5.その他

ここまで損益計算書を中心に見てきましたが、それ以外で金額的に大きな項目をとりあげます。

(1) 現金及び預金

* 支払日ベース

人件費が主な費用となる監査法人では手元資金を厚めに確保しておく必要がありますが、EY新日本の貸借対照表を見ると、2017年度末の現預金は84億円に留まり、他の年度と比べると総資産に占める割合も低いものとなっています。
同時期の他法人の状況を見てみると、トーマツは262億円(43%)、あずさは301億円(46%)となっています。この時期、EY新日本の現預金がいかに少なくなっていたか、苦しい懐事情が垣間見えます。

(2) 社員退職引当金

社員の退職に対する引当金が計上されていることも特徴的です。
なお2016年度に年金制度改定が行われていますが、社員1人当たりの引当金で見るとさほど大きな変動はありません。なお金額的には1人当たり30百万円ほどとなっています。

(3) 投資その他の資産

2018年度末まで関係会社社債、貸付が計上されています。関係会社社債については資金繰りが厳しかった時期に償還があったようで、2018年度末にはオフバランスされています。また長期貸付金については、前述の2016年度に貸倒引当金を計上し、2019年度に回収したためオフバランスしていると思われます。こちらは関係会社に対するものではないようですが、貸付先はどこになるのでしょう。

あずさのところでも見ましたが、この辺りの資金の流れは不透明な印象です。業績も含め、連結ベースでの開示がないのが残念なところです。

(4) 配当
EY新日本は無配です。

最後に

4大監査法人のうち、業務収入で3位につけるEY新日本の決算を5期にわたって見てきました。
一連の会計不正問題は、数年にわたってEY新日本の業務収入のみならず組織、人員構成、また資金繰り等にも影響を及ぼしていたようです。2019年前後を境に業績は回復基調となり、2020年度は3期ぶりに業務収入1,000億円を達成。またここ数年は人員の面でも安定しているようです。利益面では引き続き低迷しているものの、IPOでは3年連続首位となる等、ポジティブな要素も見えてきており、再度業界首位に戻れるか、注目が集まります。

 

【脚注・出典】
*1 各法人の「業務及び財産の状況に関する説明書類」については以下を参照
有限責任監査法人トーマツ:
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/audit/stakeholder.html
有限責任あずさ監査法人:
https://home.kpmg/jp/ja/home/about/azsa/stakeholders.html
EY新日本有限責任監査法人:
https://www.shinnihon.or.jp/about-us/our-profile/stakeholder/
PwCあらた有限責任監査法人:
https://www.pwc.com/jp/ja/about-us/member/assurance/public-inspection.html

*2 監査法人(規模別)業務収入推移

令和2年版モニタリングレポート(公認会計士・監査審査会)より集計

*3 「2020 年 IPO 総まとめレポート」、東京IPO、
https://www.tokyoipo.com/column/tokyoipo_2020_IPOreport.pdf

*4 トーマツの2017年度非監査業務収入は186億円だが、2017年度は決算期変更に伴い8か月の変則決算だった。12か月の年間ベースではトーマツがEY新日本を上回ると仮定。

【参考】
「令和2年 モニタリングレポート」、公認会計士・監査審査会、
https://www.fsa.go.jp/cpaaob/shinsakensa/kouhyou/20200714/2020_monitoring_report.pdf


バナーをクリックすると㈱レックスアドバイザーズ(KaikeiZine運営会社)のサイトに飛びます

最新記事はKaikeiZine公式SNSで随時お知らせします。

 

◆KaikeiZineメルマガのご購読(無料)はこちらから!
おすすめ記事やセミナー情報などお届けします

メルマガを購読する