グローバル企業は、巧みに節税している。節税どころでない租税回避だ。企業サイドからしたら、「違法じゃないので何が悪いのか?」と言いたいところだろう。それでも米グーグルはこのほど、英国議会に考慮して、追加納税することを決めた。グーグルだけでなく、グローバル企業で展開される租税回避スキームは新しい納税の形なのだろうか。
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米グーグルはこのほど、英国の税務当局に対して、2005年以降の追加納税として1億3千万ポンド(約220億円)を納めることで合意したという。
グーグルなどの多国籍企業は、税率の低いアイルランドなどのタックスヘイブン(租税回避地)を使って、欧州各国での税負担を圧縮、租税回避している。BBC放送によれば、英国内での13年の売り上げは約38億ポンド(約6千400億円)にのぼるものの、同年の納税額は約2千万ポンドだ。これは凄すぎる内容だ。
英国のオズボーン財務相は昨年4月から、悪質な租税回避には懲罰的な意味を込め、法人税(20%)より高い税率25%を適用する「グーグル税」を導入している。納税額の最小化を突き詰めてきたグーグルもようやく観念した格好だ。 これまで納めていなかった法人税の追加分を認めて納めるのだから、「英税務当局の勝利」なのかもしれないが、何を英国での法人所得と認定し、何%の税率を適用したのか、まったく分かっていない。
英紙フィナンシャル・タイムズによると、グーグル側は今回の合意に対して「英国でのビジネスの規模と範囲を反映させた」と説明。売上高に見合った納付となるよう今後、会計制度を見直すらしい。フランス当局に対しても、最大10億ユーロ(約2千億円)の追加納付を求めており、今回のグーグルの対応は他国や他の企業に広がる可能性もある。
というのも、各国の税制をうまく利用して、合法的に節税するグローバル企業は増え、各国の課税当局は頭を悩ませているからだ。
さて、グーグルの節税手法だが、ここで少々説明すると、国際的には「ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ」と呼ばれているもの。グーグルは米国に本社があるものの、海外事業の中心拠点はアイルランドに置いている。アイルランドの子会社から利益は、合法的にタックスヘイブンとして知られるバミューダへ移転させるのだが、バミューダへの移転前にオランダを経由させる。
こうすることで、アイルランドに集められた利益は、源泉徴収を納めなくてもよくなる。アイルランドの税法では、アイルランドとオランダは、いずれもEU加盟国であるため、他のEU加盟国に支払われる特定のロイヤルティが免税される。英国で発生した利益を、オランダの関連会社にロイヤリティを支払う形で消滅させているわけだ。英国ではみかけ上、利益が発生しない。つまり課税対象とならないわけだ。また、バミューダにおいては法人税がないため、実質的に納税しなくてもよい。
こうした国をまたいだ節税手法が、オランダを挟んでいる2国間で行われるため「ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチダッチ・サンドイッチ」と名付けられた。
こうした租税回避は、グーグルだけでなく、アップルやマイクロソフト、スターバックスでも行われ、国際的に租税回避を取り締まる動きが活発になっている。
イタリアでもグーグルやアマゾン、アップルといったインターネット広告ビジネスを展開している多国籍企業を対象にグーグル税を課税している。イタリアで広告を出す場合、同国企業を通じた取引を義務付けることで、税収を確保している。
グローバル企業の租税回避行為は、社会的企業責任という意味では不誠実ではあるかもしれないが、脱税と認定するのは難しい。課税当局が躊躇するのもわかる。それゆえ、英国では議会からの圧力をかけ、グーグルもようやく当局との交渉を始め、税金を納めることになった。
こうした多国籍企業の課税逃れ封じは、経済協力開発機構(OECD)が、企業が実際に経済活動を行った国で納税するよう国際課税ルールを厳格化させた。日本もこれに参加しており、平成28年度税制改正にも反映されている。
とはいうものの、インターネットの普及で世界中がボーダレスになりつつある過渡期では、グーグルなどのグローバル企業の主張は新たな税金の形なのかもしれない。一方で、
「納税をなぜしていくのか」、この哲学的、道徳的部分の欠落、説得力なさが、こうした企業活動を生んでいるともいえる。制度で縛る前に、納税者側の理解を得られるような教育が、国境を越えて必要になってきている。