医療法人の場合、個人経営の開業医とは異なり「法人だからこそ可能」な節税テクニックが存在する。そこで今回は、ひとり医療法人(ドクターが1人の医療法人)を対象として、役員給与や、従業員に対する生命保険を使った節税策について紹介する。またドクター自身の個人所得税については「個人型401k」を紹介する。

■親族への役員給与 ~支給方法と支給後の管理について~

医療法人にする大きなメリットのひとつが、所得分散を図れることである。個人経営と違い、専従者だけでなく親族を役員に就任させ、給与を支給することも検討できるからだ。たとえば、ドクター夫婦の両親4人に年間100万円ずつ支給すれば、それだけで400万円の利益を圧縮できる。

両親の収入状況にもよるが、この100万円と年金収入だけなら個人所得税もほとんど課せられず、少なくとも役員にしたうえで100万円程度を支払うのであれば、勤務実態の有無も問われないだろう。

さらに、数年間役員に在任した後であれば両親に役員退職金の支給も可能だ。退職金は「最終の報酬月額×勤続年数×功績倍率」で計算した金額。医療法人の経営状況にあわせ、利益が多く出た年度に役員退職金を計上すれば法人での課税所得圧縮が可能だ。

退職金の場合も、金額によっては個人で所得税がかかるが、ひとつの目安として「40万円×勤続年数」以内の金額であれば所得税はかからない。
たとえば、5年間役員就任した後に退職すれば、200万円までは所得税が課されないというわけだ。

■生命保険の活用 ~節税と福利厚生~

株式会社などの事業会社ではよく見かける、従業員を被保険者とした生命保険の活用は、医療法人でも同様に活用できる。一定の勤務期間(たとえば2年)を経過した正社員の従業員や役員を、被保険者として生命保険に加入する。

契約者は法人で、解約返戻金の受取人も法人。被保険者本人が死亡した場合の受取人は、その遺族となる保険プランだ。対象者全員が保険に加入していれば、支払保険料の半分が法人の経費となる。

法人の節税も目的のひとつだが、従業員に万が一のことがあった場合には遺族に保険金が入り、対象となっている従業員が退職すれば、解約返戻金が退職金の原資にもなる。

ただしこの保険プランは、対象者全員が加入していないと、加入者への給与として所得税が課されるため注意が必要だ。従業員が入社・退職する度にメンテナンスが必要となるが、節税目的だけでなく福利厚生目的や退職金の原資確保にもなる。

■ドクター個人の所得税を少しでも安く ~個人型401kのススメ~

医療法人であればドクター自身も給与所得者となることから、ドクター個人の所得税についても考えてみたい。株式会社の経営者や、個人経営のドクターであれば、まず小規模企業共済を推奨するところだが、医療法人の役員は小規模企業共済に加入できない。

そこで、検討してほしいのが「個人型401k」だ。これは、確定拠出年金と呼ばれるもの。将来受け取る自身の年金を投資のプロに運用してもらうため、毎月決まった金額を個人が拠出するものである。厚生年金に既に加入しているなら、月額2万3千円(年額27万6千円)まで拠出可能だ。ただし拠出元本は保証されず、受取金額は運用次第で増減する特徴がある。

注目すべきは、その増減より毎年の所得税の節税効果だ。拠出金は小規模企業共済等掛金控除としてその全額が所得から控除できる。とくに医療法人のドクターであれば、所得も高いことが予想されるため、住民税とあわせて掛金の50パーセント(最大年額13万8千円)もの税金が安くなるケースもある。多少の元本割れが生じても、十分おつりがくるのでおすすめしたい。

節税法を知っているのと、知らないのでは、払う税金に大きく差が出てくる場合もある。医療法人を運営している方は、一度検討してみてはいかがだろうか。

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