2016年の路線価が7月1日に国税庁から発表されたが、今回の特徴は、全国平均では対前年比で0.2%上昇したものの、地方都市の多くが依然下落している。路線価は、都市部と地方の二極化が鮮明になった格好だ。
路線価が全国平均でリーマンショック以来、対前年比で8年ぶりに上昇した。全国平均の路線価は、前年比で0.2%増加。すでに3月に発表された公示地価も、すべての種類の用地で8年振りに上昇しており、路線価も同様の結果になった格好だ。
そもそも路線価は、主要道路に面した宅地、田、畑、山林などの土地の公的な価格指標で、相続税や贈与税の課税額を算定するために使われる。国税庁が毎年7月に全国約36万地点について、1月1日時点の1平方メートル当たりの価格を千円単位で公表している。評価としては、3月に発表される公示地価(毎年1月1日時点での標準値の価格)のおおむね80%の水準となっているのが特徴だ。
最高額は東京・銀座の3200万円
都道府県別に路線価を見ると、14の都道府県で上昇している。具体的には、従来から上昇していた東京、神奈川、大阪、愛知、京都、千葉、埼玉、福島、宮城、沖縄に加え、今回は北海道と広島、福岡、熊本の4県が加わった。
都市別の路線価については、東京・銀座が最高を記録。東京都中央区銀座5丁目の銀座中央通りで、3200万円。前年比で18.7%上昇した。
上昇率でも、二桁以上の路線価上昇を実現したのが、大阪府大阪市北区角田町の御堂筋が最も大きな伸び率を示し、前年比で22.1%の上昇し、2016万円となっている。ほかにも、愛知県名古屋市中村区名駅1丁目の名駅通り14.1%の上昇となり840万円だった。また、福岡県福岡市中央区天神2丁目の渡辺通りも12.0%上昇し、560万円となっている。
こうした路線価の上昇は、アベノミクスによる景気回復と、日銀による金融緩和の影響で不動産投資が活発になったことが大きい。また、訪日外国人客の需要も路線価を押し上げた要因となっており、東京を中心に近隣する都市では再開発や出店ラッシュが進んでいる。
たとえば、神奈川・横浜市では路線価が前年比で9.5%、千葉・千葉市が同2.8%、埼玉県さいたま市が同7.0%、それぞれ上昇している。東京周辺以外でも、訪日観光客数が伸びている地域においても、路線価を押し上げている。福岡・福岡市などの地方の中核都市では、ホテルの建設や地場大手開発業者による再開発ビルの建設計画が路線価にも波及。また東日本大震災で高い住宅需要がある宮城県なども、金融緩和を背景にした不動産の取得が活発で、路線価も堅調だ。
一方で、路線価が下がっている都道府県は全国33県。うち29県で下落幅が減少している。都道府県庁所在地で下落したのは、青森・青森市(下落率3.1%)、秋田・秋田市(同3.8%)、茨城・水戸市(同2.0%)、新潟・新潟市(同2.2%)、鳥取・鳥取市(同4.3%)などで、2015年の12都市から5都市に減少した。
多少回復傾向の見える路線価だが、まだ都市部の上昇率でカバーしているに過ぎない。全国で見れば、まだ路線価は低空飛行というのが現実だ。
これは、アベノミクスや異次元金融緩和などによる景気回復効果が地方には行き渡らず、人口減少や少子高齢化の影響を大きく受けたことが要因と推察される。
公表された路線価は、4月に発生した熊本地震の影響は織り込んでいない。2016年熊本は上昇に転じているものの、地震の影響で評価額が低くなる可能性もあり、来年度以降の路線価に影響するものと考えられる。
首都圏では東京五輪が追い風となっていることは間違いないものの、継続して上昇するかは不透明。識者からは、「全国平均では上昇に転じたが、それだけで地価が好転しているとは言い難い」との指摘もある。
路線価上昇で相続税・事業承継に影響
所有する土地の評価額が上がれば嬉しいものだが、一方で頭を抱える人もいる。実は相続税の観点からは、税負担が増えることになる。そのため、相続や贈与、事業承継を控えている人は注意が必要だ。とくに、相続財産の大半が不動産という人。売却できる不動産なら良いが、居住もしくは他の用地として使っている場合など、別途納税資金を工面しておく必要がある。また、事業承継絡みでは、会社で土地などを複数個所所有していると、自社株評価に大きく影響してくるため、対策の見直しなどにもつながりかねない。
税額を減らすための相続対策はさまざま方法がある。とはいうものの、最適な対策は、世帯、家族、財産の状況によって異なるため、税理士などの専門家のアドバイスを受けながら、自分たちにとって最適な方法を見つけたい。