「相続した土地や不動産の処分に困っていた」。こうした悩みを抱えていた人には朗報だ。平成28年度税制改正により、適用要件はあるものの、売却した場合、税制の優遇措置が受けられることになる。一方で、「空き家・空き地」を放置し続けると、税制面で損する可能性もでてきた。
2016年は「空き家・空き地売却元年」になりそうだ。
相続した土地や家を放置している人は、全国的に増加傾向だ。総務省の平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果によれば、全国の空き家は820万戸。空き家率は13.5%と、5年前に比べ0.4ポイント上昇している。
これを都道府県別に見ると、東京が10.9%、神奈川10.6%、千葉11.9%、埼玉10.6%。つまり、首都圏でも10件中1件は、空き家になっている。
これが地方都市だと、大阪14.8%、愛知12.3%、福岡12.7%、北海道14.1%。8件に1件が空き家と、都市部より多い。
現在、なぜ空き家が多いかといえば、更地にするよりも空き家のままにしておいたほうが、固定資産税がおトクだからだ。また、都心でも、なかなか土地が売れなくなっていることも起因する。
しかし、平成28年度税制改正により、固定資産税などが優遇される税制が適用できなくなる可能性が出てきた。
「特定空き家」に認定されると、特例を受けられなくなるのだ。
2015年2月26日、「空き家等対策の推進に関する特別措置法」、略して「空き家対策特別措置法」の一部、同年5月26日、市町村の立ち入り調査、「特定空き家」に対する指導・勧告・命令・代執行・過料の規定が施行された。
これは、市区町村の権限を強化し、倒壊の恐れのある空き家や衛生上著しく有害となる恐れのある空き家を「特定空き家」として認定、所有者に対して、撤去や修繕を命令できるようにしたもの。
「特定空き家等」の認定については、基本はそれぞれの地域の実情に応じて、市町村が判断規準や手続きを定めるとしているが、国土交通省の市町村向け指針(ガイドライン)に、
(1)倒壊等、著しく保安上危険となるおそれのある状態、
(2)著しく衛生上、有害となる状態、
(3)適切な管理が行われず景観を損なった状態、
(4)周辺の生活環境の保全のために放置することが不適切な状態
にあるものを上げている。
しかし、「将来の蓋然性を含む概念であり、必ずしも定量的な基準により一律に判断することはなじまない」とし、法第7条に定める協議会において学識経験者等の意見も聞くなどして、「総合的に判断されるべきもの」と慎重な対応を求めている。
上記のような要件に該当するものを「特定空き家等」と位置づけているわけだが、平成28年度税制改正では、この「特定空き家」と認定した場合は、小規模住宅用地であれば1/6減免、一般宅地用地であれば1/3減免が適用されなくなり、それぞれに固定資産税が6倍、3倍に増えることになる。
たとえば、相続した実家の固定資産税がこれまで5万円程度だったものが30万円に跳ね上がる。これまで同様、空き家を放置したままにすることが許されなくなるのだ。所有者としては、空き家・空き地を売却するか、住むか、活用するかの三択を迫られる。
こんな折に、平成28年度税制改正で期間限定ながら、3千万円の譲渡所得控除による税の軽減が行なわれる。使わない手はない。控除が適用できる要件は、以下のすべての要件を満たす必要がある。
・相続開始の直前まで被相続人の自宅であり、被相続人は一人暮らしであったこと(相続発生により空き家になった)。
・その自宅(家屋)は昭和56年5月31日以前に建築されたものであること(旧耐震基準の状態だった)。
・その自宅(家屋)は区分所有建築物でないこと(マンションなどは対象外)。
・その自宅を相続した相続人が、家屋を除却して土地を売却する、又は必要な耐震改修をして家屋又は家屋とその敷地の土地を売却すること。
・平成28年4月1日から平成31年12月31日の間の売却であること。
・相続時から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却であること(要するに平成25年1月2日以降に発生の相続)
・売却額が1億円を超えないこと。
・相続時から売却までの間に、事業・貸付・居住の用に供されていないこと(売却までずっと空き家状態)。
・役所等から要件を満たす証明書などの書類を入手し、確定申告書に添付して申告すること。
こう見ていくと、適用はかなり限定的だ。それでも、適用要件に適うなら、この機会に売却しない手はない。
さらには、適用要件に適わなくても、現在は日銀の金融緩和の影響で不動産価格の下落スピードが落ちており、売却の絶好の機会と見ることもできる。人口減少が本格化し、不動産価格が急落する前に手を打っておきたい。