人気連載第13弾! 東京、ニューヨーク、香港と渡り歩いた税制コンサルタントMariaが、あらゆる国の税に関するエピソードをご紹介。今回はニューヨークから、アメリカの売上税について紹介します。

ニューヨークに行ってきました~!

みなさんこんにちは! 税制コンサルタントのMariaです。少し前になりますが、ニューヨークに行ってきました。実は私、2年前までニューヨークに住んでいました。

大好きなリンカーンセンター。夕日が差し込んでいます。美しい!

さて、前回の記事ではイタリアの付加価値税(日本でいう消費税)について紹介させていただきました。今回も似たような税目、アメリカのSales Tax(売上税)について紹介させていただきます。売上税、最終消費者である個人からみると消費税とそっくりなのですが、実はその仕組みは消費税と全然違うのです。

アメリカの売上税

アメリカのSales Taxは日本語で“売上税”と訳されますが、“小売売上税”と表現すると、よりその性質が反映できます。

売上税は、小売りの際に課される税です。デパートで服を買うとき、スーパーでアイスを買うとき、レストランでディナーをするとき、などなど。私たち最終消費者が、小売店に対して商品の対価を支払う際に、あわせて負担する税です。

逆にいうと、小売り以外の場面でSales Taxは課されません。デパートが洋服メーカーから服を仕入れるとき、スーパーがメーカーからアイスを仕入れるとき、レストランが食材を農家から仕入れるとき、などなど。仕入れの段階では全くかかりません。

いっぽう日本の消費税は、取引のそれぞれの段階で常に課税が発生します。仕入れの段階、卸の段階でも課税が発生しますし、もちろん最終的な小売りの段階においても課税が発生します。

現在、香港大学の大学院に在籍中しています。学生の立場を利用して、ニューヨーク大学ロースクールのキャンパスを見学してきました!
なんと税法(Tax Law)の分野においては、ニューヨーク大学ロースクールが世界ナンバーワンランキングなのです!

国としてのSales Taxはない⁉

アメリカのSales Taxは、実は各州が課税主体となっています。アメリカ合衆国としてのSales Taxは、ないのです。

これは、先進国ではとても珍しいこと。私の記事によく登場するOECD加盟国のスタンダードと比較すると、加盟国34カ国のうち、国として消費税(VAT、GST等)をもたない唯一の国がアメリカ合衆国です。

消費税は課税ベースが広く、税収としてとても優秀であると考えられていることから、現在世界のほとんどの国が、国レベルで導入しています。ヨーロッパ諸国のように社会保障の手厚い国=政府支出の大きな国のVATの税率が高いのは、過去の記事「パスタにかかる税金が安い⁉ イタリアらしい付加価値税(VAT)の仕組み」で説明したとおりです。

アメリカは古くから“小さな政府”を目指していたため、税収を大きくする必要度が他国と比べると少なかったのですね。しかし最近ではアメリカでもさすがに連邦政府支出が増えており、連邦消費税導入が議論されています。

ニューヨークに住んでいたころ、オフィスから撮影した夜景。美しい!

さて、そういった背景から、Sales Taxは州がそれぞれの自治で管理運営をしています。その結果、税率が異なることはもちろんのこと、導入すらしていない州も存在します。

また州の中においても、Cityごとにさらなる課税をしている区域があります。以下ランキングにしてみたので、参照してみてください。小数点3位以下は、便宜上四捨五入してしまっています。

1. イリノイ州シカゴ: 10.25%
2. ワシントン州シアトル: 9.6%
3. カリフォルニア州オークランド: 9.5%
4. テネシー州メンフィス: 9.25%
5. テネシー州ナッシュビル: 9.25%
6. カリフォルニア州ロスアンゼルス: 9.0%
7. カリフォルニア州ロングビーチ: 9.0%
8. ルイジアナ州ニューオーリンズ: 9.0%
9. ニューヨーク州ニューヨーク: 8.88%
10. カリフォルニア州サンノゼとサンフランシスコ: 8.75%

一方、以下の5州は、Sales Taxを全く導入していません。アメリカ在住の皆さん、買い物をするなら少し頑張ってドライブして、これらの州に行くしかない!
• オレゴン州
• ニューハンプシャー州
• モンタナ州
• アラスカ州
• デラウェア州

Sales Taxを設定していない州は、どのように歳入を確保している?

上記のランキングを見ると、高いところでは約10%のSales Taxを導入しています。一方、Sales Taxを全く導入していない州もありますね。Sales Taxを導入していない州の財政はいったいどうなっているのでしょうか。

筆者なりのまとめは、以下のとおりです。州ごとのキャラクターが垣間見えて、おもしろいですよ。

まずはオレゴン州とモンタナ州。 この2州のはSales Taxがない代わりに、所得税がとても高く設定されています。このタックス・ミックスは、働き世代が多い場合に歳入を最大化できますね。

ちなみにオレゴン州の真上にあるワシントン州は真逆で、所得税がなく(0%)、売上税が高く設定されています(6.5%)。結果、ワシントン州に住んでオレゴン州で買い物すると、とってもお得かもしれません。

続いて、ニューハンプシャー州。ニューハンプシャー州は、1776年アメリカ独立13州のうちの1州です。建国の精神が色濃く残っているのでしょうか、売上税だけでなく、州の所得税もありません。ちなみにニューハンプシャーの標語は「Live Free Or Die」(自由に生きるか、さもなくば死を)です。税金がないこと=自由ともいえるかもしれませんね。

州の財源は、Property Tax (固定資産税)です。ほかの税目がない分、Property Taxの税率は全米で3番目に高く設定されています。

そして、アラスカ州。アラスカ州も、売上税だけでなく所得税すらない州です(住んでいる市によっては、最高7%の住民税があります)。アラスカがこの状態を維持できるのは、その地理的環境から、天然資源に恵まれていることに理由があります。エクソンモービル、コノコフィリップスなど、石油大手からの石油税とロイヤリティが州の財源なのです。

そして最後に、デラウェア州。デラウェアはアメリカの中のタックス・ヘイブンだといわれています。売上税がないだけでなく、利子、配当にも税がかかりません。法人を作るのに有利な条件が揃っているといわれています。住民は少なく、土地も限られており・・・(人口下から7番目、面積下から2番目)、もしかしたらそんなに税収がいらないのかもしれません。

このように州のSales Tax事情を掘り下げて見てみると、それぞれの特色が浮き彫りになって、とてもおもしろいですね。

ニューヨークのレストランは、隣の席との間隔が狭い狭い!

ニューヨーク州マンハッタンはSales Taxの税率も高く、Income Taxの税率も高く、おまけにマンハッタン内のCity Taxもあり、外食やサービスを受けるたびに払うチップ(15~20%)も加味し、おまけに住宅価格も日本よりはるかに高く・・・と、生活コストがとっても高い街です。それにも関わらず、世界中から人が集まるのは、コストを払ってでも価値のある何かがあるからなのだと思います。

今回の結論:日本の消費税を都道府県単位の管轄にしたら、どのような税率の設定になるでしょうか?