人口3万人、20年後には2万人を切ると予測される福井県大野市。通常は「不利」と考えるその土地で2021年に開業、そこから2年で売上1億円超えを達成しているのが税理士法人ウィズ総合事務所です。若手を中心に、求職者の問い合わせも増えているとのこと。地方開業のリアルや独自の戦略による採用成功の秘訣について、グループ統括代表の山本庸介税理士が紹介します。

この記事の目次

ウィズ総合事務所グループ統括代表の山本庸介税理士山本庸介

35歳で福井県にUターンして税理士業界に飛び込み、働きながら2年弱で税理士試験に合格。2021年に人口減少が進む地元の大野市にて山本総合会計事務所を開業し、2023年に税理士法人ウィズ総合事務所を設立。集客・採用は自前路線で進めている。開業2年で売上1億円超え、若手税理士受験生など熱意ある人材を継続的に採用できている。

※この記事は、クラウド型業務・経営管理システム「board」の開発・運営などを行うヴェルク株式会社の協力でお送りしています

人口減少の進む地域で会計事務所を開業

地元・大野市で開業した理由

18歳まで地元大野市で過ごし、「こんな田舎絶対出てやる!」と思って大学は大阪へ進学、その後関東の製薬会社に就職しました。
福井に戻ることはないだろうと思っていましたが、紆余曲折あって35歳のときに地元に戻ることに。福井ではこれまでの経験を生かした仕事はほとんどなく、未経験の税理士業界へ転職し、働きながら税理士を目指しました。
幸運にも恵まれ2回の試験で5科目合格(簿財消法相)し、実務経験4年弱で独立することを決意。
自分の事務所を構えるなら福井県大野市以外に考えられませんでした。理由は単純、地元だからです。
ただ、この大野市という場所は、ものすごいスピードで人口減少と少子高齢化が進んでいます。

人口減少エリアの現実

私は何か得意な業種や税目があるわけではありません。
田舎だと特化型というよりも、何でもやるいわゆる「街の税理士事務所」スタイルが一般的です。
クライアントになるのは基本的にその地域の中小企業ですが、肝心の中小事業者がどんどん減っていきます。
大野市の人口は3万人弱。20年後には人口2万人を切ると予想されており、福井県内9市のなかで一番の人口減少率です。
開業時の私の年齢は39歳。20年後には60歳、税理士の平均年齢に達する頃には1/3の人がいなくなっている計算です。

大野市の人口推移分析

商工会議所の会報には創業者が増加傾向にあると書かれていますが、それでも年間10件を超える程度。

大野市の創業者数の推移

既存事業者、特に老舗の優良企業の顧問税理士の切り替えはほとんどありません。
一般的には、このような新陳代謝が悪い地域は開業地としてはふさわしくないでしょう。

それでも「地元だから」という理由で開業場所を選びました。
結果的には、ありがたいことに知り合いからの紹介が多く、市外事業者を中心にクライアントはどんどん増えていきました。

人口減少エリアでの採用の難しさ

集客よりも2回りぐらい難しいと感じたのが採用です。
開業間もない頃から慌ただしい日々を過ごし、人手が足りないのでハローワークで求人をかけるのですが、なかなか応募が来ません。

そんなとき、たまたま大野市のハローワークから求職者の統計情報を記載した紙が届きました。
3カ月の求人応募者は合計300名、そのうち事務系職種への応募は約2割。
弊所への応募は同期間で5名いましたので、事務系職種ではすでに占有率1割程度あることがわかりました。

当時これはかなり衝撃的で、ハローワークに頼った採用では限界が見えた瞬間でした。
都会の人からすると有料の求人媒体を使えばいいと思われるでしょうが、田舎福井ではハローワークが一番応募が集まります。
広告予算を設定しても使いきれないということも起こります。

福井県の大学・短大などへの進学者数

 

福井県のUターン就職率

福井出身の学生のUターン就職率

さらに福井県自体が採用の難しい県です。有効求人倍率は7年8カ月連続で全国1位。
また福井には総合大学がありません。大学進学の65%が県外へ行き、Uターン就職は30%程度。優秀層は公務員、金融機関、上場会社などへ行くので、無名の弱小会計事務所は新卒採用も難しいのが現実です。

その上でどうすべきか?

