相続税の調査は、一生に1回あるかないか。そのため、実地調査ともなれば、調査官ペースで行われ、非違(違法)割合は8割を超える。そんな相続税調査だが、調査ポイントである“名義”を押さえておけば何も怖いことはない。
実は税の専門家の税理士も、相続税調査の立会経験はあまりない人がほとんどだ。というのも一般的な会計事務所なら、相続税の申告も年間数件程度、そのうち調査まで及ぶものはほとんどないからだ。
国税庁によると平成27年中(平成27年1月1日から平成27年12月31日)の相続税の申告は10万3043件、このうち実地調査まで及んだのが1万1935件で非違割合は8割超となっている。
つまり、申告件数の1割が調査対象となり、調査になれば8割以上の確率で何らかの非違が指摘されるわけだ。
非違のテッパン指摘事項は、“名義預金”“名義株”だ。
名義預金とは、形式的には家族の名前で預金しているものの、実質的にはそれ以外の真の所有者がいる、つまり、それら親族に名義を借りているのに過ぎない預金をいう。株式についても同様に名義だけを借りて購入しているものを“名義株”という。
ではなぜ、この名義預金や名義株に目を光らせているかと言うと、相続税等の国税は、一般的に実質の所有者や所得者に課税する「実質課税主義」をとっているためだ。名義の如何を問わず、実質被相続人に帰属する財産は、相続財産として相続税の課税対象となる。
国税OB税理士によると、名義預金や名義株など他人名義の財産の帰属について調査担当者は、(1)財産の原資は誰が負担しているか、(2)誰がその財産を管理・運用・支配しているか、(3)利息や配当金などは誰が受け取っているのか、(4)名義人がその財産を有することとなった経緯を重点的に調べ上げ、総合勘案して“名義”かどうかを判断すると言う。これらは基本的なチェック項目だが、それだけに調査される納税者側も押さえておくべきポイントだ。
具体的には、「預金通帳や証書、届出印鑑、キャッシュカード、株券・預かり証等を誰が所持しているか。その保管場所は被相続人の自宅の金庫や被相続人名義の貸金庫等ではなかったか。預金や株式の取引の指示は被相続人がやっていたのかなどを調べる」(前出国税OB税理士)。
とくにこのとき注意してみているのが、預金通帳等の所持や保管の状況は相続開始時点ではどうだったかどうか。調査官は財産帰属の判断ポイントと考えているとしている。
取引銀行等の調査を「反面調査」というが、調査担当者は反面調査で、被相続人の預金や株式取引口座の開設申込書、払い出し請求書等の筆跡の確認、銀行や証券会社当の取引担当者の聞き取りも行う。つまり、被相続人が持っていた資産の流れをすべて押さえようと調査しているのだ。
調査官は、調査で確認したこれら事実から、名義預金、名義株の判断をすることになるのだが、相続税調査は、法人税等の調査と違い帳簿等から証拠を出せないので難しいといわれる。つまり、本人の証言しか、証拠となる事実確認がとれない。証拠をそろえるために、かなりの労力を使うのが相続税調査と知っておく必要があるのだ。