女性記者のひとりごと vol.16 大臣担当記者
場違いなハモりに圧倒されて思わず足を止めると、
直後に正面玄関から財務大臣が颯爽と登場。

財務省で所用を済ませ、赤絨毯(じゅうたん)の敷かれた螺旋階段をクルクルと階下に下りていくと、
1階エレベーターホールの壁際に10人ほどの記者が団子のように固まって立っていた。
足下に見えない線が引かれているかのごとくピシッとつま先が揃い、
そこから一歩もはみ出ない。
大臣の出待ちかなと思いつつ、軽く会釈してエレベーターホールを横切ろうとすると
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待った!」と、全員に手で制される。
「???」
場違いなハモりに圧倒されて思わず足を止めると、
直後に正面玄関から財務大臣が颯爽と登場。
団子記者らに片手を挙げながらエレベーターに消えていった。
…と同時に、螺旋階段を我先に駆け上がっていく団子記者たち。
おそらく2階の大臣室まで追いかけて行ったのだろう。
だったら最初から大臣室の前で待っていればいいのに…。
心の中でブツブツとつぶやきながら規制線が解かれたホールを横切ってようやく外へ出た。
大臣付きの記者は、何故にあんなにも大臣を崇め奉るのだろう。
私のような雑種の記者が大臣様と廊下ですれ違うことなんぞ許すまじ
と言わんばかりの剣幕だ。
「自分は偉い人」と勘違いする大臣を量産しているのは、
或いはこうした担当記者たちではないか、とすら思う。
それにしても、なんというハモり。なんというシンクロナイズ。
「大臣待ちのエレベーターホールを横切ろうとする第三者を手で制する」
というシンクロ競技がオリンピックにあったなら
彼らは金メダル確実だろう。
それにしても、帰宅を急ぐ第三者を暗黙のルールに巻き込むのは勘弁してほしいものだ。

著者: 川瀬かおり
記者/税金ライター
社会部を根城とする税金オタクの女性記者。財務省・国税庁を中心に取材活動を展開すること20余年。事件モノを得意とし、裁判所にも日参する。税金ネタをこよなく愛する一方で、税制の隙間や矛盾を見つけては叩きまくるサディスティックな一面も。趣味は夜討ち朝駆けとクラブ通い。