資金調達やExitの選択肢が多様化する今、CEO・CFOが押さえるべきエクイティファイナンスの勘所とは?
財務のプロと法律のプロがタッグを組み、会社法の根拠から実践アプローチまでをわかりやすく解説した注目の一冊。著者の東山氏・篠原氏に、執筆の背景や最前線の資金調達事情をうかがいました。

この記事の目次

スタートアップのエクイティファイナンス 重要ポイント50 書影

スタートアップのエクイティファイナンス 重要ポイント50

東山 一 著
篠原 一生 著

中央経済社
発売日:2025/10/15
中央経済社ビジネス専門書オンライン

著者が語る書籍の見どころ

Q. 執筆するきっかけや背景を教えてください

A. 東山、篠原二人とも日ごろからスタートアップの支援に関わっているということで、現場目線でスタートアップ関係者に向けた書籍を作れたら面白いねということで出版を検討し始めました。東山はCFOやコンサルタントとしての立場から、篠原は企業案件を扱う法律家としての立場からの支援ということで、この二人の組み合わせであれば、事業面と法律面の両面からエクイティファイナンスの勘所を押さえた解説ができ、これまでとは少し違った面白い内容の本が書けるのでは?という話をしておりました。

Q. 昨今のエクイティファイナンスの状況について、実務の最前線でどのように感じていらっしゃいますか

A. 2025年以降のエクイティファイナンスの動向は、厳しくなってきています。優勝劣敗の傾向が進んでおり、資金が集まるスタートアップには相当額の投資が集まりますが、集まらないスタートアップにはまったく投資資金が入ってきません。その背景の一つには、東証における上場維持基準の厳格化があるのですが、その結果、入口である上場すること自体も難しくなっているという、スタートアップには逆風の動向です。これは、2025年および2026年前半における一般市場への上場企業数をみれば明らかです。
速報値ではありますが、2026年上半期の資金調達額は約5,030億円で、2025年上半期とはほぼ横ばいである一方、資金調達社数は2025年上半期比で、なんと35%減となり、投資家による投資先の選別が顕著になってきています。
一方で、東京プロマーケット(TPM)への上場企業数は近年伸びてきており、時代の変化を感じさせます。また、このような潮流の中で、M&AによるExitを目指すスタートアップ経営者も出てきており、スタートアップといえばエクイティで資金調達をして上場を目指すもの、という考え方ではかならずしもなくなってきている点も挙げられると思います。

Q. 本書は、経営・財務のプロ、法律のプロという異なるプロフェッショナルによる共著ですね。お二人のタッグだからこその特徴、本書だからこそ解決できる課題はありますか

A.本書は、実務に即応用できることが特色の一つです。エクイティファイナンスの現場に立つコンサルタントと、スタートアップのエクイティファイナンスにおける法律の観点からアドバイスを行っている法律家とのタッグによる解説書は他にないでしょう。企業会計やファイナンスの理論をベースに、実務上のポイントや法律上の注意点や落とし穴にまでカバーしているのは、本書の大きな強みです。

また、前述のとおり、「会社法」の基本的な理解を促すスタンスで本書を書いている点、なぜそう言えるのか、なぜそうなるのか?を強調している点は大きな特色です。かと言って、会社法第〇条の第〇項に・・・などのように、法律の解説書のような方向性や表現は避け、シンプルに分かりやすい内容を、Q&A方式で解説しています。
エクイティファイナンスにあたって、こういうことができる、こういうことはできない、その根拠は会社法によってこう規定されているからだ、といった理解ができることによって、期待できる結果は大きく変わりますし、仮に同じ結果ではあっても、その質はまったく違います。加えて、これまでスタートアップのファイナンスや法務について書かれた書籍は、専門家が書くことが多いということもあって、事業に携わる方が読むのには少しハードルが高いということもありました。本書は、スタートアップを経営していれば日常的に出てくる用語や疑問からスタートして執筆を行っており、図解を多用してページ数も絞っているので、手に取っていただきやすい内容になっていると思います。
その意味でも、本書はまず就任したばかりのCEOやCFOなどの方々にぜひ読んでいただきたいと思います。他には、クライアントであるスタートアップに対して、きちんと理論的に、根拠を示して説明を行う必要があるコンサルタントの方々にも非常に役立つと思います。

