人気連載第20弾! 東京、ニューヨーク、香港と渡り歩いた税制コンサルタントMariaが、あらゆる国の税に関するエピソードをご紹介。今回は韓国を旅してきた筆者が、韓国の消費税についてご説明します。
韓国に行ってきました~!
香港から飛行機で3時間。日本よりも近くにあって、ちょっとした週末旅行に最適な国、韓国!

韓国には、これまで何度も行ったことがありました。しかし今回は赤ちゃんを連れた韓国旅行だったので、今まで見えていなかった一面が明らかになりました。
それは・・・
みんなとにかく、赤ちゃんが大好きだということ!
赤ちゃんを連れて街を歩くと、みんなすり寄ってきて触りたい放題(笑)。足が寒そうだから靴下を履かせた方がいいとアドバイスをくれるおばちゃんや、写真を撮ろうとするおじちゃんや・・・。ソウルの中心地なのに、こんなにも温かい街なのかと、とても感動しました。
飲食店に行っても、大きなベビーカーに嫌な顔ひとつせず、小さな店内にどーんと置かせてもらえました。
もう1点、改めて驚いたのは物価の安さです。ホテルの価格も安いですし、香港と比べると特に、コーヒーチェーンの価格など約半額なのではないかと思います。あんなにも綺麗でサービスも素晴らしいのに、物価がほかの国際都市(ニューヨーク、ロンドン、香港)と比べて安いのは、なかなか穴場だなぁと思いました。
免税店でショッピング
さて、そんな韓国に行ってまずしたことは、新世界デパートでの免税ショッピング。
市中免税店は中国人観光客で溢れかえり、すごい賑わいでした。
ちなみに、免税店には2種類のものがあります。
ひとつは“Duty-free”。関税や酒税、消費税など、あらゆる税が免除されているものです。
もうひとつは“Tax-free”。その国の消費税(VATやSales Taxなど)が免除されているものです。
日本の街中にある、たまに見かける“Tax-free”は、後者にあてはまります。
韓国の新世界デパートの8階にある市中免税店は、前者のDuty-free shopでした。
特に人気なのは化粧品コーナー。人の波をかき分けながら進みました。
私が住んでいる香港はFree Portなので、化粧品に関税がかからないまま区域内に流入してきます。
香港には消費税もないため、基本的に香港で売られている化粧品はDuty-freeの状態です。
しかし、そこのとを鑑みてか、それとも香港の比較的高い賃金相場を考慮してか、販売価格自体が少し高く設定されていたりします。
韓国のDuty-free shopでは販売価格の引き上げがないため、香港で買うよりもちょっとだけ安くなるというカラクリなのです。

韓国における消費税の税率は、10%です。
日本もこの10月に、消費税の標準税率が10%に引き上げられますね。
韓国は、1976年に10%の消費税(VAT)を導入しました。
日本人から見て驚くべき点は、導入当時から10%税率だったことと、その後消費税法の改正がほとんど行われてこなかったということです。
近年になって消費税導入は、まずは低い税率から・・・と理解している方が多いのではないでしょうか。
たとえば日本は1989年の導入時、消費税率を3%と設定していましたね。そこから1997に5%へ、2014年に8%へ段階的に税率が引き上げられてきました。
シンガポールも、導入時の1994年は3%の税率を設定していました。現在の税率は7%まで引き上げられており、9%へ増税の議論も進行中です。
昨年(2018年1月)からVATを導入したアラブ首長国連邦は、5%と設定しています。
これらの例を見ると、韓国が導入時に設定した10%という税率は少し高く見えるかもしれません。
韓国と似て、導入開始時に10%の税率を設定していたのはオーストラリア(2003年)とニュージーランド(1986年)です。オーストラリアはその後も税率を上げず、現在に至るまで10%の税率を保持しています。ニュージーランドでは、2010年に税率が15%に引き上げられています。
各国の消費税制は、税率だけを切り取って比べるのでは足りません。
どの品が免税になるのか、どの品が非課税になるのか、どの事業者に登録義務があるのか、どのような補填制度があるのか・・・など、総合的に検討する必要があります。
ヨーロッパ型、ニュージーランド型、日本型
比較税制の世界では、各国の消費税(付加価値税、VATやGSTなど)は大きく3種類に分類されます。
ヨーロッパ型、ニュージーランド型、そして日本型です。
ヨーロッパ型の消費税の特徴は、標準税率が非常に高く設定されること(おおむね20%を超える)、いくつもの軽減税率があること(食べ物へは10%、生活必需品には5%など)、たくさんの非課税品目があること(水、医療、教育、アートなど)、広く多くの事業者に登録義務があること(課税売上1000万円以上など)などです。
ニュージーランド型の消費税は、税制学の世界では最も理想的といわれています。特徴としては、税率は一律、そして低めに設定されること、非課税品目は最小限であること、課税事業者がとても狭義であること(課税売上7000万円など)、補填制度が充実していること(低所得者へのリベートがある)などです。ニュージーランド、シンガポールがこのタイプの消費税制を採用しており、香港が導入を検討していたのもこの体系です。
日本型の消費税は、上記2種類のいずれの要素ももつ独特なものです。税率は大変低く設定されますが、非課税項目は既述の2種類の消費税の間くらいであり、広く多くの事業者に登録義務があります。国民への補填としての、リベートはありません。

どれにもあてはならない、ユニークな韓国の消費税制
韓国が導入した消費税は、税率は一律で低めですが、非課税項目が非常に多いため、分類が難しいユニークな税制といえるでしょう。韓国において、以下のものは消費税の課税対象となりません。
• 弁護士・会計士・税理士によるサービス等
• 歌手・俳優・作家・デザイナー・プロスポーツ選手・ダンサーによるサービス等
• 未加工の肉類、魚類
• 米
• 野菜
• 水道水
• 練炭・無煙墨炭
• 医療・保健、教育、金融・保険
• 旅客輸送サービス
• 書籍・新聞・雑誌・官報
• 芸術品
• 図書館・科学館・博物館・美術館・動物園等の入場料
• 土地、不動産の賃貸
• 切手・印紙・証紙
• 宝くじ
• 公衆電話
• 宗教・慈善・学術目的のサービス
税率も、実はとてもユニークです。
韓国には軽減税率はありませんが、過重税率があります。高級品に対しては、高い税率がかかります。
• 10%…加工乳、ジュース、香水
• 20%…電気製品、250cc以下の自動二輪、絨毯など
• 25%…バン、ディーゼル車など
• 35%:アルコール飲料、特定のじゅうたん、靴(国産品を除く)、皮革・皮革製品(国産品を除く)、水晶・大理石、宝石・貴金属・真珠・ガラス製品(国産品を除く)、ゴルフ・ダイビング用品、250cc超の自動二輪など
これは、日本が今年10月から導入する軽減税率と真逆のアプローチですね。
軽減税率は、“何が生活必需品か?”を考えて、生活必需品であると特定されたものに対して軽減税率を、そのほかのすべてに対して標準税率をかけます。
一方、韓国のアプローチは“何が高級品か?”を考えて、高級品に過重税率を、そのほかのすべてに対して標準税率をかけます。

みなさんは、どちらのアプローチがよりよいと思いますか?
今日の結論:韓国、次は食い倒れるためだけに行きたい・・・!