土地評価で考慮される行政要因

問題の土地は、近くに医療施設ができたこともあり、風俗営業の規制対象となった。結果、貸ビル業者は「問題の土地の利用度は30%低下する。実際、ビルの賃料は低下した。したがって、この土地は、評価基準の定める評価方法では、適正な時価を適切に算定することができない特別の事情が存在する」と主張。一方で固定資産の評価基準には、風俗営業が規制された地域の納税者に対して「忖度」するルールはなかった。

一審の地裁は、問題の土地の評価に当たり、隣の公示地価を利用し、その7割を路線価として適正に評価されており、「賃料の低下が風営法等の規制の影響であるとは必ずしも認めることができず、他に地価公示地の鑑定評価額の合理性を否定するような的確な証拠はない」とし、原告を敗訴させていた。

貸ビル業者はすかさず控訴。高裁でも行政による風営法等の規制で生じた影響は、評価基準による評価方法によっては適正な時価を適切に算定することができない「特別の事情」に当たるから評価を下げるべきと重ねて主張した。

これに対し東京高裁は、風営法等の規制があることによって、土地の価格は当然低下するといえるのかどうかだと、争点を整理。その上で、「公示地価の評価に当たり鑑定士らが依拠した国土交通省が定める不動産鑑定評価基準(第三章、第1節、Ⅳ)で、土地評価に当たって考慮されるべき行政的要因について次のような規定を確認した。

1.土地利用に関する計画及び規制の状態
2.土地及び建築物の構造、防災等、に関する規制の状態
3.宅地及び住宅に関する施策の状態
4.不動産に関する税制の状態
5.不動産の取引に関する規制の状態

東京高裁は、以上から「風営法等の規制は営業規制であって土地そのものに対する規制ではないから、上記評価基準上も風営法等の規制を当然に考慮すべきものとすることはできない。したがって、標準宅地の鑑定評価書において風営法等の規制区域内にあることを考慮しなかったことには問題がない」と判断した。

また、貸ビル業者の主張について「商業地における土地利用は、土地上にビルを建て風俗営業を行うテナントを入店させることによって最も高い利益を上げることができるという判断を背景としている」と看破。続けて、固定資産税評価における基本的考え方とは相容れないとし、「固定資産税評価は、不動産の継続的な保有を前提に課される物税であるから、近隣地域における不動産の『通常の使用』あるいは『通常可能な使用』を前提とすべきであり、風俗営業が当然に予定されていた地域とは認められないから、問題の土地の『通常の使用』として、ビルを建築して風俗営業を営む店舗を入居させることを予定すべきものとはいえない」として貸ビル業者の言い分を退けている。