税理士法2条《税理士の業務》1項柱書きは、「税理士は、他人の求めに応じ、租税…に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。」と規定し、同条1号「税務代理」、2号「税務書類の作成」、3号「税務相談」の3つの業務を「税理士業務」としています。さて、このように税理士法によって「税理士業務」の範囲が定められている中、税理士が税理士として、それとは異なる業務を行った場合、その課税関係はどのように整理されるべきでしょうか。

税理士の「業務」と必要経費

税理士は税理士法に基づく仕事をしているのが通常かと思われますが、事実上の業務(実際に行っている仕事)が一般の税理士業に馴染まない業務であったり、あるいは税理士法が規制する業務である場合もあるでしょう。

税理士である納税者X(原告)が、関与先法人であるA株式会社の債務保証を原因とした裁判等に係る訴訟費用並びに同社への貸付金等の回収不能額を、事業所得の必要経費に算入して所得税の確定申告をしたところ、所轄税務署長がこれを認めず更正処分等を行ったため、これを不服としたXが国Y(被告)を相手取り、各処分の取消しを求めた事案があります。

これにつき、津地裁平成18年4月27日判決(税資256号順号10380)は、次のように述べ、Xの事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することを認めない旨の判断を下しています。

すなわち、同地裁は、「本件訴訟費用につき事業所得の必要経費に当たるかを検討するに、Xの事業である税理士業は関与先の債務保証を業務内容とするものではないし、税理士が関与先の債務保証をその業務に関連して通常一般に行っているという事実もない。さらに、Xが関与先の債務保証を通常一般に行っていたことを窺わせる事情もない。」とした上で、「そうすると、本件訴訟費用は、Xが税理士業に係る事業所得を得るため、業務と直接の関連性をもち必要な費用であると客観的に認めることはできないのであって、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできない。」としています。

税理士法と税理士の「業務」

しかしながら、このような考え方には同意できません。
税理士の業務とは、税理士の通常の業務範囲や、税理士法の規定に従った業務のみがそれに当たると断言できるでしょうか。

他の一般の税理士が行わないような業務を税理士の知名度や立場を利用して行うこともあるでしょうし(例えば、一時期、弁護士バーの可否が話題になりましたが、税理士がバーを経営することもあるでしょう。)、やむを得ず業務の延長から行う業務も想定されます。

果たして、そうした業務が税理士の業務ではないと言い切ることができるかといえば、それは難しいと考えます。
このことは、税理士業を規律する税理士法に抵触する業務までをも税理士の業務と認定することができるか否かという関心にも繋がる問題です。

私見としては、例え税理士法に違反するような業務であっても、税理士の業務に当たる可能性を排除できないと考えます。
租税法上、違法な所得であっても課税されることと同様、個々の業法の規則を破った仕事を行ったからといって、それが直接に税理士の業務から離脱することにはならないはずと考えるためです。

もちろん、業法に反する業務を行った場合、業法上の制裁などがあることは否定しませんが、税理士が税理士の立場として業務を行う限り、例え税理士法違反であってもそれは税理士の業務であると解するべきでしょう。

そのように眺めると、上記判決には疑問を覚えるのです。

税理士報酬に係る源泉徴収

もっとも、仮定の話ではありますが、仮に源泉徴収との関係を考えた場合にはやや見え方が変わってくるといえるでしょう。

といいますのも、所得税法204条《源泉徴収義務》1項柱書きは「居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。」として、同項2号が「税理士」の報酬に関して源泉徴収義務を課しています。

ここにいう「税理士」とは、税理士法にいう「税理士」を指すと考えるべきでしょうから、ここでは税理士法の範囲内で行い得る税理士の事業と解さざるを得ないことになりそうです。

したがって、所得税法204条に関しては、税理士法の下での税理士業務に係る報酬を指していると理解すべきであって、税理士が税理士法に反するような業務を行っていた場合には、(それが税理士の業務であることは前述のとおり否定すべきではないと考えるものの)同条にいう源泉徴収の範囲からは外されるべきであると考えます。

これは所得税法が二枚舌を使っているわけではなく、条文に適合した文理解釈をした当然の結果であるとみるべきでしょう。