軟な対応が求められるケースも多いため、「自動化すれば業務が効率化される」という単純な構図ではありません。

表面的には「単純作業」であったとしても、コンテキスト(前後の状況や背景のつながり)を理解して対応することが多くのホワイトカラー業務には求められています。
そして、ホワイトカラー業務には、製造やソフトウェア開発のような詳細な要件定義書や設計図が存在しません。
言語化されていない暗黙知が至るところにあり、それが現場での判断を複雑にしているのです。

このような状況で部分的に自動化をしようとすると、逆にこれまでできていた柔軟な対応ができなくなったり、誤った処理に気づかずに後から全部やり直す必要が出てきたりして、自動化による効率化の効果はほとんど発揮されなくなります。
これが、「DXがうまくいかない」大きな要因の1つです。

そこで必要になるのが、業務の全体像を描くアプローチです。
業務全体を描くとは、単にフロー図を作ることではありません。
請求や入金といったお金の流れ、部署間のやり取り、システムの連携など、複数の要素を「1つの流れ」として把握することを意味します。
業務プロセス全体を意識して構造を整理することで、どこに負荷やリスクが集中しているかを見抜くことができるようになります。

特に会計人にとって重要なのは、数字の裏側にある業務プロセスを可視化することです。
売上や利益といった数値は結果でしかありません。
その結果を生み出している日々の処理や意思決定の流れを明らかにしてはじめて、会計人として適切なサポートや改善提案ができるようになります。