4.コスト・リターン分析

ここまで見てきた費用、年収及び生涯収入をもとに、各資格の経済的価値、すなわちコストとリターンを分析していきます。コストとリターンの分析に当たっては各種指標が考えられますが、ここでは企業の投資意思決定モデルのうち、(1)投資利益率法、(2)回収期間法、(3)正味現在価値法を用います。

 

(1)投資利益率法

まず、投下した資本(コスト)に対してどのぐらい利益(リターン)が生じているかを示す投資利益率法を用いて分析します。

投資利益率(%)=利益(リターン-コスト)÷コスト×100
* リターンは手取(税引後)生涯収入

投資利益率法では値が高いほど効率的にリターンを得ていることを示し、評価が高くなります。

投資利益率法で最も評価が高いのは会計士であり、投資案件として見ると最も効率的の良い投資先と判断されます。これはコスト4位(4番目に安い)、生涯収入2位と、コスト・リターンのバランスが良いためです。2位の弁護士は生涯収入こそ1位ですが、コストは6位(最も高い)であり、投資利益率法の評価は2位にとどまります。

3位以降を見ると、3位司法書士、4位行政書士、5位社労士、6位税理士の順となっています。

税理士は年収こそ4位ですが、税理士試験合格のハードルが高く生涯収入は5位にとどまっており、またコスト面でも5位(2番目に高い)となっていることから、投資利益率法における評価は最下位となっています。

医師についてはさらに低い値となっています。こちらは年収、生涯収入いずれも弁護士を超えているものの、コストがずば抜けて高いことがネックとなっています。

 

ここで、生涯収入が最も高い医師の評価が低い点は感覚的に違和感があるのではないでしょうか。投資利益率法はコストベースの比率分析ですが、一般的に職業の経済的価値を考える場合、比率よりも理解しやすい金額(絶対額)の方が用いられ、そして医師はコストを大きく上回る収入を得られることから高評価になりやすいと言えます。また医師に限った話ではないのですが、コストの担い手(一般的には親)とリターンの受け手(本人)が異なる場合、本人にはリターンのみ帰属するためコストに対する意識は弱くなりがちです。このように比率に対する捉え方やコストの位置づけの違いにより、投資利益率法の評価と一般的なイメージにズレが生じるように思います。

感覚的なズレに加え、投資利益率法の理論的なデメリットとして貨幣の時間価値を無視している点があります。今回のように長期間にわたるコスト・リターンを分析する場合、時間価値の影響は大きくなりますので、この点を考慮しない投資利益率法にはかなりの弱点があると言えます。

このように投資利益率法にはデメリットや感覚的なズレがあります。そのため、資格取得ないしキャリアを検討する上では、例えばコストが限定されているなど、一定の条件がある場合や、または他の指標と組み合わせて利用するのが適切かもしれません。

 

(2)回収期間法

続いて、投資したコストが何年間で回収できるかを示す回収期間法により分析していきます。

回収期間(年)=コスト÷年収

回収期間法では値が小さいほど短期間で回収できる、つまり元が取れることになります。

回収期間法による評価でも1位は会計士であり、年収2位、コスト4位とバランスの良さがうかがえます。また2位弁護士、3位司法書士という順位も投資利益率法と変わらず、ここまでは1年でコストは回収できることになります。

その後、4位行政書士、5位社労士と続き、最下位は税理士となっています。

税理士はコスト5位(2番目に高い)と費用面がネックとなっていることに加え、年収も4位と中位に留まることから回収期間が長くなり、ここでは低い評価となっています。

医師に目を向けると、こちらもコストが圧倒的にかかることから手取りベースでの回収期間は5.2年となり、他の資格に比べても非常に長くなっています。

投資利益率法と同様に、コストが回収期間法の評価に大きく影響しており、コストを早期に回収する必要がある場合などには有用な指標と考えられます。ただし回収期間が過ぎた後のリターンや総リターン、またコストに対する収益性など、回収期間法では評価できないポイントもあります。さらに、投資利益率法同様、貨幣の時間価値を加味しておらず、この辺りは回収期間法のデメリットになります。

回収期間法による評価の位置づけとしては、FIRE(経済的自立、早期リタイア)を目指している、あるいは奨学金を早く返す必要がある等、特段の事情がある場合の参考情報というところでしょうか。

 

なお上記にて算出した回収期間の分母には平均年収を用いており、勤務初年度の年収ではありません。資格職とは言え、特に働き始めは平均よりも低くなることが想定されます。従って実際にコストを回収するにはより長期間が必要になるでしょう。

 

(第2回に続く)

 

