さきごろ、40年ぶりに相続の規定を見直す改正民法が参議院で可決・成立したことは、このコラムでも紹介した「相続税の民法改正 死亡後の口座凍結対策として新たな制度」(https://kaikeizine.jp/article/9890/)。相続シーンで注意が必要なのが、相続財産が少ないから争いは起きないという考えだ。実は、相続財産の多寡にかかわらず、相続人間で遺産分割ではもめることが多いのだ。

「相続財産も少ないし、自分の死後にドラマのような相続争いは起きない」と被相続人の多くが思っているようだが、相続財産の多寡に関わらず、相続に関するトラブルは増加傾向にある。筆者の知人でも最近、相続における兄妹間の争いがあった。「兄妹の縁を切る」ほどの喧嘩にはならなかったようだが、自宅、預金、家業の承継なども絡み、“激しい話し合い”が何度も行われたという。とくに、被相続人は晩年、痴呆症であったことから知人の姉がほぼ介護。それに、知人は未婚であったが、姉は既婚者で、相続には姉の夫という第三者もからんできた。「親の介護は誰がしてたのか」「家業の引継ぎ」など、相続ではあるあるのバトルとなったという。結局は、弟である知人がかなり譲歩したということだが、「今後はよほどのことがない限り、姉夫婦とは会うことはない」といっていた。

こうした、ちょっとした相続トラブルが大きな争いになることは少なくなく、裁判所の「司法統計」によると、家庭裁判所への「家事相談件数」のうち、相続に関するものは2000年に9万62件だったものが、2012年には17万4494件と約2倍にまで増加している。さらに、遺産分割事件(家事調停・審判)の新受件数においては、2006年に1万2614件だったものが、2016年には1万4662件まで増えた。

「家庭裁判所における家事事件の概況及び実情ならびに人事訴訟の概況等」P139 図9

これほどまでに家庭裁判所への調停・審判の申し立てが増えている理由は、「誰がどのくらいの財産を受け継ぐのか」という問題が根底にある。金銭的価値(金額)の多寡はもちろん、その種類についても争いの元となる。なかでも簡単には分割しづらい土地や建物(自宅など)の相続は、トラブルになりやすいので注意が必要だ。国税庁の相続時種類別取得財産価額(平成28年度)によると、土地38.0%、現金・預貯金等31.2%、有価証券14.4%の順となっており、分けやすい現金・預貯金に比べて、分割しにくい土地の割合が一番多く、相続に当たって兄弟の一部が同居していた場合などは分割しにくいためトラブルになりやすい。不動産の共有名義での相続においても、遺産分割がうまくいかないときにトラブルが起こりがち。共有名義となった場合、売却や土地活用、建物の賃貸借などを行う際に、全員の同意が必要となる。そのため、手放したくなってもそうすることもできず、固定資産税の支払いや土地の管理をイヤイヤながらもしていかなければならない。

今回の民法改正では、残された配偶者が自宅に住み続けることができる、いわゆる「配偶者居住権」が新設された。高齢化する相続問題への解決策のひとつとして設けられたわけだが、相続対策は、被相続人の生前から進めておくことで“争続”を防ぐことができるほか、有効な税金対策も可能になる。被相続人の死後も家族が仲良くやっていけるように、財産を残していくものは考えなくてはいけなくなっている。