長野・松本市と松本商工会議所などが連携し、興味深いビジネス実験が行われた。会計・給与・販売仕入管理業務などの、いわゆる管理系業務をテレワークで行い、新たな地方事業モデルを創出しようというのだ。実はこの事業モデル、会計事務所にも影響してくる可能性がある。松本市のテレワーク事業とはどのようなものだったのだろうか。実証実験の運営に携わったノークリサーチの伊嶋謙二代表取締役社長、木村知司研究員、そして、スマイルワークスの坂本恒之代表取締役社長に話を聞いた。(聞き手=宮口貴志)
・・・松本市でさきごろ実施した、会計・給与・販売仕入管理業務などのテレワークは、地方の雇用創出及び新ビジネスモデルとして関心が集まっていますが、事業の詳細を教えてください。
伊嶋 この事業は、総務省の「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」において採択された、横須賀・松本商工会議所地域連携モデル(今回は松本地区の事業を切り出して説明)として実施されたものです。松本地区ではシステム開発と会計関連業務、二つの事業を行いました。システム開発は富士通マーケティング、会計関連業務はスマイルワークスが実証事業を担当しました。今回お話する会計・給与・販売仕入管理のビジネスモデルについては、松本市役所、松本商工会議所、会計・給与・販売仕入管理などの統合業務システムサービスをクラウドで提供するスマイルワークス(東京、社長=坂本恒之氏)、IT市場の調査やコンサルティングを専門に行うノークリサーチ(東京、代表=伊嶋謙二氏)が共同で手がけたものです。
2015年9月から2016年2月までの6カ月間、スマイルワークスがサテライトオフィスを松本市内に設け、テレワークを実施しました。テレワークは、パソコンとインターネット環境が整っていれば、いつでもどこでも仕事ができ、在宅勤務を可能にする新たな働き方です。今回のケースでは、業務管理のクラウドシステムを活用し、地元のテレワーカーに伝票入力などの記帳代行業務を行っていただきました。
ワーカー採用が予想以上に上手くいく
・・・今回の事業目的である雇用創出に関して、テレワーカーの採用が非常に上手くいったと伺っております。
木村 実は、採用ハードルを高く設定していたので、当初はテレワーク募集セミナーの集客についても、10人程度集まればよいと考えていました。集客できても20人程度だろうと。しかし、ふたを開けてみたら、セミナー集客は42人の参加申込があり、実際の参加も34名(男6女28)と予想以上でした。参加者は、会計処理の希望者が約25名、別事業モデルのシステム開発希望者が10名弱でした。会計処理希望者の8割以上が簿記2級以上の有資格者で、過去に会計事務所に勤務をしていた方をはじめ、金融機関の経理担当だった人も居ました。予想以上にハイスキルの方の応募があったのが驚きでした。今回の実証実験では、経理の入力代行者だけでなく、プログラマーも募集していたのですが、入力代行の募集枠は当初の3人から6人へと倍増。プログラマーも2人の採用枠を4人に広げることになりました。
・・・最近は、大都市でも人材採用が難しくなっており、地方都市では、会計事務所がパート職員を採用するのも苦労していると聞きます。そうした状況下、入力代行とは言いつつも、経理業務経験者などを集めることが出来たのはどうしてなのでしょうか。
木村 要因は幾つかあります。実は、松本市でビジネス実験を行うに当たり、松本市には商業高校があり、その卒業生である主婦の方々が集まるのではないかと考えていました。それと、夫の転勤などを理由に松本市で暮らしている主婦です。子どもが幼稚園や学校に行っている時間などを利用して仕事ができるテレワークは魅力的に映ると思っていました。
あとは、こうした主婦層にどのように情報を届けるか、そこが一番のポイントでした。知名度の低い企業が募集しても、ここまでスムーズに集客できなかったと思います。
ところが今回の事業は、総務省の地域実証事業であり、松本市と松本商工会議所の連携実験ビジネスです。知名度、社会的な安心感は格段に違います。商工会議所の協力で、チラシなど数多く配布できましたし、松本市役所の方、松本商工会議所の方が、大学や専門学校に募集のお願いに同行してくれる等の尽力をいただいたことが大きかったです。また、地元テレビ局や新聞なども取り上げてくれ、多くの方に情報を伝えることができたのが何よりアドバンテージになりました。
こうした要因が複合的に重なり合い、予想以上の集客が実現できたものと考えます。これは、地方で同様の事業を展開するときのよい経験となりました。つまり結論としてはフルタイムでは難しいが、自分の職務能力を活かして、自分の都合の良い時間を活かして、テレワークでなら働きたいという潜在的なお母さん方が多いということが分かりました。おそらく日本のどこでも似たような状況でしょう。