【参考、注釈】

*1 コストについては下記のサイト等を参照

・資格の学校TAC、https://www.tac-school.co.jp/

・資格の大原、https://www.o-hara.jp/

・クレアール、https://www.crear-ac.co.jp/

・スタディサプリ、https://studysapuri.jp/

・ユーキャン、https://www.u-can.co.jp/

・公認会計士専門学校を学費・費用で比較(公認会計士攻略ガイド)、https://xn--6oq69csyk568c7sa.biz/

・税理士になるには?通うべき学校やかかるお金や時間を徹底解説!(SKIFULL)、https://skifull.jp/contents/column0020

・弁護士になるために必要な進路とかかる費用|社会人からでもなれる?(Mayonez)、https://mayonez.jp/topic/3181

・司法書士資格取得に要する費用を徹底解剖!(資格スクエアMEDIA)、https://www.shikaku-square.com/media/shihosyoshi/134-thorough-dsection-cost-required-judicial-scrivener-qualification/

・行政書士になるための学校、予備校、スクールと必要な費用(キャリアガーデン)、https://careergarden.jp/gyouseishoshi/gakkou/

・社労士資格を取るために必要な費用は?学習に必要な費用目安、受験料、合格後にかかる費用まで(LEGALSTAGE)、https://legal-stage.jp/compworker-qualification-cost/

 

*2 平均年収については下記のサイト等を参照

・資格の学校TAC、https://www.tac-school.co.jp/

・資格の大原、https://www.o-hara.jp/

・クレアール、https://www.crear-ac.co.jp/

・スタディサプリ、https://studysapuri.jp/

・ユーキャン、https://www.u-can.co.jp/

・平均年収.jp、https://heikinnenshu.jp/

・公認会計士の年収は本当に高いのか。年収でみる、公認会計士を目指す価値(TAC) https://www.tac-school.co.jp/kouza_kaikei/kaikei_cpa/kaikei_contents_annual_income.html

・税理士の年収を詳しく解説(BIG4・科目合格・独立開業など)(MS Agent)https://www.jmsc.co.jp/knowhow/topics/11901.html

・弁護士の気になる?年収・給料・収入(スタディサプリ)、https://shingakunet.com/bunnya/w0001/x0016/nenshu/#:~:text=%E3%80%8C%E5%B9%B3%E6%88%9029%E5%B9%B4%E8%B3%83%E9%87%91%E6%A7%8B%E9%80%A0,%E5%B9%B4%E5%8F%8E%E3%81%AF1097.4%E4%B8%87%E5%86%86%E3%80%82

・司法書士の年収はどれくらい?勤務形態別や年代別に詳しく解説(ユーキャン)、https://www.u-can.co.jp/%E5%8F%B8%E6%B3%95%E6%9B%B8%E5%A3%AB/column/column01.html#:~:text=%E5%8F%B8%E6%B3%95%E6%9B%B8%E5%A3%AB%E3%81%AE%E5%B9%B3%E5%9D%87%E5%B9%B4%E5%8F%8E%E3%81%AF%E5%AE%9F%E7%B8%BE%E3%82%84%E5%8B%A4%E5%8B%99%E5%85%88,%E7%B4%84681%E4%B8%87%E5%86%86%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82

・行政書士の年収や給料、年収UP方法を解説!(平均年収.jp)https://heikinnenshu.jp/shi/gyosei.html

・社労士の平均年収・給料はどのくらい?実態は?開業と勤務による違いも解説(アガルートアカデミー)、https://www.agaroot.jp/sharo/column/annual-income/#:~:text=%E3%81%BE%E3%81%A8%E3%82%81-,%E7%A4%BE%E5%8A%B4%E5%A3%AB%E3%81%AE%E5%B9%B3%E5%9D%87%E5%B9%B4%E5%8F%8E%E3%81%AF484.9%E4%B8%87%E5%86%86,%E5%B9%B4%E5%8F%8E%E3%81%AF484.9%E4%B8%87%E5%86%86%20%E3%80%82

・医師の平均年収はいくら?医師の働き方別、分野別、年齢別の年収も教えます!(キャリアピックス)、https://career-picks.com/average-salary/isya-nensyuu/

 

*3 手取(税引後)金額算出に当たっては下記のサイト等を参照

・月収と年収の手取り計算|給与シミュレーション(ファンジョブ)、https://funjob.jp/keisan/gekkyu/

・年収別 手取り金額 一覧 (年収100万円~年収1億円まで対応)(酒居会計事務所)、https://www.sakai-zeimu.jp/blog/archives/7051

・手取りの意味と月給・年収の額面から手取りを計算する方法(doda)、https://doda.jp/guide/oubo/tedori/

 

*4 研修医の期間は平成23年度の推計年収(1年目435万円、2年目481万円)を加算。なお推計年収は「医師臨床研修制度の評価に関するワーキンググループ(第3回) 議事次第」(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001vj46.html)を参照


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