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【“旅する女性タックスアドバイザー” 世界の税金問題】第10回/EU議会で否決された”ロボット税”とは?

人気連載第10弾! 東京、ニューヨーク、香港と渡り歩いた税制コンサルタントMariaが、あらゆる国の税に関するエピソードをご紹介。今回は、テクノロジーの進化の裏で政府が直面する、税収減について説明します。

世界中の学者が注目するロボット税

みなさま、お久しぶりです! 香港在住、税制コンサルタントのマリアです。先月はお休みしましたが、今月からまた毎月連載をしていきます!

さて今回は、EU議会で実際に議論が始まり、世界中の学者が今注目をしているロボット税について書きたいと思います。名前だけを見ると「ロボットにかかる税金」というイメージですが、昨今の“自動化革命(Automation Revolution)”が進むにつれ、人間の失業率が上がることが前提の話です。

ロボット税が議論されるに至った背景

ことの発端は2017年。ビル・ゲイツが、ロボットは人間の仕事を奪う分、人間の代わりに税金を払うべきだと発言しました。

こちらの動画、もしよかったら見てみてください。
The robot that takes your job should pay taxes, says Bill Gates

そして2017年2月EU議会にてこの議論が実現されかけました。“ロボット税を創設する”という斬新な議案が登場したのです。

しかしEU議会はこれを否決しました。否決されてしまったものの、この議案を発端に世界中でロボット税の議論が活気づいています。

これらの議論の背景には、既述のとおり、昨今の目まぐるしいテクノロジーの進化による自動化革命があります。この影響で、今後加速度的に失業率が上がることが予想されてます。そうなると、職業訓練や失業者手当てなど、政府が予算を割いて失業者へのケアを実施する必要がありますね。そのときの財源をどうするか、そこで持ち上がったのがロボット税なのです。

Photo by RRice

人間がテクノロジーの革命に直面するのはこれが初めてではありません。過去の事例として、18世紀半ばからイギリスを皮切りに世界中で起こった、一連の産業革命があります。

過去の産業革命から学ぶ

イギリスで始まった産業革命は、工業化の波を世界中に広めました。アメリカにおける農業従事者の割合を見てみると、1900年時点において41%だったものが2000年には2%以下にまで下がっています。

41%から2%・・・この差の39%がどこにいったか、皆がみな失業したのかというと、そうではありません。テクノロジーの進化は短期的には失業を生みましたが、歴史的に見ると、新たな仕事を生み出すに至ってきました。

たとえば、種植えを手でしなくなった代わりに、トラクターが30倍の速さで種を植えてくれるようになりました。種植えをしていた人材は不要になりますが、農業用器具や自動車が発展すれば、その生産や物流、監督、運転などをするための新たな仕事が生まれますね。

テクノロジーの発展は、一旦失業者を出してしまうものの、同時に新たな仕事を創出してきたのです。

自動化革命についても、長期的に見ると新たな仕事が生まれるのではないかという説もあります。しかし、McKinsey Global Instituteの2015年4月のレポートに、自動化革命が世の中にもたらすインパクトは、過去の産業革命の3000倍のスケールであるという数字が出てきました。これでは、革命のあまりの速さと大きさに、政府の政策や、新たな雇用創出が追いつかない恐れがあります。

自動化の波を受け、短期的に失業者問題が深刻になる。これが現在どの政府・学者も唱える満場一致の見解です。長期的にどうなるかは、議論が分かれています。

自動化による世の中へのインパクト、とりわけ政府へのインパクトを掘り下げて研究してみると、政府が直面するのは、失業者政策のための歳出増だけではありません。最も危惧しなければならないのは、実は政府の歳入減なのです。

そう。自動化が進むと、ほとんどの政府の歳入は大幅に減ることが予想されます。

自動化が進み、企業の生産コストが下がり、効率よく付加価値を生み出すようになると・・・なんだかいいことが続いていくように感じられますね。そんな中、なぜ政府の歳入減が予測されてしまうのかというと、実は先進国のほとんどが、その歳入の多くを個人所得税と社会保障税に頼っているからです。

まず、歳入を個人所得税に頼っている顕著な例は、デンマーク(税収のうち54%)、オーストラリア(41%)、アメリカ合衆国(39%)、カナダ(36%)など。OECD加盟国35カ国は、平均的に約25%の歳入を個人所得税から得ています。

社会保障税はどうでしょうか。税収のうち社会保障税の占める割合が高いOECD加盟国上位5カ国は、上からチェコ(43%)、日本(39.4%)、オランダ(38.2%)、ポーランド(38.1%)、ドイツ(37.7%)です。以外ですが、OECD加盟国において、歳入のうち社会保障税が占める割合は個人所得税と同じく25%なのです。