散々立地の不利を書きましたが、そもそも論理的に考えて開業地を選んだわけではありません。自分の地元だから開業地として選んだだけです。
具体的な数字は頭に入っていませんでしたが、集客も採用も難しいことはわかった上で、大野市で開業することを決めました。

あとはド田舎であってもできることを考えて実行するのみ。

人は選択肢が多いと選べません。私にとっては場所を決めることが制約条件(絞り込み)となって、逆にあれこれアイディアが湧いてきました。

これ以降は、弊所の採用力強化につながった施策で代表的なものをいくつかピックアップして紹介します。
私は走りながら考えるタイプというか、やりたい!と思ってから理屈を後付けで考えるタイプなので、精緻に計画を練ったわけではありません。
行き当たりばったりでいろいろやらかしながら、開業5年目の人間が考えていることを書いていきます。

採用力強化のために行ったこと① 人事制度設計と業務効率化

効率的な働き方のための人事制度が功を奏す

私が地域の中小企業者に対して必要なサービスだと考えたのは、「アナログとデジタルのつなぎ役」になることでした。

開業時にはクラウド会計などのデジタルツールは多数出てきており、これらを使いこなせば効率化される未来も見えていました。
ただ、デジタルツールを中小事業者が使いこなせるようになるとは思えませんでした。
また使いこなせるように指導してもうまくいかないだろう、だったら我々が面倒な事務手続きは代行しよう ── そう考えました。

記帳代行にとどまらず、給与計算や経費振込、請求書発行など、経理がやっている仕事を弊所が代行することで事業者を支援したい。
いわゆるバックオフィス系のBPO(Business Process Outsourcing)を行おうと開業時に考えたわけですが、当然人手が必要になります。

しかも経理業務の代行ですから、事業者からすると利益を生むわけではないので高単価は望めません。
時給1,500円~2,000円の事務職員が10時間かけてやっていた仕事を4時間で仕上げて時給4,000-5,000円にする ── これぐらい効率化しないと採算割れするだろうなと。

一方でこれまでの社会人経験では、だらだらしゃべる、タバコ休憩が多い、残業は多いが大した仕事量ではない同僚を見てきました。
働く時間に制限がある人の方が効率的に働いてくれるのではないかと考えました。
例えば、子育てなかの主婦、親の介護がある人、試験勉強しながら実務を覚えたい人が短い時間で成果を出し、時間ではなく成果に対して報酬を払う人事制度がよいのではないかと思いました。

そこで、1日6時間勤務+みなし残業40時間で正社員雇用することとしました。
記帳代行などの業務単位で個人売上を集計し、インセンティブ給の設計も行いました。
みなし残業40時間は1日あたり2時間の残業に相当します。これは、一般的に1日8時間勤務の正社員の仕事を1日6時間勤務でやりきれれば、正社員と変わらない待遇にしますよという意味を込めています。
※現在は、①1日6時間+みなし残業40時間、②1日7時間+みなし残業30時間、③1日8時間+みなし残業20時間の3パターンを3カ月ごとに選択できる制度にしています

この制度設計が功を奏したのか、開業当初にハローワークで募集をかけたところ20人ほどの応募がありました。
子育てなかの主婦の方が中心でした。
短時間だとパートしか仕事がないなかで、正社員雇用は魅力的に見えたのかもしれません(開業ボーナスで応募が集まったのは否めません。開業後は先に書いたとおり、ポツポツしか応募はありませんでした)。

業務効率化のカギは「ツールの集約」

事務代行を効率的にやるためには、ツールを集約することが大事だと考えています。
早く正確に反復継続した業務を行うためには、一定の枠組み(ルール)を決めて全員がそれ通りに実行する「業務標準化」ができて始めて効率化ができると考えています。

会計ソフトだけでも何十種類もありますが、1つに集約することで職員の習熟度は上がりますし、教育にかかる時間も削減できます。
弊所ではマネーフォワードクラウド会計を基幹システムに位置づけ、これと相性の良い周辺サービスを組み合わせて、事務所としての業務標準化と業務効率化を進めていくことにしました。

税理士法人ウィズ総合事務所の使用ツール(開業当時のもの、一部変更有)

見込み顧客に対してはマネーフォワード会計を使うことと、日頃のコミュニケーションはLINE WORKSを使って行うことを最低限の前提とさせてもらいました。
会計ソフトの変更が難しい場合はご縁がなかったと思って契約しませんでした(記帳代行するので会計ソフトの切り替えでNGなことはほとんどありませんが)。

その他にも、経費振込業務については「invox」を、請求書発行業務については「board」という1つのツールに絞って代行業務を行うこととしました。
どちらのツールも直感的に操作できますし、シンプルなので教育に時間をかけずに業務ができるようになります。