前回に引き続き、デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社事業統括本部長の斎藤祐馬さんにお話を伺っていきます。現在の事業の内容、どのように事業を成長させてきたのか、今後の展望など、「日本発のイノベーションファーム」として世界へ羽ばたこうとしている斎藤さんを通して、これから必要となる人材像を紐解いていきます。

ブレなかったのは“とにかくベンチャー企業を応援する”という姿勢
─デロイト トーマツ ベンチャーサポート立ち上げの経緯を教えてください。
本格的に会社としてベンチャー支援をしよう、となったのが2010年です。休眠していたこの会社を復活させてスタートしました。
事業を進める際、最初に立ち上がったのは、行政から政策を変えてほしいとか、大企業からベンチャーとこういう事業を作りたいという依頼。ベンチャー向けのM&Aのニーズもどんどん増えてきました。さらには世界と協業するといった案件も。
最初から戦略的に進めた、というよりは、「とにかくベンチャー企業とか、挑戦する人を応援していこう」という点をブレさせずに続けていたら徐々に事業になっていったという感じです。
─最初は少人数から始まったのですか?
そうですね。最初はひとりでやっていて、1年、2年かけてひとりひとり人を採用していきました。200人の会計士だけの部署に所属し、他のメンバーが会計監査をしている中での動きでしたので、当初、周囲は「事業を立ち上げるということは、会計士のキャリアを捨てるのか!?」という雰囲気で見ていましたね(笑)。
─事業として落ち着いてできるようになるまではどのくらいかかりましたか?
成長軌道に乗り始めたのは、外部の採用を始めた頃なので、2013~14年頃からですね。
─外部の方の採用は、主にどんな業種の方を採用したんですか?
まずは外部の会計士です。会計士でかつベンチャーに関わっている人材の採用を始め、次に徐々にコンサルティング出身者、官公庁出身者、そして海外出身者や大企業で新規事業を手掛けていた人材を採用してきました。
今は元デザイナーや、インド、スペイン、フィンランド国籍の人など、グローバルにいろいろなファンクションを持った人を採用するようになっています。
─いろいろな人がいたほうが事業が発展しやすいですよね。
そうですね。私たちのミッションは、ベンチャー企業が新しい事業を立ち上げるのをサポートすることと、起業後に世に出られるようなプラットフォーム作りのふたつ。そのためにはさまざまなバックグラウンドの人を集めておこうと思いました。
好奇心が止まれば、伸びも止まる
─若い会計士の方が御社に入りたいと思ったら、どんな素養があればいいでしょう。
会計士としての基礎力はあると思うので、あとはベンチャーが好きかどうかですね。ベンチャー企業の支援がしたいかどうか。
人として伸びるか伸びないかの決め手は「好奇心」だと思うんです。ベンチャー企業は新しいことをどんどんやります。だから、好奇心がない人だとついて行けない可能性が高いです。伸びが止まる瞬間とは、好奇心が止まる瞬間でもあります。
常に新しいテクノロジーやチャンスを活かしていこうと思い続けている人なら伸び続けることができると思います。
あとは、私たちの会社は事業を立ち上げられる人材を求めているので、事業の立ち上げに関わったことのある人材のニーズはすごく高いです。事業というのは、一気に伸びるものではなくて、「Jカーブ」といってアルファベットのJの字のように一度落ち込むものなんです。何かの事業の立ち上げに関わって、苦しい「0→1」の修羅場を経験したことのある人材を必要としていますね。

─現在はベンチャーの支援と、それ以外の大企業や官公庁を相手にした仕事だと、比率としてどちらが多いんでしょうか?
官公庁との仕事をしている者も、海外の事業をしている者も、大企業のコンサルをしている者も、いずれもベンチャーに関わっています。そう考えると、ほぼベンチャー支援に関わっていますね。
─下世話な話ですが、ベンチャーだとなかなか収益を上げづらい部分があると思うのですが……。
ベンチャー企業の支援をベースに、大企業のコンサルでマネタイズしている案件と、政策のほうでマネタイズしている案件、M&Aでマネタイズしている案件……といったように、マネタイズしている先で事業が分かれているというイメージですね。
─業務のやりがいはどんなところにありますか?
起業したり、何かを仕掛ける人は、「挑戦して世の中をよくしたい」という熱量の高い方々なので、応援していると見違えるように変わっていくのです。そういう場面に居合わせて、未来を一緒に作っていけるのがすごくうれしいですね。
経済が伸びている途中であれば、専門家がリスクをヘッジしていくような市場も十分あると思うのですが、それはだんだん収縮することが予測されます。今は専門家が新しい仕掛けを作っていくステージなのではないかと思います。
─デロイト トーマツ ベンチャーサポートの場合ですと、グローバルにも強く、信用性もあるので、政府の案件にも入っていきやすい。組織で動けるっていうのは強みになりますよね。
そうですね。日本を動かして、世界を動かしたい人にとっては、大きなコンサルティングファームはすごく合っていると思います。
やりたいことがあれば会社の中でどんどんつなげてもらえます。優秀な人ほど、こういう会社に飛び込んでみると面白いと思うんです。
─英語は必須になってきますかね?
そうですね。英語を使う場面がとても多いので、仕事をしながらできるようになっていくケースも多くあります。
日本から世界にモデルを展開していきたい
─今後の展望を教えてください。
今、日本の大手のコンサルティングファームは、基本的には世界のトップの会社とビジネスをしてどれだけ儲けられるかという発想でビジネスを展開しています。でも、私たちはそうではない。ベンチャーや起業家といった、イノベーションの分野でコンサルティングファームとしての事業を作っていこうとしている点で、全く違うんです。
また、普通であれば「お金さえもらえればある程度どんな仕事もやる」という発想になりやすいですよね。ですが私たちは、世の中を変えるインパクトとビジネスの掛け算を重要視しています。「世界の誰もやっていないイノベーションファームとしてのストラテジー」を作って世界に展開していくことが、私たちのやろうとしていることです。まずはそのモデルを作り、できたモデルをブラッシュアップして世界に輸出して展開してきたいです。

─世界発ではなく、日本から海外へ発信するビジネスというのは、なかなかないですよね。
日本の大手コンサルティングファームから、世界に広まったものはあまり聞いたことがないですね。イノベーションの後進国といわれている日本だからこそ、イノベーションを支援するビジネスが生まれる。それを世界に広めていきたいですね。
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
事業統括本部長 斎藤祐馬(Yuma Saito)
事業統括本部長、公認会計士。 1983年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。2006年公認会計士試験合格、監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)入社。 2010年より社内ベンチャーとしてデロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社の事業を立ち上げ、3年半で全国20の活動拠点・150名体制への拡大に成功する。ベンチャー企業の成長支援を中心に、大企業の新規事業創出支援、ベンチャー政策の立案に至るまで幅広く手掛けている。
――――――――――
■デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
http://www.deloitte.com/jp/dtvs
――――――――――