本書によって、「なるほど、エクイティファイナンスにはこんなやり方があるのか」、「この手法は自社にも応用できそうだ」、「当社にとっては、ここは譲れないポイントだ」などといった方向性をつかむことができます。そうすれば、しかるべき専門家の方々にも確認や相談がしやすくなるといった効果もあります。
また、スタートアップのエクイティファイナンスの現場に長くいたからこその勘所も豊富に説明を行っています。

Q. さまざまな論点の中から、50のポイントを厳選された基準や軸、意識したことなどはありますか

A. エクイティファイナンスと言いますと、やはり株価(算定)が大きな論点になりますが、結局は「法律(会社法)」に基づく行為でありますので、やはり起業家の方々には「会社法」を意識し、基本はきっちりと理解したうえでエクイティファイナンスに取り組んで欲しいと思います。その思いを軸の一つとして50のポイントを設定しました。
本書で強調したいことの一つに、スタートアップの資本政策における「勇み足による失敗を少しでも防ぎたい」という思いがあります。スタートアップというと、とにかくスピードだと考えがちですが、経営権に直結する行為であるエクイティファイナンスに限って言えば、事の本質を知らずしてのスピード優先や即断即決は本末転倒です。場合によっては取り返しのつかない状況に陥る可能性すらあります。そういった過ちを犯さないためにも、法律面もカバーして基本をじっくりと解説している本書は、エクイティファイナンスの現場で非常に役立ちます。本書の冒頭では、そもそもエクイティによる資金調達を行うことのメリット、デメリットから記載していますので、一貫して起業家目線から書かれていると言えると思います。

また、エクイティファイナンスの全体像や流れを分かりやすく伝えるということも意識した点です。スタートアップ投資の歴史的な経緯も含めて、会社設立の仕方と流れ、株主の権利、エクイティファイナンスにおける多彩な手法、事業計画や資本政策に策定におけるポイント等を具体的に示し、実務に直結できるかたちにしました。出資を受けた後、どのような道をたどって上場に至るのか、というロードマップも示していますので、起業家にとってもイメージが湧きやすくなると思います。個別のマターについての詳細は、アドバイザーに相談したり、他の解説書等も参考にしたりしながら理解をより深めていって欲しいと思います。

他に意識した点は、

  • 会社の設立や株主の権利といった最も基礎となる点からの解説を行うこと。
  • 他の解説書ではなかなか触れていないトピックにも言及し、これまでより一歩踏み込んで、より実務の場に即応用できる内容にもしていくこと。

ですが、具体的には、

  • 少数株主の排除(スクイーズアウト)
  • 上場が難しい業界・業種
  • 種類株主総会(開催方法)
  • 東京プロマーケット(TPM)やNASDAQなど、一般市場とは異なる株式市場の概略

などがあげられます。

Q. KaikeiZineは公認会計士や税理士、ベンチャーのCFOが主な読者です。
日々の実務やクライアントへのアドバイザー業務の現場で、本書を活用するためのコツを教えてください

A. 本書では、会社の設立の仕方や、株主として投資家が得ることができる権利など、スタートから解説を行っています。エクイティファイナンスの本題からいきなりではなく、会社の設立からつながりよく全体観をもってスタートアップのエクイティファイナンスを理解することができます。また、スタートアップ投資においてよく用いられる種類株式の設計であったり、投資契約や株主間契約の契約条項について概説しているので、クライアントが投資家から出資の提案を受けている場面などですぐに使える知識が盛り込まれています。
前述のとおり、本書は、基礎的な理論を分かりやすく理解できることはもちろん、実務に即応用できることを旨としており、実践的な内容も盛り込んでいますので、エクイティファイナンスの現場における様々な場面に活用することができると思います。
その他、会社設立時やエクイティファイナンス完了時の資本金・資本準備金の設定や組み入れ方などはアドバイスを求められることが多いと思いますが、本書はこれらについても解説しておりますので、参考になるかと思います。

