国税庁は平成29年6月、「税務行政の将来像~スマート化を目指して~」と題し、中長期的(概ね10年後)に税務行政が目指していく方向性について発表した。これは、税務行政が抱える課題についての対策として、高度化する情報システムを駆使し、抜本的に税務行政のあり方を見直そうとするものであり、とても興味深い内容となっている。

■税務行政の現状とスマート化への舵きり

まず、税務行政の現状として、税務職員の定員が減少の一途を辿っているにもかかわらず、所得税・法人税の申告件数は増加していることが挙げられる。なかでも、富裕層の所得税や相続税の申告件数が増えている。

今後、導入予定の消費税軽減税率制度やインボイス制度などが施行されれば、さらに税務職員の業務負担が増えることが予想できる。このように、税務職員の定員は減少しているにもかかわらず、職員の業務量は増えるばかりで、経済取引のグローバル化等により事案が複雑・困難化しているなか、じっくり取り組む余裕がない現状が垣間見えてくる。

そこで、こうした現状に対する対策としてあげられたのが、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)のフル活用である。納税者の利便向上を実現するとともに、効率的な課税・徴収を可能にすると期待されている。

■税務行政の将来像の具体的内容 ~1. 納税者の利便向上の観点から~

具体的には、納税者の利便向上の観点から、下記の対策が実施される。

1.税務申告納付について、マイナポータルやe-taxのメッセージボックスを利用し申告納付等、必要な税務案内を納税者にダイレクトに行う

2.税務相談コールセンターや税務署の相談窓口に代えて、チャット機能を利用した税務相談の自動化を進める

3.現在の納付書による納税に代えて、電子納税等の利用による申告納付のデジタル化推進

これまでは、マンパワーに頼り、郵送で行っていた業務を、AI等の活用により納税者の利便を確保しつつ、省力化を図ろうとする内容となっている。

■将来像の具体的内容 ~2. 課税・徴収の効率化の観点から~

次に課税・徴収の効率化の観点から、下記の対策が実施される。

1.納税者から提出された税務申告内容を現在の手作業によるチェックからAIを活用し自動的にチェックを行う

2.申告内容の軽微な誤りであればメール等で修正申告を依頼するオフサイト処理を推進し、効率的な税務調査を行う

3. 税の徴収においても、納税者の納付能力判定や差押財産の把握などにAIを活用していく

課税・徴収を効率化・高度化することで軽微な案件の省力化と税務署内部の事務運営を重点課題(国際的租税回避への対応、富裕層に対する適正課税の確保、大口・悪質案件への対応)とされる分野に注力できる体制づくりに取り組む。

■おわりに

約10年後の「税務行政の理想像」を要約すると、AI等をフル活用することで、申告から納付までの税務手続きを抜本的にデジタル化し、納税者の利便性を向上させること。そして、課税・徴収を効率化・高度化することで、重点課題に注力できる体制づくりを行うことだ。ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)の技術が高まれば、スマートな税務行政が期待できるのではないだろうか。

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