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【“旅する女性タックスアドバイザー” 世界の税金問題】第26回/新型コロナウイルス感染症の流行から国際機関のコンテンジェンシーファンドの役割を再考

人気連載第26弾! 東京、ニューヨーク、香港と渡り歩いた税制コンサルタントMariaが、あらゆる国の税に関するエピソードをご紹介。今回は、世界的な広がりを見せる新型コロナウイルス感染症(COVID-19) の脅威を受け、私たちの税金がどのような形でパンデミック(世界的大流行)への対策費用として使われるのかを説明します。

新型コロナウイルス感染症の流行と香港の現状

昨年末に中国の湖北省武漢市で新型コロナウイルス感染症が報告されて以来、その感染者数は増加の一途を辿っています。このコラムを書いている2月25日現在、世界的な患者総数は8万人を超えました。そのうち2万5千人強はすでに回復済みである一方、死者は2600人を超えてしまっています。

香港に住んでいる私たち一家は、このウイルスの流行が報告された後、すぐに日本へ避難することを検討していました。香港は武漢から少し距離があるものの、中国本土からの人の流入が大変多く、大流行の波がやってくるのではと危惧したためです。

しかし、仕事等の調整で帰国の段取りを足踏みをしている間に、日本での症例の増加を目の当たりにしました。日本国内ではすでに146人もの感染が確認されており、香港の79人よりも多くなってしまっています(どちらも2月25日現在の公表数)。そんなわけで、香港に立てこもる方針へ切り替えて過ごしている・・・といった次第です。
今回はこの場を借りて、香港での現状を紹介したいと思います。また、パンデミックに備えるために、各国が国際機関へ行う資金拠出の制度についても紹介させていただきます。

コロナ対策の一環で、香港のパン屋さんではすべてのパンが個別包装になりました

香港ではこんなことが起こっています

さて既述のとおり、香港では2月25日現在、79人の感染が公表されています。

香港は本土中国と陸続きです。境界の向こう側である広東省ではすでに1345人の感染が確認されています。なぜ香港では、感染者数の抑え込みに成功しているのでしょうか。

香港は、2002年から2003年にかけてSARSの大流行を経験しました。その経験から、前倒しの対策と情報の公開を徹底しており、これらが感染を抑えることに成功しているのではと考えられます。

前倒しの対策として、まずは水際対策を徹底しています。香港へは元来中国本土から通勤や通学をする人も多いのですが、現在は空港と深センからの道路を除き、本土との国境は閉鎖されています。これらから入国した場合であっても、14日間は自宅か宿泊先で待機観察措置が取られています。

集団感染を前倒しで防ぐために、職場と学校が1月下旬から閉まっていることも徹底した対策のうちの一つです。流行が広がりつつあった1月下旬から、多くの職場が閉まりました。公務員は自宅勤務が命じられ、それに倣い、民間企業でもほとんどが従業員に自宅勤務を命じています。

学校はもともと旧正月休暇に入っていましたが、そのまま一度も再開することなく、少なくとも3月16日までの閉校が政府から命じられています。

情報公開は、驚くほど詳細に、かつオンタイムで行われています。どのマンションの何号室に住む人が感染したのか、どのナンバーのタクシーを運転する人が感染し、その人の経路はどこだったのか等が政府により公開されています。

このような情報が正確に公表されることで、市民は日常生活を送りやすくなっています。この点について、感染者のプライバシーが議論になるところでもあると思うのですが、目的とするのは二次感染を徹底的に抑え込むことですので、どちらを大切にするかとなった際、SARSを経験した香港にとっては、正確な情報公開を選択したのだと思います。

情報公開の一環として、以下、政府のガイドラインが香港中の建物に張り巡らされています。

街のあちこちに貼られている政府発行のポスター

マスクは意味があるのか、ないのか、熱が出たら医療機関に行くべきなのか、自宅待機をするべきなのかとさまざまな情報が飛び交っていますね。そのあたりを、政府が分かりやすくポスターにまとめたものです。

マスクはするべき(鼻まで覆う)、体調が悪かったらマスクをして医療機関に行くべき、が香港における公式見解のようです。加えて、手は20秒以上洗う、トイレを流すときにはフタを閉める、家から働く等々、広東語と英語で公表されています。

・・・と、香港の素晴らしい(と思っている)対応について紹介しましたが、ヒヤッとすることもありました。それは物資の買い占めです。

多くの学校や職場が閉まり、家に籠る人が増えたことや、中国本土からの物資供給がなくなるという噂が起こったことにより、トイレットペーパー、米、カップラーメン、缶詰等の買い占めが起こりました。写真のとおり、一時期はスーパーのコーナーごとすっからかんな状態でした・・・。

何もない…

この現象は2月初旬に起こったものでした。2月中旬にはすでに落ち着きましたが、我が家には赤ちゃんがいるため、物資がなくなったらどうしようと少し怖くなりました。

“パンデミックとネグレクトのサイクル”と揶揄される、国際機関の資金調達

パンデミックが起こる際、国際機関の役割がとても大切になります。それは各国が自国の予算では賄えない部分の、緊急対策費用を提供することが可能であるからです。

2003年のSARS大流行や2014年のエボラ出血熱大流行の際、WHOをはじめとする国際機関が躍起になって資金提供策を講じ、各国や各政府団体へ拠出の呼びかけをしました。しかし一旦パンデミックが収まると、資金調達の優先度が下がり、その活動がスローダウンする傾向にあります。

こういった経験から、パンデミックへの資金提供は、“パニックとネグレクトのサイクルだ”と揶揄されてきました。

(参考:Brookings Institution、“Preparing for pandemics such as coronavirus—will we ever break the vicious cycle of panic and neglect?”)

