今回お話を伺ったのは、株式会社ゼロベース代表の渡辺勇教氏。顧問先からの相談が絶えない渡辺氏ですが、独立当初は「顧問料をいただかない」という方法を取っていたといいます。それにより明らかとなった会計事務所における顧問料の意義とは?世の中の“あたりまえ”に囚われず新しい発想をし続けている渡辺氏のこれまでの取り組みと今後の展望に迫ります。(取材・撮影:レックスアドバイザーズ 村松)
会計事務所に顧問料は必要なのか。渡辺氏が見つけた答え
独立後、3年間、クライアントから顧問料をいただかなかったと伺っています。
渡辺:前職の監査法人から独立して現在に至るのですが、独立時、「会計事務所の普通」がよく分かっていませんでした。そこで他の事務所のホームページを見てみると、顧問料と決算料を合わせて一社50万円ほどとなっている。しかし私には、この顧問料というものがよく分からなかった。私が前職で関わっていたような大企業であれば、新しいビジネスを考えた、新しい取引がスタートした、という段階で顧問料が必要になります。なぜなら、その段階における税務上のリスクがあるからです。しかし街の中小企業なら春も夏も変化はない。もし何か書類や雇用に関して分からないことがあっても、今はネットで調べればどんな情報も得られます。何を相談する顧問料なのか分からないと思ったのです。
そういった疑問を知り合いの会計事務所の方に聞いたのですが、決算料の前払い、仕訳のチェック、最新情報の連絡、質問対応といった答えばかり。私が納得できる答えはありません。そこで、顧問料をいただかないという方法を取ってみることにしました。
顧問料をいただかないというのはとても斬新ですね。事務所の経営には支障はなかったのでしょうか。
渡辺:もちろんこの方法には、2つの問題がありました。一つは、決算のときになって、突然事務所へ来られても、こちらは下準備もできていないこと。そしてもう一つは、あえてオープンにお伝えすると、私の食い扶持に困ることです。
そこで、始めの3カ月で会計ソフトfreeeの入力方法をレクチャーして、残りの9カ月は同じように入力していただく方法を試してみました。freeeであれば複式簿記が分かっていない人にも使いやすいですから。そして決算期になったら、事務所へ持ってきてほしいと伝えたのです。決算の段階になって、こちらのお伝えしたとおりに入力がされていなかったら追加のお金をいただくけれども、そうでなければ追加料金はいただかないという方法でした。
それでも、3カ月話をしているうちにお客様から「やはり顧問になってほしい」と言われることが多かったのです。しかし顧問にどのようなことを聞けたらよいのかを聞いてみると「それならネットで出ていますよ」「税務署に聞けばタダで教えてもらえますよ」といったことばかりなので、基本的にお断りしていました。このまま3年目まで顧問料を貰わずにやっていました。
しかし、3年経ってやはり顧問料を払っていただいた方がいいという結論になりました。理由は、freeeの入力は誰にでもできるものではないということに気付いたからです。世の中は意外と会計事務所に頼りすぎている。書いてあることや調べれば分かることを全部聞いてくるのです。自分で調べたとしても、その調べたことが本当なのかの検証をしてほしいという不安が、顧問料を払う理由なのだと気づきました。
私が社外CFOとしてコンサルティングに入っている会社も、しっかりと数字を拝見した上で大丈夫ですというと、安心していただけます。世の中には数字が読める人は少ない。世の中のあたりまえが本当に当たり前なのか?と思うように、自分が当然だと思っていることも、もしかするとそうではないかもしれないということに気づきました。

そういった「当たり前」を改めて見直してみて、納得するまで掘り下げて、自分なりの解を得るということですね。他に、事務所を経営しながら見直したことはありますか。
渡辺:やはりコロナ禍もあり、現在ではテレワークになっています。
お客様のデータは紙ではなく全てクラウドで保管しています。だから出社してもらう理由がありません。コミュニケーションのしやすさや顔色の見えやすさはやはり出社したほうがやりやすいという気持ちもあります。ですが、この先のことを考えると、来てほしいという気持ちだけで突き進むのは時代と逆行しているのではないでしょうか。それよりもテレワークを続けながらコミュニケーションを取れる方法を探す方が、良い職場環境に近づくはずです。例えば、2週間に1回ランチ会をするなどして、現在チャレンジしている最中です。
実は、4月から入居したシェアオフィスには2人用のデスクしかなく、みんなで集まりたいと思ったら会議室を借りるしかありません。集まりたいと思ったときに集まれないのは私にとってストレスですが、あえてそういった状況を作った方がこのテレワークをより充実させようという方向に努力できるのではないかと思っています。

