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【世界を飛び回るサラリーマン圭亮の税ノート】最終回/オーストラリアで知った、高学位が払う学位税!?

東京、ニューヨーク、香港と渡り歩いた“旅するタックスアドバイザー”マリアが、世界を飛び回るサラリーマン圭亮を主役として、出張先の国々と日本との文化や税制の違いを紹介します。今回は、本シリーズの最終回。圭亮のオーストラリアへの人事と、新たな土地で出会う変わった税制について紹介します。

白羽の矢が立った

せわしなく出張を繰り返してきた圭亮は、突然オーストラリアに駐在することになった。

ことの発端は2017年夏。圭亮の勤める専門商社が、オーストラリアにある繊維会社との合弁会社設立を発表したのだ。合弁会社はシドニーに設置されることとなり、日本本社からの派遣社員第一号として、圭亮に白羽の矢が立ったのであった。“世界の全てから遠い”といわれるオーストラリアへの急な人事であったが、独身でありフットワークの軽い圭亮であれば喜んで飛んでくれるだろうという、会社の意図が裏にあった。

このような背景で、圭亮は急きょシドニーへ飛ぶことになったのだった。それは誰もが認める栄転であった。

Photo by makoouji

大晦日にシドニーへ着いた圭亮は年末を一人で過ごし、始めこそ少し寂しい思いをしていたが、仕事を開始すると知り合いも増え、日々の生活において孤独を感じる暇のないようになっていた。

これまでは東京を拠点として世界を飛び回っていた自分が、今後数年は、ここシドニーに腰を据えてプロジェクトに励むことになる。飽きはしないものかと懸念していた圭亮であったが、現地での仕事を始めるとすぐに、そんな思いは吹き飛んだ。

合弁会社には日本からの派遣社員が自分一人しかおらず、今後その人数が増える見込みであるとはいえ、現時点においては日本人第一号として、人事や経理といった庶務まわりのことから現地での流通まわり、クライアントとの付き合いまで幅広く理解し、管理しなければならない。管理職になるということの重みと、職種など関係なくとにかく全てやるという業務内容の膨大さとで、圭亮は今までにない忙しさ、そして充実感を感じていた。

ますます身近になる、個人所得税

オーストラリアへ駐在することとなった圭亮は、これまでになく個人所得税についての知識を深めていた。これまでも出張が多かったため、海外で納税をする必要が出てくる可能性があり、会計事務所と何度か話をしたことはあった。

しかし今回のオーストラリア赴任に関しては、より深いところまで理解をする必要があった。自分を含め、今後日本から派遣されてくる日本人社員は、派遣開始の年などに日本とオーストラリアとの間の税金の調整が必要となってくる。

また、そもそも、合弁会社の給与計算を誰がやるのか、何が必要なのかなどという、オーストラリア現地での源泉徴収事務についても圭亮が管轄する必要がある。会計事務所のサポートがあるとはいえ、会社側の責任者として圭亮は諸々のコンプライアンスを把握しなければならない。

よって圭亮は、日本本社の人事、経理、日本の会計事務所、オーストラリアの会計事務所とを束ねる存在になっていた。会社が源泉徴収した税金をどこにいつまでに払うのか、オーストラリアの申告期限はいつなのか、日本では何をしてオーストラリアでは何をするのか。そういったことを一つ一つ確認していくなかで、圭亮の知識は深まっていったのだった。

「これまでは自分の業務しか興味がなかったけど、個人所得税の世界って深いし入り組んでいるし、とても興味が沸くよ」

とある昼下がり、遅目のランチをケビンととりながら、圭亮はふと、こんなことを漏らした。

Photo by Dunhill

ケビンはオーストラリアの繊維会社から出向してきた人事である。合弁会社において採用係を担っており、今後短期間で10人程度の新規社員を雇うというプロジェクトを担当していた。彼はその道約30年の大ベテランであった。

「税金ね。オーストラリアも日本と似ていて源泉徴収大国だから、自分からすごく興味をもっているという人は少ないかもしれない。そういえばオーストラリアにはひとつユニークな税があるんだよ。ケイスケ、“学位税”って聞いたことあるか?」

