税金の専門紙「週刊税のしるべ」(大蔵財務協会)の10月23日号に掲載されていた「東京地裁処分一部取消し~役員退職給与平均功績倍率の“1.5倍”まで損金算入可」の記事が税理士の中で話題になっている。役員退職給与(役員退職金)については、節税効果が高いため、課税当局と意見が食い違うことも多いが、今回の東京地裁判決は、同業類似法人間における功績倍率の考え方に一石を投じた。

法人税法では、役員退職給与(役員退職金)について、役員給与の損金不算入規定(法人税法34条)が適用されず、原則、損金算入が認められるとしている。ただ、その額が「不相当に高額」な場合や、退職の事実がない場合には、損金算入を認めていない。役員退職給与は、所得税の区分上、退職所得として区分。課税も現在非常に優遇されている。そのため、合法的な究極の節税と言われている。

この争いは、この役員退職給与が「不相当に高額」が否かが争われたもの。納税者側は、新潟県内に本店をかまえる法人。平成20年10月に代表取締役5年含め、27年間務めた役員が死亡したことから、同社の役員退職金慰労規定の基づき、株主総会の決議を経て4億2千万円を支給。法人は全額損金算入して確定申告した。

ところが、課税当局は、役員退職給与のうち不相当に高額な部分は損金算入できないとして更正処分を行ったことから法廷で争うことになった。

課税当局は、「不相当に高額」とする理由として、原告法人が所在地としている新潟県内の同業で、売上規模などの似た法人の中から、原告法人同様に代表取締役が死亡、退職給与を支給した5法人の平均功績倍率を計算。この倍率が3.26倍だったことから、3.26倍を基準に、それ超えた金額部分について「不相当に高額」とした。

これに対して原告法人は、死亡した代表取締役の最終月額報酬(240万円)から27年間の勤続年数を除して計算し、功績倍率は6.49倍、役員退職給与は4億2千万円としていた。

東京地裁は判決で、同業類似法人をベースにする平均功績倍率法については合理性を認める一方で、平均功績倍率を少しでも超えるものを「不相当に高額」と考えるのは硬直的な考えと指摘。さらに、納税者が同業類似法人の役員退職給与を参考にすることは、税務署のような厳密な調査は期待できないため、納税者側の事情にも十分に配慮する必要があるとしている。そのうえで、役員退職給与として相当であると認められる金額は、事後的な税務署側の調査による平均功績倍率を適用した金額から相当程度の乖離を許容するのが妥当とし、少なくとも課税当局側の調査による平均功績倍率の数に、その半数を加えた数を超えない数の功績倍率、つまり、このケースでは1.5倍程度により計算された役員退職給与の額は「相当」と認められる金額と判断している。とはいうものの、無差別に相当と判断するものではなく、具体的な功績等を考慮し、「明らかに過大と解すべき特段の理由がない限り」と前置きしている。

東京地裁はこれらを踏まえ、平均功績倍率について、国税当局が算定した3.26倍にその半数を加えた4.89倍をベースに計算。3億1687万円を超える金額部分を「不相当に高額」になるとした。

東京地裁の指摘に代表されるが、税務の実務家である税理士の多くが、税務署の行う同業類似法人による平均功績倍率の算定は、そもそも情報のない納税者側とでは乖離すると指摘する。それを当局基準で算定されるのは「不公平」との声も少なくない。

今回、東京地裁が示した“1.5倍”という基準については、議論の余地も多々あると思うが、課税当局の算定数値が絶対という考え方に「待った」がかかったことは大きい。とはいうものの、そもそも納税者側に「情報がない」ということの解決にはなっていない。

この問題は今後、識者を含め議論が深まるだろう。役員退職給与から目が離せない。