3. 法人別クライアント数の3期比較

① トーマツ:非監査クライアント数大幅増

前年度に大きく減らしたクライアント数を今期は持ち直しました。内訳をみると、監査クライアント数は前年度からさらに減っている一方、非監査クライアント数を6.2%増やしたためこの結果となりました。
今期新たに獲得した主な監査クライアント先は、イマジカ・ロボット ホールディングス、古河電気工業、フタバ産業、秋田銀行、ヤマシタヘルスケアホールディングスなどです。
逆に退任した主な監査クライアント先は、東建コーポレーション、レーザーテックなどです。

なお、トーマツは決算期が5月末なため今期には含まれませんが、2019年6月21日付で監査人の交代を発表したリケンは、前監査法人のEY新日本から「監査報酬増額の打診を受け」たことを理由にトーマツに監査法人を交代したと発表するなど、監査法人の変更には近年の監査報酬の増額が大きなきっかけとなっていることが分かります。

② あずさ:前々年度の水準に戻らずも持ち直し

3期比較を行うと監査クライアント数は一貫して増加を続けていますが、非監査クライアント数は前前年度の水準まで戻ってはいません。クライアント数合計を見ると、新規クライアント獲得を控えた前年度と比べ、今年度は1.3%増となりました。

今期新規就任した主な監査クライアント先は、インターネットイニシアティブなどです。
逆に退任した主な監査クライアント先は、ヤマシタヘルスケアホールディングス、リコー、リコーリース、ロート製薬、丸井グループ、レスターホールディングスなどになります。
就任したインターネットイニシアティブは、あずさに決定した理由を「IFRS導入に合わせて」としています。

退任したロート製薬は、理由を「タイムリーに連携の取れたグループ監査」ができないことと発表しています。

③ EY新日本:監査クライアント数も3期連続減

非監査クライアント数を大きく減らし続けているここ3期。一方で、監査クライアント数の減少幅は緩やかなものではありますが、まだ下げ止まりといきません。
今期新たに獲得した監査クライアント先は、ロート製薬です。
逆に退任した主な監査クライアント先は、ルネサス エレクトロニクス、大塚家具、リケンなどです。

ロート製薬はEY新日本に変更した理由を「タイムリーに連携の取れたグループ監査」をできることだと挙げています。
大塚家具退任はEY新日本からの提案であり、その理由は「当社の経営環境の変化に伴う監査工数の増大を理由に契約更新を差し控えたい旨の申出を受けました」と開示されています。
また、リケンは「監査報酬増額の打診を受け」と、変更の理由が金額の折り合いがつかなかったことだとはっきり明言しました。

④ PwCあらた:監査クライアント数の増加が顕著

4法人の中で唯一、監査クライアント数、非監査クライアント数ともに増えています。
今期新たに獲得した監査クライアント先は、レーザーテック、カゴメ、ルネサス エレクトロニクス、丸井グループなどです。

PwCあらたに監査人を変更した理由を、カゴメの場合は「IFRS(国際財務報告基準)の任意適用」をきっかけとしています。また丸井グループは、「当社独自の小売とフィンテックが一体となったビジネスモデルへの理解度等を総合的に勘案した結果」としています。

〇監査人交代理由の明記で見えてきたもの

今までは形式的に監査人変更を「任期満了に伴い」とだけ表現するのが通例でしたが、金融庁「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」報告書や東京証券取引所の改訂版「会社情報適時開示ガイドブック」で、監査人交代の理由を記載することが要請されたため、交代理由がはっきり開示されるようになりました。
BIG4からBIG4への異動の場合、監査継続年数を理由とされることが多いようです(レーザーテック、ルネサス エレクトロニクス、丸井グループ)。

大手から中堅~中小に変更する理由としては、「現会計監査人の監査継続年数が長期に渡ることや監査費用の相当性等を総合的に検討した結果」など、報酬面での折り合いを強くうかがわせる発表が多数なされています。また、大塚家具のように監査人からの辞退があった旨を正直に記載した変更理由を開示している企業もあります。この大塚家具のような例は増えており、監査報酬と監査リスクが釣り合っているかをよく吟味し監査を引き受けるよう各監査法人が方針転換していることが分かります。

ブラックボックス化していた企業と監査法人の関係がステークホルダーに開示されていくのは歓迎すべき変化だといえるでしょう。

〇監査法人を変更する場合BIG4から中堅以下の流れ続く

公認会計士・監査審査会の「令和元年版 モニタリングレポート」によれば、監査人の異動件数は過去5年で最多(合併除く)となっており、中でも大手監査法人から中堅以下の監査法人へ変更となる傾向は続いています。

とはいっても、上場会社におけるBIG4の監査業務シェア率は実に96%を占める寡占状態という現状は変わりません。特にグローバル企業にとってはIFRSの適用などグローバルファームでなければ対応できない業務内容も多く、そうそうBIG4寡占状態が変化することはなさそうです。

 

※参考資料
有限責任監査法人トーマツ:第52期 業務及び財産の状況に関する説明書類

有限責任あずさ監査法人:第35期 業務及び財産の状況に関する説明書類

EY新日本有限責任監査法人:第20期 業務及び財産の状況に関する説明書類

PwCあらた有限責任監査法人:第14期 業務及び財産の状況に関する説明書類

金融庁:「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」報告書

公認会計士・監査審査会:令和元年版 モニタリングレポート

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