オーストラリアの学位税

「学位税?それって、学位をとると税金を払うっていうことか?」

そんな税金があるのかと、圭亮は驚いた。オーストラリアの大学進学率は決して低くないはずだが、そんな税を導入していいものなのか。オーストラリアの税制については現地のアカウンタントから説明を受けていたが、これは初耳であった。

「ははは、まぁ、そうだしそうではないともいえるな。これ、オーストラリア国内だと税金って呼ばれていないんだけど。海外の人に話すとみんな税金だと思うんだ。だからもはや、学位税なんてニックネームが付いているんだよ」

ケビンは続ける。

「ケイスケ、オーストラリアの大学って、ほぼ国立なんだ。私立ではなくて、国立。まずこれがとても重要なんだ」

Photo by はむぱん

ケビンは人になにかを教えるとき、先生のような話し方をする。50代半ばにしてヤングプロフェッショナルを相手に採用活動を行う職務柄、癖になっているのかもしれない。

「次に大事なのは、オーストラリアの学生は学費を卒業後に払うことがとても多いということ。日本にも在学中は奨学金でやりくりをして、卒業後に働きながら返済をするヤングたちがたくさんいるだろう? まぁ、そんな感じだ。違いはローンを組むというわけではなくて、学費の元本を卒業後に支払うということが通例としてあるんだ」

圭亮自身も、在学中は学生支援機構からの奨学金を生活費の足しにしていた。卒業後数年で完済したが、昨今奨学金の貸し倒れが大きな問題としてニュースにとり上げられていることをふと思い出した。ケビンによると、オーストラリアの学費の支払い方法は日本とは多少異なり、学費をそもそも卒業後に支払うことが当たり前のこととされているようであった。

「それでな、ここからが税金というニックネームが付く理由なんだ。学生が卒業して、働き始める。それで学費の支払いを開始するだろ? いいか、そのとき、収入が高い卒業生は学費に3~5%ほどの額を加えて支払いをしなければならないんだ。一方、収入が低い卒業生は学費になんにも足されないことがある」

なるほど、これは所得税と似ていると圭亮は思った。個人の所得に応じて負担が変わる。

「はじめに大切だと言ったけど、オーストラリアの大学は、ほとんどが国立なんだ。どういうことか分かるか? 学費と合わせて支払われる3~5%の金額は、国に帰属するんだ。税金とそっくりだろ?」

「そっくりだ。学位税って聞くと、学位を取ると税金を払わなくてはいけないのかと思われるけど、学位を取って、かつ高収入だと払うんだな。うまくできてるな」

税金と、国民への納得のさせかた

オーストラリアの学位税は、高所得の人が高い税率を負担し、低所得の人は低い税率を負担するという日本の所得税の超過累進税率ととても似た仕組みをもっている。

しかし考えてみてほしい。現在日本の所得税率は、5~45%である。もし仮に、大学卒業者でかつ高収入の人は45%の代わりに48~50%の税率を負担するという税制ができたとすると、その数字のインパクトは甚だしいものになる。「頑張って勉強をして学位を取ると税率が上がる?」という、負のイメージをもたれてしまうリスクもある。

そこを、所得に対して3~5%ではなく学費に対して税率を掛けるということにする。そして所得税制とは切り離して、あくまで学費の支払いという枠内で徴収を行う。こうすることによって、なぜか納税者側の受け入れが所得増税ほど辛辣なものにはならない。

「うまくできているな」

圭亮は改めてそう思った。

圭亮は、オーストラリアでの仕事を開始して税の知識が深まるにつれ、制度そのものや計算方法などよりも、“これを払う根拠は何か”という精神的なところが気になるようになっていた。税を支払うのであれば、納得して支払うほうがいい。

払う代わりに何が得られるのか、なぜ自分が払わなければいけないのか。公共サービスを使うから払うのか、稼ぎが他の人より大きいから相対的責任として払うのか。

30代半ばにして、新しいことを学ぶのはとても楽しい。今後数年の圭亮の毎日は、とても充実したものになりそうだった。

著者: ワタナベマリア

旅するタックスアドバイザー

香港在住の税制コンサルタント。過去に東京、ニューヨーク、香港にて国際税務アドバイザーの仕事を行う。世界中を旅する会社人に各国の税制のアドバイスを行う中で、制度比較から見えてくる税金のおもしろさを広めようと執筆を始める。現在は香港大学大学院で国際法及び租税法の研究中。慶應義塾大学法学部卒。

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