酒の製造及び販売業は、酒税や消費税がかかることから国税庁が免許を出している。つまり、酒に係る事業においての管轄行政庁は国税庁なのだ。その国税庁が6月28日、酒類の地理的表示制度の新たな「産地名」として、清酒で兵庫県の「灘五郷」、ぶどう酒で「北海道」を指定した。国内における日本酒の産地指定としては3事例目。果実酒は2事例目になる。

国税庁の酒類の地理的表示制度とは、WTO(世界貿易機構)の発足に際し、ぶどう酒と蒸留酒の地理的表示の保護が加盟国の義務とされたことから、1994年に国税庁が酒類の地理的表示制度を制定したもの。
地域の共有財産である「産地名」の適切な使用を促進するもので、産地からの申立てに基づき、国税庁長官の指定を受けることで産地名を独占的に名乗ることができる。産地にとっては、地域ブランド確立による「他の製品との差別化」、消費者にとっては、一定の品質が確保されていることによる「信頼性の向上」という効果がある。
今回、産地指定されたのは、兵庫県神戸市灘区、東灘区、芦屋市、西宮市の「灘五郷」、そして北海道を「北海道」として指定した。北海道は、ぶどう酒の産地として指定され、ほかは清酒の産地としての指定されている。
地理的表示制度の対象は、ぶどう酒及び蒸留酒のみであったが、2005年9月に清酒を追加。2015年10月に全酒類を対象とされた。
国内における酒類の地理的表示としては、1995年6月に「壱岐」、「球磨」、「琉球」(いずれも単式蒸留焼酎)を行ったのが始まり。次いで、2005年12月に焼酎の「薩摩」(蒸留酒)と日本酒の「白山」(清酒)、ぶどう酒としては2013年7月に「山梨」を指定した。(図表参照)

ところで、酒の免許について、国税庁が管轄していることを意外に知らない人が多い。農林水産省というイメージが強いが、税金が絡んでくることから国税庁となっている。
江戸時代の初期、酒造統制のために酒株制度を導入していたが、1697年に江戸幕府が税収のさらなる向上を目的に、造り酒屋に対して酒価格の5割の酒運上(さけうんじょう)と呼ばれる運上金を課すことにした。運常金とは、営業していくための税金と酒屋としての免許税みたいなものだ。
その後、運上金は1709年に廃止され、冥加金として復活。各藩でも独自に酒税的なものを課すことになった。
明治維新後、新政府は酒屋に対して、旧来の免許石数の維持を命じるとともに冥加金などを納めるように課した。要は、財政的に重要な位置を占めている酒については、税金を徴収する行政機関が担当することになったのだ。
免許については、明治政府は濁酒を含む全ての自家用酒造を禁止して醸造業者の保護を約束。数百年も前から神社寺院で「お神酒」「般若湯」を自前で造っていたがこれ以降、伝統が途絶えた。
ちなみに、明治時代の酒造税は、1899年に地租を抜いて国税収入の第1位を占めている。昭和に入り、1935年に所得税に抜かされるまで30年以上にわたって税収1位の地位を保持していた。戦後は1950年に国税収入の18.5%を占めたのをピークに、増税などの影響、酒離れもあってその占める地位は低下しつつある。