● 正味作業、付随作業、ムダな作業
トヨタの現場カイゼンでは、ひとつの作業を「①正味作業」、「②付随作業」、「③ムダな作業」に分けて分析します。洒落た言葉で言えばIE(Industrial Engineering:生産工学)の基礎的な手法のひとつですが、難しい数式を使うわけではなく極めて直感的なものです。

例えば、ネジを締める作業。
ドライバーでネジを締めるという作業は「①正味作業」、つまり付加価値を産んでいる作業です。またそのためには、ネジとドライバーを手に取るという「②付随作業」も必要です。しかし一連の作業をよく観察すると、それ以外の作業があることに気がつきます。ネジを取るために一歩移動する動作、ドライバーを左手から右手に持ち替える動作…。これらが「③ムダな作業」といわれるものです。
冒頭のコピー・スキャンという作業では、わざわざ自席に戻ってホチキスを外す作業はまさに「ムダな作業」です。ま、観察しなくてもわかりますよね。(苦笑)
でも「ムダな作業」に気がつかない。
いや、きっと気がついていないわけではないと思います。
おそらく「カイゼンの効果」に気がついていないのでしょう。ムダな作業をなくすために「テーブルを持ってくる」ということの方が労力もかかってムダだと思っている。というか、ただ面倒くさいと思っている。そういうことなのではないかと思います。
しかし、考えればわかるように、テーブルを持ってきてカイゼンした効果は、そのあとずっと続きます。そしてその効果は一人にとどまらず所内全体に及びます。無意識のうちに全員がそのカイゼンの効果を享受し続けるのです。
テーブルを持ってきて置くだけなら、10分もあればできます。それによって1分仕事が早くなるのであれば、10人いれば10分。1日で元が取れます。それが1ヵ月、1年、2年…と続けば、新しい時間が生まれ続けることになるのです。
●「困らん奴ほど、困った奴はいない」
テーブルを置くだけ。どうですか、本稿のタイトル負けする本当に小さなカイゼンですよね。でも本当にそうだったんです。やりにくいことを何年もそのままやっていたんです。
「困らん奴ほど、困った奴はいない」
これはトヨタ自動車㈱の元・副社長、大野耐一氏の言葉です。
私はわりと困るタイプの人間なので、このテーブルの件以降、困ったことをいろいろカイゼンしてきました。
・複合機の横のテーブルに事務所共用のホチキスを置いた。
・「FAX済」のスタンプを、複合機の横のテーブルに置いた。
(せっかくスタンプがあったのに、ロッカーの中に眠っていた)
・付箋やホチキスの芯などの文房具の整理棚を買った。
(それまでは籠の中にガサッと入っていた)
・空のクリアファイルの置き場所を決めた。
(それまでは各人が引き出しの中にストックしていた)
・一番上の棚から書類を取るとき用の踏み台を100均で買ってきた。
(それまではわざわざ脚立を引っ張り出していた)
・出退勤・行き先ボードを大きくした。
(それまでは小さくて、遠くの席からだと字が読めなくて電話の取次ぎが大変だった)
・自宅の使っていないテレビ(37インチ)を持ってきて全体会議や研修用にした。
(それまでは、その都度プロジェクターをロッカーから出してスクリーンに投影していた)
・自宅の使っていないモニターを会議室に置いた。
(それまでは、モニターがないので毎回紙で印刷して配っていた)
・クライアントのバインダーを番号順に並び変えた。
(それまではロッカーが担当者別になっていて他の人が書類を探せなかった)
・サーバ内フォルダのルールを決めた。
(それまでは個人別フォルダになっていてデータがどこにあるか他の人が探せなかった)
などなど…
どうですか、全然すごくなくないですか?(笑)
「それ以前に、そんな状態だったのか。」と驚かれる方もいらっしゃるかと思いますが、…そんな状態でした。



