3.請求人の主張

消費税法基本通達9-1-13(本件通達規定[1])は、その法文に忠実に解釈すると、「事業者が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときは、効力発生の日(契約日)を譲渡の時期としてもよい」という意味であり、事業者が引渡基準と契約基準を選択できることが明らかである。原処分庁の主張する本件通達規定の解釈は、文理から逸脱した恣意的な解釈である。請求人は、本件通達規定の定めに基づき、一番有利な税務処理を選択しただけである。このような税務処理は、租税回避には該当せず、また、税負担の公平を害するものでもない。したがって、本件建物等の「課税仕入れを行った日」は、本件不動産の売買契約の効力発生日の平成24年11月30日であり、本件課税期間に属する日である。


[1] 本件通達規定は、固定資産の譲渡の時期について定めるが、課税仕入れ等の時期については、同基本通達11-3-1で、「第9章《資産の譲渡の時期》の取扱いに準ずる」と定め、本件通達規定が準用されている。

4.審判所の判断

(1)法令解釈

本件通達規定ただし書は、固定資産が土地、建物等である場合において、事業者が当該譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときは、これを認める旨定めているが、本件通達規定ただし書の趣旨は、固定資産の譲渡の時期をその引渡しのあった日とするのを原則とするものの、固定資産のうち、土地、建物等については、一般的にその引渡しの事実関係が外形上明らかでないことも多いことから、契約が有効に効力を発生し、かつ、譲渡に係る経理処理を適正に行っている場合に、契約の効力が発生した日をもって譲渡の時期とすることを特別に認めることにあるものと解される。

(2)判断

請求人は、本件課税期間の消費税等について、非課税売上げの発生がなく、金地金の少額の売却に係る金額のみを課税資産の譲渡等の対価の額として課税売上割合を100パーセントにし、本件不動産の引渡しを受けていない平成24年11月30日付で経理処理した本件支払対価に係る消費税額について、本件通達規定ただし書を適用して控除対象仕入税額に算入することにより、本件支払対価に係る消費税等の額の大部分の還付を求める確定申告をすることが形式上可能となっている。

しかしながら、請求人における本件不動産の譲受けに係る各取引の経理処理をみるに、仮に、請求人において、引渡基準を採用し、本件不動産の引渡日である平成24年12月21日付で本件不動産を資産計上するなどの経理処理をし、本件支払対価に係る消費税額を同日の属する課税期間の控除対象仕入税額に算入した場合、同日以降は請求人に、住宅部分が存在する本件建物等の賃料収入(住宅部分の賃料は非課税)が発生するため、課税売上割合が大幅に低下し、本件支払対価に係る消費税等の額の大部分又は全部の還付を求める確定申告をすることができなくなると考えられる(消法30②)。このように、請求人において契約基準を採用するか引渡基準を採用するかによって、本件支払対価に係る消費税等の額の還付請求可能額が大きく異なってくるが、他方で、この点を除くと、請求人において引渡基準ではなく契約基準を採用すべき理由は特に見当たらない。そうすると、本件建物等の譲受けに係る各取引の経理処理は、本件通達規定ただし書を適用して本件支払対価に係る消費税等の額の大部分の還付を受ける目的のみで行われた経理処理と認められ、その他に合理的な理由は認められない。