国税庁はホームページ上で、各税目ごとに納税者に向け「よくある税の質問」に対する回答を設けています。これは、「タックスアンサー」と呼ばれるシステムで、昨今では、「No.1525 仮想通貨交換業者から仮想通貨に代えて金銭の補償を受けた場合」などが公開され話題にもなりました。さて、今回はこの「タックスアンサー」に注目し、行政からの情報提供のあり方について考えてみましょう。

ANSERとANSWER

国税総合管理システムの一つであるタックスアンサーは、「TAX ANSER」と表記されています。正しいスペルによれば、本来「TAX ANSWER」とされるべきところではないでしょうか。

このように、「ANSER」の表記については、スペルの誤りであると思われそうですが、実は、これは、“Tax Automatic answer Network System for Electrical Request”の略であると説明されています。

しかしながら、国税庁のホームページのURLはwww.nta.go.jp/taxanswerとなっています。つまり、URLは「ANSWER」ですが、本来の名称は「ANSER」であるというのです。これは、どうもわかりづらいように思われます。
最近では、カタカナで「タックスアンサー」という表記に統一されているように見受けられますが、「ANSWER」か「ANSER」かという混乱を避けるためにそのようにしているのでしょうか。

BEPSの適切な和訳は?

これに似た話は、BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)の翻訳にもみられます。

BEPSは一般的に「税源の浸食と利益移転」というように訳されています。
岩盤が削られて無くなっていく現象を「侵食」と表現するとおり、「侵」の字には、「侵略」のように相手を「侵す」(おかす)意味がありましょう。

これに対して、「浸」の字にはそのような意味はなく、サンズイが使われていることからも明らかなように、「浸す」(ひたす)という状況に応じて削り取られているというイメージが妥当します。要するに、水がしみ込んで物が無くなるといった様子が、「浸食」であると思われます。

「液体につける」という意味に限定する必要はないとしても、税金の源泉が侵されるという現象を表すのに、「浸食」は適当な用語といえるのでしょうか。
あるいは、BEPSは、税の源泉が「浸食」されていくというイメージが馴染むものということでしょうか。

この点に関しては、税源がじわじわと浸食するように失われていくという説明の仕方もできるでしょうし、侵食という強い語義感を有する概念を使用したくないという翻訳者である行政庁側の意思が働いたとみることもできなくはありません(*)。

「TAX ANSER」にしても、「税源浸食」にしても、本来の真意が伝わるか否かは、当局における情報提供次第であるといえます。凝った表現をすることでかえって予期せぬ混乱を招来してしまう可能性を考えると、凝った表現を使うことも考え物かもしれません。

(*)この点は、佐藤信祐公認会計士による2018年5月9日の中央大学経理研究所講演の内容から示唆を受けたものです。