税務のコーポレートガバナンス?聞きなれない言葉かもしれないが、現在、国税当局が取り組む重要事項のひとつだ。大企業向けに、税務のコーポレートガバナンスの充実を促し、実績評価が高ければ、税務調査にインセンティブを与えるもの。税務は会社全体の問題であり、多額の帳簿否認ともなれば、経営責任が問われかねない。そこで、国税当局が重視する「税務のコーポレートガバナンス」とはどんなものなのか迫ってみた。

税務を取り巻く環境は、ますますタックスコンプライアンス重視の方向に進んでいる。国税庁は「納税者の権利利益の保護を図りつつ、適正な調査・徴収を行う」ことを目的に、平成23年から、大企業を中心とした「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取り組み」に注力している。なぜなら、「企業と税務当局の双方にメリットがあるから」と国税庁は説明する。大企業だと、税務に関するコーポレートガバナンスが不十分であるがゆえに、支店や海外子会社など、目の届かない部分で不適切な経理処理が行われる。一方で、課税当局としては、無駄な経費の削減が迫られる中、納税意識の高い企業に調査コストを割くより、企業との信頼関係を作り、効率的に税務調査を行っていくほうが効果的と考えているためだ。

国税庁が普及に努める「税務のコーポレートガバナンス」の対象法人は、全国の国税局調査部が担当する「特別国税調査官所掌法人」。具体的には、資本金または出資金が40億円以上の法人のうち、課税当局が特別に調査力を投入する必要があるとして、国税局長が指定した法人を指す。その数は、全国で約500法人だ。
ここで簡単に、国税局調査と税務署調査との違いを説明すると、法人税を例に取れば、国税局は資本金1億円以上の大法人を中心に調査し、税務署はそれ以下の中小法人を調査する。言うまでもなく、税務署よりも国税局のほうが税務調査官の能力も高く、マンパワーがあるので、その分税務調査は厳しくなる。大法人であると、調査にかける時間も数倍近くかけてじっくり行う。

その国税局は全国に、札幌、仙台、関東信越、東京、金沢、名古屋、大阪、広島、高松、福岡、熊本、沖縄(沖縄は沖縄事務所)の12カ所あり、税務署はこの国税局管轄のもと、全国524ヵ所に設置されている。隠語ではあるが、国税職員は、国税局を本店、税務署を支店と呼ぶ。そのため、税務署長になると、「あの人、○×の支店長になった」などと言われる。

課税当局が企業をランク付け

さて、国税庁の「税務に関するコーポレートガバナンス」の大企業への普及方法だが、基本的には、調査の機会を利用して行われている。例えば、経営責任者等と意見交換を行い、その際、税務に関するコーポレートガバナンスの効果的な取組事例などを紹介しているのだ。
企業が、「税務に関するコーポレートガバナンス」状況が良好と判断され、税務調査の必要度が低いと認められると、税務調査の間隔が延長される。

具体的には、税務調査の際に「確認票」を用いて、税務に関するコーポレートガバナンスの状況を把握する。国税当局では、確認表をベースに企業をABCなどのランク付けを行い、ガバナンスが良好と判定すると、過去の調査状況にもよるが、問題がなければ調査間隔を伸ばす。たとえば、2年1回調査していた企業であれば、3年に1回、4年1回など、調査サイクルを延ばす。
「確認表」の概要は、
1.トップマネジメントの関与・指導
2.経理・監査部門の体制・機能の整備
3.内部牽制の働く税務・会計処理手続の整備
4.税務に関する情報の社内への周知
5.不適切な行為に対するペナルティの適用
となっており、5分野(合計27項目)の実施状況が記載される。
詳細は、国税庁ホームページの「申告書の自主点検と税務上の自主監査」http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/hojin/sanko/tk.htmに掲載されている。

第16回国税審議会の説明資料によれば、平成23事務年度から平成25事務年度において、コーポレートガバナンスに係る確認票の記入を求めたり、企業トップとの意見交換を行ったりした回数は延べ467回。さらに、コーポレートガバナンスの良好な法人に対して、一定要件を条件に調査間隔の延長の措置を講じた法人数は平成24事務年度以降十数社程度という。大企業とは言えども、税務のコーポレートガバナンスの拡充の理解を得るには、まだ暫く時間が要するようだ。