国民皆保険制度の日本では、原則としてすべての人が何らかの公的医療保険に加入していますが、制度が複雑で「どんなときに、いくらもらえるのか」よく分からない、という声を聞くことも少なくありません。今回は日頃お問い合わせいただくことの多い社会保障のうち、健康保険の制度について解説したいと思います。
世界に誇る日本の医療保障制度
ちょっと調子が悪かったり、風邪をひいてしまったとき、経済的な理由で「病院に行くのはやめておこう」と考える人は決して多数派ではないでしょう。保険証一枚で「誰でも、いつでも、どこでも」質の高い医療サービスを受けることができる我が国の医療保険制度は非常に恵まれているといえます。
ドイツやフランスなどの多くのヨーロッパ諸国も社会保険制度が中心ですが、保険料を支払う余裕のない所得の低い人は公的医療保険には加入できないという国もあります。アメリカでは現役世代の保障は民間の医療保険が大きな役割を担っています。ところが日本では所得の低い人にも保険料の減免制度を設けるなどして、できる限り公的保険の枠組みに取り込もう、という仕組みになっています。
原則3割負担の現行制度
現行の制度では、70歳未満の方の自己負担割合は通院・入院ともに3割となっています。病院に行って3千円請求されたとしたら、実際の費用は1万円かかっていて、公費で7千円が賄われているわけですね。ちなみに小学校入学前のお子さんの場合は2割の負担となり、市町村によっては小・中・高等学校卒業までなど自己負担分の補助があります。ちょっとした通院で多額の治療費がかかるケースは稀と言えるかもしれません。
入院時の自己負担、平均は22.1万円
とはいえ、入院したり、重い病気に罹ってしまったら…?「いくらかかるのか見当もつかない」というのでは不安ですよね。生命保険文化センターの調べによると、入院時の自己負担費用(※1)の平均は22.1万円です。過半数が20万円未満という回答結果になっています。
自己負担費用が極端に多額とならない大きな理由として、高額療養費制度の存在が挙げられます。重い病気や長期の入院で医療費がかさんだとしても、平均的な所得の方で自己負担限度額は月額でおおよそ8万円程度です。3割負担の金額で病院から100万円を請求されたとしても、所定の手続きを経れば90万円以上は返ってくるわけですね。多額の立替払を避けたい方は事前に手続きをすることで窓口の支払いの時点で自己負担限度額で済ませることもできます。
民間の医療保険には加入すべき?
入院した場合に期待できる準備手段のアンケート(※2)では、トップが「入院時に給付金のでる生命保険」で60.3%となっており、次点が「預貯金・貸付信託・金銭信託」の42.3%です。入院時の備えとして民間の医療保険に加入する方は多いと思いますが、「何となく不安だからとりあえず入っておこう」ではなく、「公的な保障でどんな時にいくら賄われるのか、自己負担はどこまで許容できるか、民間保険に加入する場合はコストが見合うか」はしっかり検討した方が良いでしょう。
毎月の保険料の負担感は少なくとも、長い目で見ると小さくない出費になるかもしれません。たとえば保険料として毎月3千円を払い、加入から5年後に入院して10万円の給付を受けたとします。お金が振り込まれると「保険に入っていてよかった」という気持ちになりがちですが、5年間の保険料負担は毎月3千円×12カ月×5年間で18万円。「これって銀行に貯めておいても払えたのでは…?」なんてことになることも。
「感情」だけでなく「勘定」も考える
民間の保険はもしものことが起こったときの不安という「感情」を解消してくれる役割を担いますが、その対価として保険料というコストが発生します。そのコストが目的を達成する上で適切な水準なのかを「勘定」で考えてみることも重要です。
未知のものに対して過剰に不安を感じてしまうことって多いと思います。待った無しで少子高齢化が進む今の日本ではとくに、社会保障の分野は選挙や国会の度に必ずと言っていいほどテーマに上がりますし、将来どうなるか確実なところは誰にも分かりません。
人口減少、医療技術の進歩などで過去に例を見ないほど変化が激しく、予測困難な時代を僕らは生きています。そんな時代だからこそ、断片的な情報や極端な論調に踊らされるのではなく、なるべく正確で正しい情報を能動的に取りにいく姿勢が大事なのではないでしょうか。僕自身もライフプランナーとして、大切なお客様に正しい情報をお伝えできる存在でありたいと思っています。
※1 過去5年以内に入院した人へのアンケート調査。治療費・食事代・差額ベッド代含む。高額療養費制度を利用した場合は利用後の金額。生命保険文化センター「生活保障に関する調査」(平成28年度)より
※2 世帯主が病気や交通事故などで2〜3カ月入院した場合に期待できる準備手段。「期待しているものはない」は分母から除外。生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」(平成27年度)より