ほとんどの先進国の税収は、個人所得税と社会保障税に頼っています。次いで付加価値税(日本でいう消費税)が大きな割合を占めます。法人税や資産税が占める割合は、相対的に小さなものとなっています。これは先進国の税制が、企業活動を盛んにすることを目指し、資本には低税率を、労働者には高税率を課してきた背景があるためです。

実際にOECD諸国の個人所得税は、ほとんどの国が15~55%の枠内で累進税率を設定していますが、法人税率の平均は23%と、低く設定されています。

Photo by RRice

大失業時代の政府の税収はどうなるか

ほとんどの先進国がその税収を個人所得税と社会保障税に頼っているなか、それらの国が大変な量の失業者を抱えるに至ってしまった場合、どうなるでしょうか。

まず国が失うのは、個人所得税と社会保障税収入です。そして購買能力を失った労働者の冷え込み需要から、付加価値税にも少なからずインパクトがあるでしょう。

個人所得税と社会保障税は、ほとんどの先進国の主たる税収減ですので、これらの税目からの税収が減ることは、政府の歳入に大きな打撃を与えます。

法人税はどうでしょう。テクノロジーのお陰で大幅な人件費をカットすることに成功した企業は、その法人税額の計算上、従業員に払っていた人件費分、損金が減ることになります。加えて、従業員のために加入していた社会保障税の会社掛金への拠出減も見込まれるため、さらに損金が減ることになります。生産コストが下がり、益金が大きくなっていくこともあるかと思います。

つまりは、法人税収入は増えていくのではないかと予想されるのです。(AIやロボットの導入に係る経費や減価償却費は、人件費よりも低コストだという前提です。加えて、ロボットに社会保障税は掛かりませんね。)

しかしながら、OECDの法人税率の平均は記述のとおり23%。個人所得税の税率と比べると大変低く設定されています。法人税の計算上浮いた損金(人件費)分、法人税の納税額が増えると過程しても、同じ額の人件費を受け取った個人が個人所得税を納税していたほうが、税収は大きかったということになります。

社会保障税については、ロボットが人間の代わりに雇われてしまうと、まるっきり歳入がなくなってしまいます。

税収が減るのに、歳出を増やさなければならない

個人所得税と社会保障税にその歳入を頼っている先進国。失業者が増えるほど失業者政策をしなければならない先進国。歳入が減り、歳出が増える。解決策はあるのでしょうか。

Photo by えつを

そこで今議論されているいくつかの方法を紹介します。

1.   法人税の計算上、自動化に掛かる経費を控除できなくする(実際に韓国が、この政策を一部取り入れています)

2.   自動化すればするほど重い税を法人に課す

3.   人間を雇った場合の優遇税制を設ける

4.   ロボットを人間に見立てて税を課す。いわゆる“ロボット税”

5.   法人税率を上げる

どの方法も法人税増を目指すものですが、問題があります。1はインパクトが小さいですし、2は政府が産業の発展を阻害する結果になってしまう。3と4は裏側の立法過程コストが大きくなり、ただでさえ複雑な税計算が余計煩雑になります。5に至っては、国が国際的競争力を失います。

そんな状況下、筆者が注目しているのは、もともと社会保障税と個人所得税に歳入を頼っていないタックスヘイブン・低税率国・産油国・フラットタックス導入国です。

これらの国は歳入を社会保障税と個人所得税に頼っていないどころか、法人税率の方が高く税率が設定されています。こういった国にテクノロジーが流れ込むと、政府の歳入がどんどん増えていくのです。

たとえばアラブ首長国連邦。所得税率は0%ですが、法人税率は一部例外を除き55%です。これは極端な例ですが・・・。

ロシアを見てみましょう。所得税率は13%の一律税率ですが、法人税は20%。

アジアのタックスヘイブンである香港も、所得税率は最高15%、法人税率は16.5%です。(※15%の一律税率か、2%~17%の累進税率を適用したうち低いほうの税率を払うのが香港の個人所得税です)。

先進国が自動化に対応するために煩雑な税制を設ければ設けるほど、これらの国へテクノロジーは流れていくでしょう。人間よりもロボットのほうが、国際間移動をしやすいですよね。

先進国が今後どんどん煩雑なロボット税を課していくのか、それとも他の政策を見つけるのか・・・今後注目です!

今回のケースの結論:「ロシアはロボットだらけになるかも?」

著者: ワタナベマリア

旅するタックスアドバイザー

慶應義塾大学法学部卒、香港在住の税制コンサルタント。過去に東京とニューヨークで国際税務の仕事を行い、2018年秋から大学院で租税法の研究を開始予定。世界中を旅する会社人に各国の税制のアドバイスを行う中で、制度比較から見えてくる税金のおもしろさを広めようと執筆を始める。

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