前回、大学院講師のお話をしましたが、税理士になったらやってみたかったことの一つが「租税教育」でした。これは、小学生に税金のお話をするお仕事で、税理士会の支部から派遣されます。

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勤務税理士だったころは、東京税理士会の支部活動に参加することは難しく、租税教育の講師をしてみたいと思いつつもできずにいたのですが、開業して今の支部へ異動し、晴れて租税教育の講師デビューをすることができました。

東京税理士会にもしっかりしたシナリオがありますし、私の所属する杉並支部にも支部オリジナルのシナリオがあります。ですから、それほど難しいわけではないのですが、私は、東京税理士会の講師研修を受けた後、ベテラン先生の模擬授業を拝見したり、その先生の事務所で練習会をさせていただいて、スマホで動画を記録して自分の話し方等を研究したりもしました。

当たり前ですが、一方的にこちらから話すだけでは子どもたちは飽きてしまいます(大人もそうですよね…)。そこで、こちらから問題を出したり、じゃんけんをしたり、手を挙げてもらったり……進め方は自分なりに工夫をしています。あと、どこかで読んだのですが、「小学6年生の心を掴むにはタメ語!」だそうです(笑)。「『税理士』って聞いたことある人いますか?」ではなく「『税理士』って聞いたことある人ー??」のように。

税理士が、小学6年生(もしくは中学3年生)に、税金のお話をすることはとても意味のあることだと思っています。

どうして税金というものがあるの?税金がなかったらどうなるの?どういう仕組みで集められてるの?どこにいくら使うかどのように決めているの……?

「税金」って、大人が払って大人が集めて、大人が使い方を決めている、自分たちにはあんまり関係ないと思っている小学生も多いと思います。

そんな子どもたちに、病院や学校や道路は税金で出来ているんだよと具体例を挙げながら話すと、税金って自分たちの生活に直接関係あることなんだなぁと感じるようです。また、「国づくりゲーム」という、税金の使い道を決める国会をプチ体験できるようなゲームをすることもあります。

どの学校でも盛り上げるのが「みんなに1人、1カ月学校でどのくらいの税金が使われていると思う?」というクイズで、正解を発表した後(ちなみに小学生で約7万円、中学生で約9万円です)、1人7万円だからこのクラスだと(30人だとしたら)1カ月210万円、12カ月で2520万円、6年間だと1億5千万円以上!!というもの。これにはみんな「えーーーっそんなに!?」と驚いてくれます。

そして今の税金について話をするだけではなく、「これからの日本を作っていくのはみんなだよ。これからもっと勉強してもっと税金のこと知って、もっといい日本にしていってね」と話します。授業後、質疑応答の時間にはたくさんの質問や感想を聞くことができます。

授業の始めに「税金を払いたい人」「払いたくない人」「払ってもいいかなという人」の三択で手を挙げてもらったこともあります。最初はほぼ全員が「払いたくない」だったのが、授業の終わりに同じ質問をすると多くの児童が「払いたい」「払ってもいい」に意識が変わります。

私自身、この仕事をしていると、いかに税金を少なくするかと節税に目が行きがちです。それも大切な仕事ではあるのですが、租税教育をするたびに、税金の大切さを改めて思い出すことになります。私たちは、税金を納めるときに損した気持ちになりがちですが、税金によってたくさんのことを享受しているのです。

学校によって、元気いっぱいなクラス、おとなしめなクラス、発言をいっぱいするクラス、しっかりしているクラス、騒がしいクラスもあります。租税教育は児童からすれば「知らない先生」が突然来て、税金のお話をするわけです。必ずしも子どもたちの心を掴めたと手応えを感じるばかりではなく、反省することもあります。それでも毎回、授業のあとは「やってよかった~」ととても幸せな気持ちになります。今後も、できるだけ子どもたちの興味を引く授業をして、子どもたちの心のどこかに少しでも「税金」のワードが残って、税金や社会について興味を持ってくれたらうれしいなと思っています。