LGBTについての取り組みとビジネスへの想い
LGBTを支援する団体やNPO法人等で監事を務めていらっしゃるなど、会計業界以外でもご活躍をされています。このような取り組みはどのような位置づけなのでしょうか。
渡辺:私のセクシャリティは同性愛者(ゲイ)なのですが、これについては事務所の所員にも、お客様にも伝えています。前職の監査法人にいるときにはオープンにできなかったのですが、独立したからには「自分らしくオープンに生きたい」と思って、なるべく伝えるようにしています。
お客様にもお伝えしているのですね。
渡辺:はい、ご契約のタイミングで、業務に関することや当社の特色についてお話しして、そのあとで「私はゲイですけど、よろしいですか?」といった話を必ずしています。そうするとお客様は、突然何の話ですか?といった感じになるのですが、それでも私としては、お客様からも本音で話をしていただくためには自分の最も大切にしている部分を本音で話をしていきたいと思っています。
お互いにオープンな関係でお客様と関わりたいから、あえて最初にセクシャリティについてお話しされているのですね。当たり前にとらわれない姿勢などにも影響しているように感じました。
渡辺:そうですね。あともう一つ、セクシャリティが現在の私の仕事をやり遂げる上で大きな支えになっているというところもあります。私はもともと子どもが好きで、自分の子どもをもちたいという気持ちもありました。しかし自分のセクシャリティを隠したまま、結婚をして子どもが生まれたとしても、子どもに本当の私の気持ちを言えないと思いました。
では、なぜ私はそんなに子どもがほしいのかと改めて考えてみると、生きた証を残したいからだということに気付きました。しかし人が生きた証の残し方は、子どもだけではありませんよね。自分の人生を考えた際に私は何を生きた証として残せるのかと考え、出した結論が、一人でも多くの人にLGBTというセクシャリティについて知ってもらうこと。そして私がセクシャリティを公言した上でしっかりと仕事をして、成果を出すことが、セクシャリティは関係ないと世の中に認められることに繋がると思っています。

顧客のセカンドオピニオンとして価値を提供していく
今後も成果を出していくために取り組んでいきたいことは何でしょうか。
渡辺:今後は集客に力を入れていこうと思っています。ありがたいことに、現在もご紹介をいただけるようになっているのですが、集客ができるという自信を持つことができれば人材の採用など他のところにも注力できます。今考えているのは、きちんとコンサルティングを受けていない企業様へ向けて、セカンドオピニオンのような形で当社のコンサルティングをアピールすること。
現状、会計事務所のセカンドオピニオンは浸透していません。お客様にとっては、決算書を複数の視点で見てもらった方が良いアドバイスを得やすいと思います。医者にかかる患者さんも、セカンドオピニオンによって、病気の前兆が見つかって助かるかもしれない。それと同じことが、この業界にも言えます。
私自身もそうですが、独立すると人に怒られる機会がなくなります。褒められることしかなくなる。私自身も怒られたいと思うこともありますし、怒られることは貴重なのだと気が付きました。もちろん相手を怒らせないように、傷つけないようにという配慮はしますが、思ったことはきちんとお伝えしています。
また、経営者の方を支えている経理の方もまじめな方が多いので、今までのやり方が一番効率的とは限らないということは伝えていきたいです。
今はこういった私の専門性やキャラクターで組織を作っています。今後、事務所を大きくしていきたいとは思っているので、拡大するときにどうしたらピラミッド型にできるのか模索中です。
私はどんな場所であっても、自分のいる場所を楽しめるタイプなので、新しいステージとなったら、更にワクワクできるだろうと楽しみにしています。

【編集後記】
専門性はもちろん、「世の中のあたりまえ」という枠を超えて忌憚ない意見を率直に話してくださるところが、人として、プロとしての信頼関係に繋がっているのだと感じました。渡辺先生、ありがとうございました!
ゼロベース株式会社/渡辺 勇教会計事務所
●設立
2014年10月
●所在地
東京都渋谷区代々木1丁目25番5号 BIZSMART代々木335号室
●理念
チャレンジを続けるクライアントの「経営」を幅広い視野をもって
クライアントと共に真剣に考え、
クライアントの発展と成長のために全力で応える
●企業URL