また、策定事例を用いた資本政策の解説においても、東証マザーズ市場への上場基準(形式基準)への充足の判定や、ストックオプションの(対象者の平均)リターンの算定なども参考になるのではないでしょうか。資本取引の部分部分を個別に見ていくだけではなく、大局的な観点を持って先を見越した資本政策の策定を進めることができます。希薄化防止条項におけるシミュレーションなどもぜひ参考にしてください。

本書の特徴の一つとして、Q & A 50 という形式を取っている点があります。スタートアップ経営で頻出の質問に絞っていますので、実務で必要になる一通りの知識がさっとインプットできるかと思います。そして、今まさにご自身が直面しているケースにあてはめやすいという利点もあります。つまり、一種の「逆引き辞典」的な使い方もできるところは本書の大きな価値であると考えます。また、50の論点からまとめられていることから、自分が理解できているところ、そうでないところを判断するチェックリストとして使っていくことも可能です。さらには、50の論点を俯瞰してみることで、クライアントにとって重要と思われる、あるいは、提案すべきテーマなどを考えやすくもなります。ぜひ、状況に応じて機動的に本書をご活用ください。

Q. 「大事にされている本」「心に残る本」を教えてください

東山一氏

著者 東山 一氏

A. 「セゾン 堤清二が見た未来」(鈴木哲也著 日経BP社)をあげたいと思います。

堤 清二氏は、ダイエー創業者、中内 功氏と双璧を成す、戦後の流通業界のカリスマです。

「生活総合産業」という理想を旨に抱き、積極的な拡大路線をとりました。西武百貨店をはじめ、無印良品、ファミリーマート、パルコ、西友、ロフト、吉野家(再建)などから成るセゾングループを一代で築き上げ、小売業や金融、ホテル、不動産開発などを傘下に持つ企業グループに成長させた実績を持ちます。「生活総合産業」と「脱小売化」を旗印に、一時はグループ企業数約200社、グループ売上高4兆円を超えるコングロマリットを形成させた経営者です。

老舗の百貨店が手がけない海外の現代美術や前衛演劇といった斬新なコンテンツを紹介し、若い顧客を中心に先進的なイメージを広げ、「セゾン文化」を一世に風靡させることに注力し、セゾングループのブランド化に成功するという実績を持っています。セゾングループは、グループ売上高4兆円を超える規模よりもむしろ、消費文化をリードする先進性にその特色を持っていました。堤 清二氏が提唱した「ライフスタイルを売る」・「モノからコトへの消費」・「店づくりではなく街づくり」といった方向性は、今でもマーケティングの主軸となる考え方です。

堤 清二氏は、既存のレールを踏み外さないように日々の事業運営を進める経営者というよりもむしろ、常に新しい価値観を世に問う戦略的イノベーター、あるいは一大起業家としての業績が多いです。そこからは、起業家・改革者 > 経営者 という図式が浮かび上がってきます。

この本からは、優れた構想力と先見性を持ちながら、既存事業の「管理」には少々関心の薄かった堤 清二氏の戦略と個性を尊重しながらも、その弱点を上手く補うことのできるCFO人材の必要性や重要性をあらためて感じました。これは、スタートアップであれ、既に上場をしている大企業であれ、令和における企業経営にも十分に当てはまることでもあると思っています。

財界人、取引先、政治家、文化・芸術関係など、寸暇を惜しんで人と会い、人と話す時は必ずメモを取るという、謙虚で人に学ぼうとする姿勢と、とてつもない努力量は自分も大いに学びたいですし、他の経営者には真似のできないほどのアイデア・決断力・行動力を有した一大起業家的経営者の足跡を記した本書は、色々な意味で、多くを考えさせる書です。

篠原一生氏

著者 篠原一生氏

A. 私からは、「ビジネスモデル全史」(三谷宏治 ディスカヴァー・トゥエンティワン)をお勧めします。私が弁護士になる少し前に読んだ書籍ですが、17世紀日本の三井越後屋が行った為替の仕組みに始まり、国内外でビジネスモデルに革新が生じたケースをまとめている書籍になります。

衣服業界においてSPAというシステムが確立されたことや、アメリカで有名なスーパーのウォルマートの成功が実は物流の改善に起因するものであること、アリババがいかにして中国というマーケットで地位を得たかなどといったことが分かりやすく解説されています。

