月次決算が毎月遅れる原因は、経理処理自体ではなく前工程にある。税理士で業務設計士®を名乗る武内俊介氏の連載第11回は、前工程をどう設計すればリードタイムを大幅に短縮できるかという視点から、具体策に踏み込んで解説をします。月次決算に費やす時間を削減したい方は必読です!

この記事の目次

リベロ・コンサルティング代表・税理士・業務設計士の武内俊介氏の画像

武内俊介

株式会社リベロ・コンサルティング代表取締役。業務設計士®、税理士。

金融、会計事務所、スタートアップなどを経て独立。日本で唯一の「業務設計士®」を名乗り、DXプロジェクトなどに際しての業務の整理や最適化、導入システムの選定などを独自のメソッドで支援する業務設計コンサルティングを提供している。初の著書、『業務設計の教科書』が2025年12月25日に技術評論社より発売。
また、boardのアンバサダーを務め、中小企業にとって「ちょうどいい」販売管理ツールであるboardの魅力をさまざまなところで発信している。
武内氏のnoteX

※この記事は、クラウド型業務・経営管理システム「board」の開発・運営などを行うヴェルク株式会社の協力でお送りしています

前回は、業務改善のモノサシを「工数削減」ではなく「業務全体のリードタイム」に置くべきだという話をしました。
月次決算であれば、月初から経営報告の数値が確定するまでに何営業日かかるか。
その全体の所要時間を短くすることが、本質的な改善につながるという考え方です。

では、月次決算のリードタイムを実際に短縮するには、どこに手を打てばいいのでしょうか。
そもそも経理の仕事には、見落とされがちな前提があります。
簿記検定の問題は必要な情報がすべてそろったところから始まりますが、実務では違います。
売上データ、経費の申請、取引先からの請求書。これらはすべて、経理の外にいる人たちから受け取る必要がある情報です。

今回は、この前提を踏まえて、月次決算のリードタイムをどこで短縮できるのかを具体的に整理します。

経理の処理負荷を下げる2つの打ち手

月次決算のリードタイムを短縮するために、まず取り組みやすいのは経理側の処理負荷を下げることです。
ここでは、具体的な打ち手を2つ紹介します。

1つ目は、売上データの会計連携を自動化することです。
営業が請求書を発行し、経理がその内容を見ながら手作業で会計ソフトに入力している企業はまだ多くあります。
この「転記」という作業は、手間がかかるだけでなく、入力ミスの温床でもあります。
金額や取引先を間違えるなどのミスが発生すれば確認と修正が必要になり、リードタイムはさらに伸びます。
請求書が発行された時点で、売上データが自動的に会計ソフトに連携される仕組みがあれば、この転記作業と、それに伴うミス・修正のループがまるごとなくなります。
手入力を減らすことの本質は、「速くなる」ことではありません。
入力ミスによる差し戻し・修正のループそのものがなくなることです。これがリードタイム短縮に直結します。

2つ目は、請求書の受取経路をデジタルに一本化することです。
取引先からの請求書の届き方が統一されていない企業は多くあります。
紙で届くもの、メールに添付されるもの、担当者個人のメールに届いて経理に転送されるもの。受取の経路がバラバラであれば、経理は「届いているか」「漏れがないか」を都度確認しなければなりません。
担当者が転送を忘れれば、その確認も必要になります。
この回収と確認の作業が、月初の貴重な時間を奪っています。
請求書受取システムを導入し、専用のメールアドレスに取引先から直接請求書を送ってもらう運用に切り替えれば、担当者による転送やアップロードの手間なく、請求書がシステム上に集約されます。
担当者を経由しないため、共有漏れも起きません。また、郵送からデジタル送付に切り替わることで、請求書の到着が2営業日ほど早まります。
月次決算の早期化を考えれば、この差は大きいものです。

もちろん、すべての取引先がすぐにデジタル対応してくれるわけではありません。
ただ、数ヶ月から半年ほどかけて順次切り替えていく価値は十分にあります。紙で請求書を受け取ることに、業務上のメリットはもはやありません。
さらに、受け取った請求書を事前申請の内容と突き合わせて承認し、承認が完了した時点で自動的に会計側に仕訳データとして計上される仕組みを整えれば、経理が1件ずつ内容を確認して手入力する工程も不要になります。

月次決算が遅い本当の原因は、経理の外にある

ここまで紹介した打ち手は、経理側の処理負荷を下げるものであり、すぐに着手できる施策です。
しかし、月次決算のリードタイムを本格的に短縮するには、もう一段踏み込んで考える必要があります。

月次決算に10営業日かかっている企業で、経理が仕訳の入力と確認に使っている時間はせいぜい2〜3営業日です。
残りの7〜8営業日はどこに消えているのか。
営業からの売上データが届くのを待つ。経費精算の提出期限を過ぎた部門に催促する。届いた請求書と事前申請の内容を突き合わせて相違点を確認する。
リードタイムの大部分は、こうした「待ち」と「確認・修正」に費やされています。

つまり、月次決算のリードタイムを左右しているのは、経理処理そのものではなく、前工程から届く情報の正確さとスピードです。
経理の処理速度をいくら上げても、前工程から情報が届かなければ処理は始められません。
届いた情報に不備があれば、差し戻しと修正のループが発生します。
しかも、こうした遅れは一度きりではありません。
毎月同じ部門で同じような遅れが発生し、経理が同じ相手に提出を促すという構図になりがちです。
本来、期日までに情報を出すことは各部門の責任です。それにもかかわらず、「催促するところまで含めて経理の仕事」とみなされているのが実態です。

経理のリソースが、本来やるべき処理ではなく、情報を出してもらうための調整に費やされている。
この構造が変わらない限り、月次決算のリードタイムは縮まりません。
本格的な早期化には、前工程の業務プロセスそのものを再構築する必要があるのです。