社会ニーズの高まりとともに拡大している訪問看護ビジネス。急速に成長を続ける裏では、公認会計士や税理士といった専門家を求める声も高まっている。会計事務所の新規顧客として注目の訪問看護業界に迫った。
訪問“看護”と訪問“介護”の違い
訪問看護と訪問介護、どちらも患者や高齢者の自宅へ訪問して療養上のサポートをするという点では同じだが、提供するサービスの範囲が全く異なる。
訪問介護を提供するホームヘルパーの役割は、食事や入浴、排せつのお手伝いや体位変換など、あくまで生活の手助けという位置付けであるのに対し、訪問看護では、看護師が血圧測定や注射、点滴、床ずれ処置など医療行為をすることが可能だ。看護師の役割はさらに拡大している。これまでは、逐一医師の指示を仰ぐ必要のあった看護師が、事前の医師の指示に基づき、看護師自身が自ら判断をして処置をする場面が今後訪れる。そのための看護師向け研修も、2015年から開始された。アメリカなどの看護先進国では一般的だったものの、日本では遅れていたこうした現場の看護師の判断の重要性がようやく浸透している。現場の判断が大切になる訪問看護ではなおさらで、判断基準の統一といった看護の質の標準化が急務となっている。
成長産業の訪問看護業界
訪問看護ステーションは、看護師が3人いれば開業できるため、医療業界とは全く異なる業種・業界からも新規参入がしやすい事業だ。
2011年、全国に5700件ほどだった訪問看護ステーションは現在1万件を超えており、その8割は民間企業が運営している。これまで、飲食店や小売店などまったくの異業種だった経営者までもが、訪問看護ステーションの開業をし、規模を拡大している。
儲かるというイメージがあまりない看護ビジネスだが、中には月商2000万円、利益1000万円以上を出す経営者もいる。利益率50%、ここまでイメージと違うビジネスはなかなかない。
「50%の利益率を出す経営者には、正しい事業計画を書くスキルが必要」と語るのは、訪問看護ステーションの開業運営支援を手掛け、4年で560社にまで支援先を拡大したインキュベクス株式会社(神奈川・横浜市)の上村隆幸代表取締役。同社は経理・会計分野の専門家である岩崎哲也氏の協力を仰ぎ、訪問看護ステーションの開業運営支援の中で、管理会計の勉強会などのスタッフ教育を継続的に行い、支援先数と支援先の事業規模を拡大させている。
高齢化や医療政策の変更により在宅看護を必要とする人の数も増加。上村氏によれば、その数は40万人以上。顕在化していない数も含めれば、その数は計り知れず、「今後ますます訪問看護業界は拡大していく」(上村氏)と指摘する。