 

WHO(世界保健機関)のContingency Fund for Emergencies (CFE)や、世界銀行の Pandemic Emergency Financing Facility(PEFF)、世界経済フォーラムのCoalition for Epidemic Preparedness Innovations (CEPI)等は、パンデミックに備えるための資金プールです。今回のコロナウイルス感染症対策費用への拠出は、どうなっているのでしょうか。

世界銀行のPEFFは途上国向けの資金プール、世界経済フォーラムのCEPIはワクチン開発用の資金プールです。従って、WHOのCFEに焦点を当ててみたいと思います。

WHOは2月5日に、コロナウイルス感染症対策費用としてUS$675 millionが必要であると公表しました。といっても、この全額がCFEから拠出されるわけではありません。これまでCFEからは、$9 millionが拠出されましたが、実はCFEには、そこまで大きな資金プールはありません。

CFEは2015年に創設され、各国からの任意の拠出で成り立っています。しかしながら、2015年から2019年までの拠出額総額は、実はたったの$126millonしかありません。コロナウイルス感染症への対策費用と比べると、とても小さいことが分かります。

以下の図は、これまでのCFEへの拠出額トップ10と、その内訳です。ドイツ、日本、イギリスが大きな拠出をしていますが、4位以降は拠出額が大変小さくなっています。経済規模で日本を大幅に上回る中国は拠出額11位でランク外、米国に至っては拠出がありません・・・。緊急時に備えるためのファンドのはずですが、備えが足りていないことが分かります。

 

(参考:World Health Organization、CFE contributions 2015-2019)

上記のとおりCFEでは対策費用目標額に到達しないため、コロナウイルス感染症緊急対策費用として、WHOは各方面に$61.5millionに上る資金提供を求めています。下のグラフは、WHOが公表している、2月21日時点での資金調達の状況です。

(参考:World Health Organization、Contributions to the WHO COVID-19 appeal for US$61.5 million)
  • Funding received(青)は、すでに資金を受領したものを指します。目標額の2%相当である、US$1.2 millionがすでに拠出されています。その内訳は、アイルランド($550,000)、スロバキア($220,000)、Vital Strategies/Resolve to Save Livesという非政府組織($500,000)です。
  • Funding pledged(オレンジ)は、拠出の約束がなされている額です。目標額の3%相当である、US$26 millionを受領予定です。約束額の内訳は公表されていませんが、拠出者はBill and Melinda Gates Foundation、カナダ、チェコ、日本、ノルウェー、イギリスが資金提供者です。
  • Funding gap(グレー)は、目標額と上記2件の額との差額を示します。各団体からの協力が求められます。

 

大国としての役割が求められるアメリカ、中国、ロシア、フランス等からの拠出や資金提供の約束がないこと、そして自身が被災地となっている日本がCFEだけでなく、この緊急対策費用へも拠出を約束していることは驚くべき発見です。また、拠出者には非政府組織や、ビル&メリンダ・ゲイツ財団が含まれています。ビル&メリンダ・ゲイツ財団は、中国へ緊急対策費用として$100 millionまで拠出の用意があると伝えたことでニュースにもなりました。

これらの事実をまとめてみると、国際機関によるパンデミックへのパニックとネグレクトのサイクルは、残念ながら今回のコロナウイルス感染症でも繰り返されてしまっているように感じます。大国の意識が低いことが明らかですが、同時に、日本は相対的に、国際機関へ大きな貢献をしていることが分かります。

日本は間違いなく高税率国のうちの一つです。直近の消費増税もあり、国内的な負担感は増える一方かと思います。しかし日本の歳入がどのように使用されているのかに着目してみると、今回の事例のように、国際的な問題へ日本が大きく貢献していることも明らかになります。

国内へのリソースの配分が十分かどうか・・・が新たな議論になるかと思いますが、納税者として、日本の各方面への拠出を調べてみるいい機会かもしれません。

 

今回のまとめ:

手洗い、うがい、アルコール消毒、トイレのフタは閉めて流す、人混みを避ける等々の対策を十分に、気を付けていきましょう!

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著者: ワタナベマリア

旅するタックスアドバイザー

香港在住の税制コンサルタント。過去に東京、ニューヨーク、香港にて国際税務アドバイザーの仕事を行う。世界中を旅する会社人に各国の税制のアドバイスを行う中で、制度比較から見えてくる税金のおもしろさを広めようと執筆を始める。法学修士(香港大学)。慶應義塾大学法学部卒。

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