インターネットの力で古くからある印刷業界の産業構造を変え、新しい価値を生み出すラクスル株式会社(東京・品川区,代表取締役=松本恭攝氏以下、「ラクスル」)。松本社長が目指しているのは印刷業で稼ぐという目先のことではなく、「個のエンパワーメント」。中小企業であっても、大企業と同じ戦い方ができるようにサポートしていく。印刷と言えば「ラクスル」というイメージだが、実は他にも画期的なサービスがたくさんある。中小企業でも使い勝手の良い同社のサービスや今後の展望について、松本恭攝代表取締役に聞いた。
ラクスル株式会社 代表取締役 松本 恭攝
1984年生まれ、富山県出身。 慶應義塾大学商学部卒業後、A.T.カーニーに入社。コスト削減プロジェクトに従事する中で、6兆円の市場規模がある印刷業界に効率化が行われていないことに注目し、インターネットの力で印刷業界の仕組みを変えるべく2009年9月にラクスル株式会社を設立。印刷会社の非稼働時間を活用した印刷のEコマース事業を展開する。その後、2015年12月からはトラック物流の運送マッチングサービス「ハコベル」事業も開始。
―「ラクスル」をスタートしたきっかけやサービスに込めた思いを教えてください。
松本 印刷業界にインターネットでシェアリングする新しい仕組みを持ち込み、お客さまとサービス提供者双方にとって使いやすい新しい商習慣を提供していくことを目的に会社を設立しました。
これによって、これまでは大企業しか使えなかった折り込みやポスティングを予算が少ない中小企業でも活用できるようになりました。部数にもよりますが、広告代理店に依頼するとだいたい50万円ほどは必要だったのが、ラクスルをご利用いただくと印刷費込みで平均単価5万円で折り込みやポスティングが可能です。
このように、インターネットを活用することで営業コストを省いたり、スケールメリットを効かせたり、さまざまなバリエーションそのものを変えることによって小ロット化することで、結果的に少額で中小企業にも使っていただけるようになります。
インターネットを使って中小企業をエンパワーメントしていくこと。当社のミッションは印刷業で稼ぐことではなく、中小企業が元気になり成長していくサポートをしていくことで、社会に貢献していきたいと思っています。
ラクスルが中小企業を支援するということ
―中小企業が大企業と同じスタートラインに立てるようになったということですね。画期的なサービスですが、どのような仕組みでサービスを提供しているのか教えてください。
松本 日本国内の印刷会社をネットワーク化し、その印刷会社の空いた時間を使って「ラクスル」で依頼を受けたものを印刷し、近くのお客さまにお届けします。
印刷会社には二つ課題があって、まず、市場自体が縮小していて、稼働率が下がってきているということ。もう一つは、印刷する側の需要がインターネットで印刷することにシフトしてきているということです。インターネットで印刷する需要は増えており、マーケットも伸びています。ですが、そこに印刷会社はアクセスできない状況がありました。
この二つの課題をわれわれがインターネットを活用しマーケティングすることで解決しています。
―会計事務所が「ラクスル」を活用するとしたらどんなシーンが想定できますか。
松本 まず、名刺の印刷に当社を利用していただくだけで間違いなく差を実感いただけるはずです。名刺なら500円で100枚印刷できます。圧倒的に安いはずです。
私は、もともと外資系のコンサルティング会社でさまざまな会社のコスト削減に関与してきました。そのときに広告費や人件費、物流費などあらゆるコストがある中で印刷代が一番削減率の高い「非効率の市場」だったんです。
名刺を入り口に改善効果を実感していただいて、徐々にチラシを作るなど「デザイン」性の高いものにシフトしてみていただけたらと思います。
いくつかデザインのテンプレートを用意していますから、どれか選んでいただくだけです。
デザインを選んでいただいたあとは文字を変えたり、写真を入れ替えたりしていただくだけで簡単にチラシを作ることができます。デザインコストの削減になりますし、冒頭でお話した仕組みによって印刷も安くすみます。
そのほか、たとえばユーザー画面上で住所と日付を入力していただくと、そのエリアの世帯数と必要な印刷枚数が表示されます。「1万世帯に折り込みチラシをポスティングしたい」なら、デザイン・印刷・配布込みで約6万円程度でできます。
中小企業のみなさまがトップラインを伸ばして新規のお客さまにアプローチしていくことはなかなか難しいと思いますが、それをインターネット上で簡単にマーケティングができるというわけです。コスト削減から顧客獲得のご提案まですべてラクスルで完結できます。
新聞の折り込みチラシも可能です。これまで、費用やノウハウの面でなかなか中小企業ではできなかったことだと思います。ラクスルは、北海道は稚内から沖縄の石垣島まで全国に対応しています。
たとえば、新聞折り込みをしたい地域をウェブ上の地図でエリア指定すると、何丁目に何新聞を購読している人が何人いるというデータが出てきます。このようにわれわれがテクノロジーを使って中小企業の業務効率化を実現し、エンパワーメントしていくことを目指しています。
―中小企業にとっては、マーケティングと営業活動の革命ですね。ここまで効率化できると、中小企業の働き方や職場環境、人材採用の仕方も変わってくるのかなと思います。どのように中小企業の働き方改革に貢献したいとお考えですか?
松本 まず、当社のサービス使っていただくことによって、圧倒的に時間の短縮になります。たとえばチラシを自分たちで捲くこともワンクリックで完結します。
人件費を考えてもこちらの方が絶対安いですし、印刷をするにしても何回もデザイナーや印刷会社を呼んで、見積もりを取らなくても画面ひとつで終わります。このように業務をIT化していくことによって、生産性が圧倒的に上がります。
労働環境もはるかに改善しますし、コストも下がります。これまでより時間を効率的に使うことができるので、ぜひ使ってみてほしいですね。
―「ハコベル」というサービスも面白いところに目を付けましたね。
松本 「ハコベル」は運送会社をネットワーク化して、ドライバーの空いた時間で荷物を運ぶサービスです。お客さまはオンラインで簡単に配送を頼めます。
たとえば、「ハコベル」の入力画面で荷物を運びたいA地点からB地点を選択していただくと距離が計算されて、それをもとに配送料金が自動的に算出されます。
オンラインで配送を依頼していただくと、ネットワーク化している運送会社の中から手が空いているドライバーが見つかり、そのドライバーがA地点で荷物をピックアップしてB地点に運びます。
われわれはドライバーやトラックを保有せず、ネットワーク化している運送会社が約2千台のトラックを保有していて、そのトラックのドライバーに配送依頼情報が一斉に送られる仕組みです。
トラックを1台貸し切って配送するので、「家具を運んで欲しい」「特定の時間に特定の場所に寿司を運んでほしい」など、宅配便ではカバーできないような細かいリクエストにも対応可能なので、さまざまな「運びたい」のリクエストにお応えしています。
また、ドライバーからすると、空いている時間を使って効率よく稼ぐことができるのです。