弁護士として、スタートアップのイノベーションを支える業務を多く行っていますが、こちらの書籍に書いてある内容はいずれも私の仕事のモチベーションになっていますし、起業家を含む、スタートアップのアドバイザーにも読んでいただきたいです。

Q. 最後に、今まさに成長発展を志している起業家やCFO、彼らを支えるプロフェッショナルな会計人へのメッセージをお願いいたします

A.よく言われることですが、日本の大手上場企業の多くは、かつてはスタートアップ(ベンチャー企業)でした。現在はスタートアップのエコシステムも以前とは大きく変わり、投資の手法も投資家も多様になってきました。そのような状況の中で重要なことは、常に「理論と実践」を心がけていただきたいと思います。理論についての確かな理解と、それを現場で応用できる実務力ということです。エクイティファイナンスの現場は、同じ条件は二つとしてありません。常に変化球が飛んでくると言っても良いかと思います。本書を大いに活用いただき、「理論と実践」を高度にバランスさせる努力を惜しまないで欲しいと考えています。
ここ1~2年におけるスタートアップのエクイティファイナンスの環境は以前より厳しくなっています。ですが、そういう時こそ我々支援者にはビジネスチャンスもやりがいも大きくなるかと思います。日夜事業の現場に張り付いている起業家から頼られる、良き右腕となって、堅実かつ大胆なエクイティファイナンスの提案を行ってください。
スタートアップの支援に関わる我々の役割は重要です。あのGAFAMでさえ、スタートアップの技術やサービスが事業の成長と企業価値増大への原動力でもあります。
共に切磋琢磨し、スタートアップ業界を盛り上げていきたいと思います。

著者紹介

著者 東山 一氏

東山 一(ひがしやま はじめ)
株式会社ポラリス・コンサルティング代表取締役
情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授
慶應義塾大学文学部史学科卒業,青山学院大学国際政治経済学部修士課程修了(MBA)。
専門はスタートアップのコーポレートファイナンス。
光学メーカーにて人事・経理・財務等の経営管理業務,フィリピン工場2社の立ち上げ(管理部門責任者)を経験。大手監査法人系コンサルティング会社にて経営基本構想の策定や経営・財務管理システム構築などのプロジェクトに従事し,その後,社外CFOとして数々のスタートアップに対してエクイティファイナンスの支援や,ベンチャーキャピタルにてスタートアップへの投資およびフォローアップを行う。
2010年株式会社ポラリス・コンサルティングを設立。これまで手がけた事業計画書および資本政策の策定・レビューの経験は500件超。スタートアップの社外取締役および監査役(上場企業を含む)を歴任。
2023年情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授に就任。
2024年TIB(Tokyo Innovation Base)認定パートナー企業に採択。

 

著者 篠原一生氏

篠原 一生(しのはら いっせい)
TMI総合法律事務所 パートナー弁護士,応用情報技術者
2011年明治大学法学部法律学科卒業,2013年早稲田大学大学院法務研究科修了。同年司法試験合格。2014年12月弁護士登録(第一東京弁護士会)。2015年TMI総合法律事務所勤務。2018年慶應義塾大学総合政策学部講師(行政法(社会保障法))。2020年University of Southern California Law School (LL.M., Certificate in Technology and Entrepreneurship Law)。2020年TMIプライバシー&セキュリティコンサルティング株式会社執行役員就任。2022年1月から9月にかけてドバイ,カイロ,イスタンブール所在の法律事務所にて出向勤務。2024年情報経営イノベーション専門職大学の客員教授に就任。
上場会社・非上場会社,PEファンド,政府系ファンド,スタートアップ企業等の国内外のM&A,投資案件対応や会計不正を中心とする上場会社における危機管理,不祥事対応,スタートアップ企業の不正対応に従事。その他,ドバイをはじめとする中東案件,システム開発紛争,ソフトウェア関連契約対応等のIT関連業務,フランチャイズ,企業側での労働紛争対応,IPOに向けた人事労務体制構築等の労務案件対応も実施。
第一東京弁護士会(2014年~),第一東京弁護士会総合法律研究所現代中近東法研究部会委員(2015年~),日本社会保障法学会(2017年~),デジタル・フォレンジック研究会(2020年~)等に所属。

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